【モンゴル】インクルーシブ教育事業:日本へのスタディーツアー

セーブ・ザ・チルドレンは、障害、ジェンダー、言語、宗教、国籍やその他の特徴に関わらず、すべての子どもが参加し、ともに学び、可能性を十分に発揮できるよう、個々の学習のニーズに対応した教育を提供できる環境の実現を目指しています。私たちは、このような教育をインクルーシブ教育と呼んでいます 1

モンゴルでは、2018年3月から3年間、小学校を対象とした「誰一人取り残さないインクルーシブ教育推進事業」を実施しました。2021年3月からは、小学校から中学校への移行期に注力した「モンゴルにおける義務教育期間を通した切れ目のないインクルーシブ教育推進事業2 」を実施しています。

この事業の活動として、2023年9月9日から17日まで、モンゴルの教育行政関係者と教職員計9人が日本(東京、神奈川、千葉、大阪)に訪問しました。目的は、インクルーシブ教育の実践、好事例を学ぶことで、インクルーシブ教育に関する理解を深化させ、モンゴルの教育現場での実践・政策へ反映させることです。

以下の学校や教育委員会、NPOや企業などに訪問しました(訪問順:敬称略)。

◆ 2023年9月11日(月)
・神奈川県立厚木西高等学校: 神奈川県のインクルーシブ教育実践推進校としての取り組み

◆2023年9月12日(火)
・茅ヶ崎市立第一中学校: 神奈川県教育委員会の「みんなの教室」モデル校3 としての指定以降の、学校を挙げてのインクルーシブ教育推進の取り組み

◆2023年9月13日(水)
・杉並区立済美教育センター: 学校経営支援チームにより自立的・協働的に考える学校を支援する同センターの取り組み、月森久江 指導教授4 による、発達障害、認知特性に応じた指導法やフィンランドでのインクルーシブ教育の取り組みに関するご講義
・NPO法人ちばMDエコネット: ノーマライゼーション学校支援事業(障害のある子どもの学校生活の相談を受ける事業)

◆2023年9月14日(木)
・大阪市教育委員会:特別支援教育の充実を通じたインクルーシブ教育システムの構築と推進、障害のある子どもの小学校就学支援
・株式会社ノーサイド:重度障害のある子どもにかかる同社の事業、特にアート活動やF.C.大阪との共同事業など地域とつながる試み

◆2023年9月15日(金)
・豊中市教育委員会:豊中市の「ともに学び、ともに育つ」教育
・南桜塚小学校:人権教育を基礎とし、すべての子どもたちが「一緒に学ぶ」インクルーシブ教育の取り組み




筑波大学人間系教育学域 川口純准教授によるご講演「インクルーシブ教育の世界的な潮流および日本の現況」(セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン東京事務所にて)


各組織への訪問が始まる前の9月10日には、筑波大学人間系教育学域 川口純准教授より、「インクルーシブ教育の世界的な潮流および日本の状況」と題してご講演をいただきました。参加者が日本の個々の実践を見学する前に、1) インクルーシブ教育に至る国際的な潮流について、 2) なぜ、今、インクルーシブ教育なのか、3) 日本の状況 について理解を深めることができました。

モンゴルでは、今年7月に「教育一般法」、「就学前および一般教育法」が改正され、インクルーシブ教育にかかる条文が多く盛り込まれました。今後の教育制度や教育現場の改善の参考にすべく、モンゴルからの参加者は大変熱心な様子でした。

特に、重度障害があり日常的な通学がかなわない生徒への教育提供、看護士や作業療法士・理学療法士・言語聴覚士の学校現場への派遣、学級担任の指導を側面支援する役割の教職員などについて、質問が集中しました。

インクルーシブ教育の実現に向け、二国の関係者の、将来の協働可能性を感じるツアーでもありました。例えば、「モンゴルにいる、障害のある子どもの保護者に話を聞かせたいので、オンラインで講義をしていただけないか」というような参加者からの申し出がありました。また「今度は私がモンゴルに行って講義やツアー参加者との会議の場を持ちたい」というような、訪問先の担当者からのご提案もいただきました。

ツアーの最後には、参加者が各訪問先から得た学びやそれをモンゴルでどう活かしたいかを資料にまとめ、発表しました。

例えば、「学習環境にユニバーサルデザインを取り入れたい」「近い将来入学してくる子どものニーズに合わせて、学校環境を事前に整備する取り組みを行いたい」「日常的な通学がかなわない子ども向けの訪問授業を試行したい」などの意見がありました。

今後、セーブ・ザ・チルドレンはツアー参加者が対象校や対象地、ひいてはモンゴル全土で学びをさらに活かしていけるようフォローアップしていきます。
最後に、私たちの訪問を快く受け入れてくださった、8ヶ所の訪問先の皆さまに深く感謝申し上げます。また、神奈川県立厚木西高等学校・茅ヶ崎市立第一中学校・NPO法人ちばMDエコネットの視察をご支援くださったEDU-Portニッポン事務局 の皆さま、株式会社ノーサイド・南桜塚小学校の視察をご支援くださった立命館大学 教職研究科 荒木寿友教授にもこの場をお借りして心よりお礼申し上げます。



橋本直樹校長先生より、視覚障害のある子どももない子どもも楽しめる点字本を紹介いただく様子(南桜塚小学校、図書室にて)

他の訪問先の写真はこちら

本事業は皆様からのご寄付と、日本NGO連携無償資金協力からの支援で実施しています。

(海外事業部 モンゴル駐在員 松本ふみ)

1 Inclusive Education PositionPaper | Save the Children’s Resource Centre

2 本事業の詳細はこちらをご覧ください。【モンゴル 教育支援】中学校でも、すべての子どもが学ぶことができる環境を目指して:インクルーシブ教育推進事業の対象を小学校から中学校にまで拡大(savechildren.or.jp)

3 通常の学級・特別支援学級等の在籍学級にかかわらず、すべての子どもを学校全体で支え、できるだけ同じ場で共に学ぶことを追求する「多様で柔軟な支援体制づくり」を進める「みんなの教室」をモデル校に設置して実践研究。茅ヶ崎市立第一中学校は2015年から2018年まで、同モデル校として指定を受けていた。「みんなの教室」は同校では「ほっとルーム」として運用されており、学習に支援が必要な生徒の個別指導や、集団不適応・不登校の状態にある生徒が安心していられる場として利用されている。

4 月森先生が執筆・編集された、『教室でできる特別支援教育のアイデア172 小学校編』・『教室でできる特別支援教育のアイデア中学校編』を、先生および図書文化社の許諾の上、モンゴル語に翻訳させていただき、事業で活用している。詳細はこちら:モンゴルでのインクルーシブ教育事業:日本の書籍を翻訳し、モンゴルの先生に届ける(savechildren.or.jp)

5 EDU-PortニッポンのWebサイトでもご紹介いただきました。モンゴルの教育行政関係者、教職員が日本を視察しました|海外展開のヒント集|日本型教育の海外展開(EDU-Portニッポン) (mext.go.jp)

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