定期予防接種の普及には相互信頼の構築がカギ

セーブ・ザ・チルドレンUKのコミュニティ・社会行動変容シニアアドバイザーのポーラ・バレンタインは、予防接種を一度も受けたことのない子どもたち(ゼロドース・チルドレン)をなくすための取り組みにおいて、「信頼」が果たす役割について説明しています。

 

ナイジェリア、ジガワ州の村の自宅近くで、生後22日の息子ルカヤと一緒にいるサフラ(20


2019年から2021年にかけて、約6,700万人の子どもたちが予防接種を受けられず、112ヶ国で予防接種率が低下しました。2022年には、はしかの患者が前年比で倍増し、ポリオ麻痺は16%増加しました。近年の予防接種率の低下は、過去30年間で最も続いており、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックによってさらに後退しました。ワクチン接種へのためらい、政治的分極化、誤解を招く情報といった要因が、ワクチンに対する国民の信頼をさらに脅かしているのです[1]

 

ワクチン未接種の子どもの割合は、裕福な家庭の場合20人に1人ですが、貧困家庭では5人に1人となっています。ワクチン未接種の子どもたちは一般的に、識字率が低く、しばしば女性の家庭内での意思決定権が限られている地域に住んでおり、保健医療サービスへのアクセスがより困難なのです[2]

 

ナイジェリアでは、ジフテリア・破傷風・百日咳(DTP)の3種混合ワクチンの初回接種を受けられない子どもたちが年間250万人近くにものぼり、世界的にみても「ゼロドス・チルドレン」の割合が最も高い国のひとつとなっています。2020年には、パンデミックの影響でさらに50万人の子どもたちが予防接種を受けることができませんでした[3]

 

このような課題に対処し、世界中のすべてのコミュニティと子どもたちに予防接種を行き渡らせるためには、予防接種プログラムに対する信頼を構築することが不可欠です。信頼構築は、制度レベル、対人レベル、地域レベル3つのレベルで、特に「ゼロドス」世帯に対して必要となります。

 


ナイジェリア・ジガワ州の自宅の外で、生後22日のルカヤにワクチンを投与する保健医療従事者ヌーラ・イブラヒム



制度的信頼:保健システムの強化

世界の政策立案者は、相互信頼の構築に焦点を当てる必要があります。地域社会は、政府の保健システムと予防接種の取り組みを信頼する必要があり、一方、支援国の人々は、資金がこれらの取り組みを支援するために効果的に使用されていることを確認できる必要があります。 安定したワクチン供給の確保、地域住民のフィードバックに基づく保健インフラの改善、透明性の高いコミュニケーション、汚職や長い待ち時間、差別などの問題にきちんと対処することによって、予防接種サービスに対する国民の信頼を高めることができます。

 

信頼回復に成功した取り組みとしては、Gavi、ユニセフ、ゲイツ財団の「Humanly Possible」イニシアティブによるキャンペーンがあります[4]。このイニシアティブは、予防接種が過去50年間に世界中でもたらした好影響や、現代における「ゼロドース・チルドレン」にリーチするための取り組みに焦点を当てています。

 

セーブ・ザ・チルドレンは、ロンドン大学衛生熱帯医学大学院、イロリン大学、AHRIGSKと連携し、ナイジェリアとエチオピアで「ゼロドス・チルドレン」への予防接種プログラムを支援しています[5]。このプログラムは、アドボカシー活動を後押しするエビデンスを生み出し、政策立案者が信頼構築の重要性を認識するのに役立っています。

 

対人的な信頼:保健医療従事者と家庭


ナイジェリア、ジガワ州ドゥツェで開催されたパートナーシップにより定義されたクオリティ・スコアカード会議に参加したジガワ州プライマリヘルスケア(PHC)委員会メンバー、カウンセラー、地域住民、サービス提供者


予防接種率を高めるには、保健医療従事者と各家庭との信頼関係が鍵となります。保健医療システムの中でも重要な役割を果たす保健医療従事者は、各家庭の介護者と、明確に、共感的に、そして包括的にコミュニケーションをとる必要があります。多様な背景を持つ介護者の懸念に耳を傾け、誤解に対処し、文化的感受性を示す能力は、各家庭のワクチン受け入れ意欲に大きく影響するのです。

 

GSKインスパイアリング・プログラムの統合的アプローチの一環として、セーブ・ザ・チルドレンは社会的説明責任(ソーシャル・アカウンタビリティ)アプローチを採用し、地域と保健医療従事者がパートナーシップを組んでサービスの質の向上に努めました。このアプローチでは、地域と保健医療サービスの提供者が品質基準に合意し、採点を行うことでサービス提供の具体的な改善につなげました。共同行動計画の策定を通じて、州と地方の保健当局は保健インフラ改善のためのリソースを確保し、遠隔地に新しいヘルスポストを建設しました。また、地域が既存の保健医療施設の改修に参加した結果、利用が増加しました。

 

地域の信頼:変革者としてのリーダーの関与

地域のリーダー、宗教・伝統的指導者、長老など、その地域で尊敬を集める人物が関与することで、地域レベルの信頼を築くことができます。こうした人々は、地域住民に対して大きな影響力を持っており、予防接種の強力な支持者となり得ます。このような人物が「ワクチン推進者として関与し、予防接種を支持し、地域に広まった予防接種に対する誤った情報を特定することで、保健当局がそうした問題に対処しやすくなり、ワクチンに対して懐疑的な家庭の予防接種プログラムへの参加を促すことができます。

 

セーブ・ザ・チルドレンは、GSKの「ゼロ・ドース」予防接種プログラムを通じて、地方自治体、地域、宗教、伝統的指導者らと協力し、予防接種に対する家庭内での意思決定者(男性であることが多い)との連携を強化しています。参加型学習・行動サイクルや、マイクロプランニングへの参加など、地域主導のイニシアティブも、信頼を構築するのに役立っています。インスパイアリング・プログラムの参加者であるサフラさん(20歳)は、地域主導の取り組みの影響を受けた一人です。サフラさんは、自分の赤ちゃんに移動型予防接種チームによる予防接種を受けさせており、「早期の予防接種は子どもたちを救うことになる」と話します。

 

ナイジェリア、ジガワ州の村の家の外で、生後9ヶ月の息子ユスイアと一緒にいるウミ(25歳)


女性グループのメンバーであるウミさん(25歳)(インスパイアリング・プログラム)は、地域教育における自身の役割の重要性について、「私たちは女性たちに、出産後子どもたちを病院に連れて行き、予防接種を受けさせるべきだと伝えています。予防接種は、子どもたちの命にとって、とても重要なのです」と強調しました。

 

予防接種サービスの計画と実施に地域住民を参加させることで、保健当局は地域の自主性を尊重しています。このような取り組みは、各地域特有のニーズに合わせて、現地の言語を用い、誤解につながる情報を特定し、文化的に適切かつ最新の情報に基づくものとなっており、ワクチンの利点に対する理解を効果的に促進する双方向のコミュニケーションを用いて行われます。

 

予防接種の成功には信頼が不可欠

予防接種の定期的な接種率を向上させるためには、制度レベル、対人レベル、地域レベルで信頼を築くことが不可欠です。地域社会と保健医療サービス提供者の相乗的な努力により、予防接種が単に医療上必要というだけでなく、地域社会から信頼される習慣として認識されるような環境を作り出すことができます。

 

各国政府は、効果的なデータシステムを通じて、予防接種を受けていない子どもたちを早急に特定し、予防接種を提供すること、地域社会の信頼を高めることによってワクチン需要を強化すること、資金を優先的に投入すること、そして強靭な保健システムに投資することが必要です。

 

相互の信頼を構築することで、低下している予防接種率を好転させ、ワクチンを接種すれば予防可能な病気で命を落とす子どもをなくすことができるのです。

 

英語で読む:

How buildingmutual trust is key to increasing routine immunisation uptake (gavi.org)



【注釈】
[1]The State of the World’s Children 2023 | UNICEF
[2]The State of the World’s Children 2023 | UNICEF
[3]Vaccine confidence in Nigeria – The Vaccine Confidence Project
[4]Global immunization efforts have saved at least 154 million lives over the past 50 years
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