【報告】「初めて!」の体験が子どもたちの世界を広げる-NPO向け助成プログラム「まなび・体験ファンド」第2回(2024年実施)

今年は感染症の心配もひと段落し、各地でお祭りやイベント、野外活動や文化活動が盛んに行われ、また子どもたちが自由に遊べる日常が戻ってきました。

さまざまなまなびや体験を得ることは子どもの成長にとって欠かせませんが、日常が戻ってきた今も、経済的困難や、疾病や障害がある、外国にルーツがある、社会的養護下にある、不登校である、被災地であるなど、機会を十分に得ることが難しい状況にある子どもたちの体験格差は一層広がっています。

この状況に対し、子どもや保護者の声を聴き、専門分野や地域の特徴などを活かして細やかに対応する日本各地のNPO(非営利団体)は、あらゆる子どもにまなびや体験の機会をつくる大切な役割を担っています。

そこでセーブ・ザ・チルドレンは、地域のNPOによるまなび・体験活動を支援する助成プログラム「まなび・体験ファンド」を2023年から行っています。

2024年の第2回公募では、特に取り残されがちな子どもたちや保護者を対象に、子ども参加などの取り組みが具体的に計画された5団体の事業を採択し、事業資金の提供と子どものセーフガーディング研修を行いました。対象期間は、子どもたちの夏休みを中心とした7月から10月としました。

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まなび・体験ファンド第2回助成対象団体および事業の詳細はこちら

中でも、子どもたちの体験機会の少なさがよりはっきりと示され、助成の意義の大きさが感じられた2団体の事業の様子を報告します。


■特定非営利活動法人TEAM創心「子どもたちの力を引き出す社会体験と地域交流事業」(事業実施地:三重県松阪市)

TEAM創心は三重県松阪市で、医療的ケアが必要な重度障害のある子どもたちの支援を行っている団体です。

事業所を利用する子どもたちは車椅子やバギーを使っており、生活において介助が必要です。予算やスタッフ数に余裕のない中、介助以外の事業はなかなかできなかったという団体が、今回の助成を機に、子どもたちの新しい体験の機会づくりにチャレンジしました。また、障害のあるきょうだいを家族に持つ子どもたちも、自分自身の体験機会が限られてしまうことがあります。今回の事業では、障害のある子のきょうだいも一緒に参加できるプログラムを行いました。

7月27日には、事業所内に地域の音楽家3人を招き、初めての「音楽コンサート」を開催しました。
多くの子どもたちが一斉に集まるイベントということで、スタッフは綿密な打ち合わせと準備を重ねて当日に臨みました。当日は子ども11人、大人(保護者、スタッフ)14人が参加しました。


かわいい飾りつけスタッフの手作り



歌とフルート、キーボードのトリオで、童謡、クラシック、ポピュラーとさまざまなジャンルの名曲が次々に演奏されていきます。子どもたちは手を大きく上げたり、声を出したり、思い思いにとても楽しんでいる様子でした。知っている好きな曲が演奏され、手をたたいてうれしそうにしている子もいました。

また、フルートを目の前でじっくり見たり、自作の楽器を持って一緒に演奏したりと、子どもたち自身がいろいろな感覚を使って音楽を体験できるプログラムが組まれていました。








みんなで演奏に参加しました



参加後の子どもたちはとてもいい笑顔。一緒に鑑賞した保護者やスタッフも、大きな拍手を送っていました。

コンサートを企画したスタッフからは「新しい試みでリスクの対策に気を遣いましたが、やってみると結構できるな!と思えました」との声がありました。
また団体ではこのコンサートのほか、障害者スポーツ体験、地域のお祭りへの参加、映画鑑賞会も実施しました。子どもたちの「初めての体験」を数多く実現し、また企画をきっかけに地域の人との新たな交流も生みだすことができました。


■特定非営利活動法人フリーキッズ・ヴィレッジ「居場所を必要とする子どもたちとその保護者を対象とした自然宿泊体験」(事業実施地:長野県伊那市)

フリーキッズ・ヴィレッジは不登校の子どもの居場所や社会的養護の充実を目指して活動している団体です。
今回の助成事業では、不登校や引きこもりの状況にある子ども、里親・里子などを対象としたキャンプや自然体験を実施しました。

夏の盛りの8月13日から15日に行われたキャンプには、里子や要保護児童(家庭養育状況が不安定で児童相談所の見守りを受けている子ども)が23人、里親やスタッフなどの大人が15人参加しました。


ライフジャケットを装着して、近くの川で川遊び。




自然の中でのびの遊んだり、馬とも触れ合えたり貴重な機会になりました。


キャンプ場となる場所は手作りの木製滑り台やピザ窯、近くには遊べる川もあり、そして触れ合える馬もいるというロケーション。子どもたちの希望で決まった流しそうめんの昼食を楽しんだ後、それぞれの子どもがテントでゆっくりしたり、「川遊びをしたい!」という子どもは大人とともに川へ行ったりと、思い思いに過ごしていました。おおよそのスケジュールは決まっていますが、どのように参加するかは子どもの意思に委ねられていました。大人は子どもたちに寄り添い、希望をできる限り叶えるサポートに徹している姿が印象的でした。

団体スタッフからは「子どもを主体にした安心・安全な活動をするには、知識や経験が豊富な人材の確保が欠かせず、それに伴い人件費の確保が常に課題となる。セーブ・ザ・チルドレンの助成は人件費に充てられるのがありがたかった」という声がありました。子ども支援活動における、人材や人件費の課題を実感しました。


紹介した2団体以外からも、経済的困難のある世帯の子どもを活動に招待し、会場までの交通費も支給するといった細かな配慮を実現した例などが報告されました。また、助成を受けたことにより「金銭面から一歩を踏み出しにくかったが、子どもたちに体験の機会を設けることができた。今後も続けていく目途もついた」と、継続的な活動への土台づくりまで進められたという声もありました。

今回の公募には全国から42件の申請があり、さまざまな理由や状況により、まなび・体験の機会を得ることが圧倒的に難しい子どもたちが日本各地にいることが分かりました。
一方、NPOは専門性を十分に発揮し、地域や人とのつながりを活かしながら、子ども主体の体験活動を実現できる貴重な存在であることも改めて感じられました。

「まなび・体験ファンド」による助成は、2025年も実施する予定です。
子どもの権利を保障する活動が一つでも多く、安心・安全に実施されるよう、セーブ・ザ・チルドレンは今後も地域NPOの活動を支援していきます。

(国内事業部 瀬角、門川)

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