「昔はたくさんの子どもたちが肺炎で死んでしまいました。今は、子どもたちがちょっとした風邪にかかっただけでも、親が私たちのところに検診に連れてきます。みんな子どもたちの病気を素早く治療できることがわかり、昔のように病気に怯えることがなくなりました。」(パキスタンで働く女性ヘルスワーカー・サイラ談)
妊婦の血圧を測る女性ヘルスワーカー
写真:Alixandra Fazzina
【女性ヘルスワーカーの活躍】
パキスタンでは、慣習として女性は従属的な立場に置かれており自宅内にいることを求められます。特に地方においては、医療施設に行くためにも男性世帯主の許可が必要な場合が多く、大半の女性は一人で医療施設まで出向くことができません。
パキスタン政府は1994年にプログラムを立ち上げ、地域に根差した女性ヘルスワーカーが家庭に出向くことにより、女性や子どもに対して必要な基礎医療を提供する取り組みを始めました。現在、パキスタンには、9万人の女性のヘルスワーカーがおり、人口の55%に対する基礎医療をカバーしています。
女性ヘルスワーカーは、下痢や肺炎の治療のほか、深刻な病気の場合は医療機関の紹介を行います。また、出産前後の母親に対するケアや避妊法の指導、基礎的な保健教育や予防接種の実施、貧血症の抑制を行うなど、母子の健康維持に大きな役割を果たします。
2001年、セーブ・ザ・チルドレンはユニセフやJICA、パキスタン政府とともに、妊婦および新生児に対する破傷風防止キャンペーンを展開しました。パキスタンでは毎年28,000人の新生児が破傷風により死亡しています。これは、汚れたハサミを用いてへその緒を切るといった不適切ながらも慣習化している処置が主な原因です。しかし、破傷風は、妊婦に2回、もしくは妊娠していない適齢期の女性には3回の予防接種を施すだけで予防できるものです。キャンペーンでは、パンフレットやビデオ、ポスターなどを用いて、予防接種の重要性について女性に向けた啓発活動を行ったほか、男性が従事する医療施設に女性が出向かなくてもすむよう、自宅内で予防接種を提供できる女性ヘルスワーカーを育成しました。このキャンペーンにより、1,100万人の女性に対して予防接種を実施することが可能となり、破傷風による死亡率の半減に成功しました。
2005年には、パキスタン政府により、妊婦および乳幼児の死亡率削減のための新たなプログラムも開始されています。これは、5年以内に12,000人の助産婦を育成し、地方に派遣するというものです。2009年には、育成プログラムの最初の受講者が卒業し、すでに1,000人が助産婦として従事、現在も6千人以上がトレーニングを受講中です。
【パキスタンの子どもたち 基礎情報】
【パキスタン大洪水にあたり】
2010年8月現在、パキスタンでは、大雨に伴う洪水被害により、被災者が1,400万人(うち600万人が子ども)に達するという危機的状況にあります。多くの子どもたちは家を失い、下痢、疥癬(かいせん)、眼病、皮膚病といった汚れた水を媒介して起こる感染症をはじめ、食糧や生計手段が被害を受けたことに伴う栄養不足など、命にかかわるリスクにさらされています。
洪水被害により現在子どもたちは汚れた水と崩壊した建物に囲まれて生活をしている
写真:Sajjad Ali Quereshi / Save the Children
セーブ・ザ・チルドレンでは、この危機にあたり、医療支援をはじめ、シェルターや衛生用品、生活用品といった緊急物資の配布を通して、これまでに23,200人の被災者に支援を届けています(2010年8月10日現在)。特に医療分野においては、女性ヘルスワーカーを含む緊急医療チームを結成し、地方行政と連携しながら、基礎医療の提供に努めています。最も被害が大きい地域の一つであるスワットでは、すでに2つのモバイルクリニックを展開し、352名の女性と5歳未満の子ども134名を含む、計502名の患者を治療しています。
【知っていますか?パキスタンってこんな国】
(参考)外務省HP
※セーブ・ザ・チルドレンは、パキスタンにおいて30年以上にわたり活動を展開しており、教育、保健・栄養、生計分野での支援に加え、地震や洪水、台風等の災害に際し、緊急支援活動を行っています。