子どもの人生にとって最も危険な時期は、出産中とその直後です。5歳未満で亡くなる乳幼児のうち、生後1ヵ月までの新生児が40%以上を占め、専門的な介助を得ず家庭で出産する途上国の女性は年間約5,000万人にのぼります。
妊産婦および新生児死亡の相互に関連し合う問題解決のためには、妊娠中、出産中、そして出産直後から1ヶ月後まで、母親とその赤ちゃんが専門的なケアを受けられるようにする必要があります。しかしながら、途上国の多くは、様々な理由により、妊産婦と乳幼児は女性のヘルスワーカーの介助を受けられない状況にあります。
2010年の『母の日レポート』では、ヘルスケアの前線で働く女性たちが、どのように母親や新生児や子どもたちの命を救う活動を行っているかを取り上げています。
…約880万人の子どもが5歳の誕生日を迎える前に亡くなっています。
…約34万人の女性が妊娠や出産に伴うトラブルで亡くなっています。
…5歳未満で亡くなる子どものうち、41%が生後1ヵ月までの赤ちゃんです。
…子どもと妊産婦死亡のうち99%は、基礎的な保健サービスを受けられない途上国のお母さんと赤ちゃんです。
…全てのお母さんと子どもが基礎的な保健サービスを受けられるようになれば、毎年25万人の女性と550万人の子どもの命を救うことができます。
…世界の57ヵ国でヘルスワーカーが圧倒的に不足しています。そのうち、36ヵ国はアフリカの国です。
女性やその子どもが病気で、医療の助けが必要だと理解されていても、社会的・文化的な壁により男性の医療従事者に診察をゆだねることができない場合が多くあります。特に農村部では、女性がヘルスケアを受けに行くべきかどうかを夫や長老者が決定することが多く、ヘルスワーカーが男性の場合、受診を許さないケースもあります。また、女性は、特に女性特有の妊娠・出産、性に関わることや母乳育児について、女性のヘルスワーカーに診てもらうことを希望します。女性が他の女性からケアを受けることにより大きな安心や満足感を感じられ、治療可能な症状が深刻な状態に悪化する前に、女性が専門的サービスを利用する確率も高くなります。
小学校教育を数年受けた女性であれば、一般的な乳幼児の病気の診察と治療を行い、ワクチン接種を普及し、栄養改善や母体安全や基本的な新生児ケアを促進する技術を身につけることが可能です。女性のヘルスワーカーが自ら活動する地域に根差して活動することも、母親や子どもにとって効果的です。バングラデシュにおける最近の調査では、小学校教育と6週間の実地研修を受けた女性のコミュニティ・ヘルスワーカーが新生児死亡率の34%削減に貢献したことが報告されています。
女性間のコミュニケーションによる母子の健康状況改善効果が、世界中の農村部の調査により報告されています。エチオピア、マラウィ、マリ、セネガルの農村部では、おばあさんが新生児ケアの方法を学んでいたり、ネパール、インド、ボリビアの農村部では、妊娠、出産、新生児ケアに関する共通の問題解決のために女性たちが組織化されたりしています。これらの努力により、産前ケア、介助を伴う出産、完全母乳育児の増加や45%にも及ぶ乳幼児死亡率の削減などの成果がもたらされています。
バングラデシュでは、何万人もの女性のヘルスワーカーが家族計画、母体安全、基本的な新生児ケアを推進したことにより、1990年以来5歳未満児死亡率が64%低下しています。インドネシアでは、同じ時期に「全ての村に助産婦を」プログラムの成果もあり、妊産婦死亡率が42%削減されました。ネパールでも5万人の女性のコミュニティ・ヘルスワーカーの育成を行い、農村部に配備した結果、妊産婦および子どもの死亡率が同様に低下しています。パキスタンでは女性ヘルスワーカーが1,100万人の女性に対し出産時に破傷風に感染するのを防ぐための予防接種を実施した結果、新生児の破傷風による死が半減しました。エチオピアでは比較的最近の国家計画で農村部への女性のヘルスワーカーの配備を開始したところ、既に予防接種率の増加、マラリア罹患率の低下、現代的避妊法利用の向上などの成果が見られます。
女性と子どもの死亡率を削減し、保健に関連するミレニアム開発目標※を達成するためには、途上国でヘルスワーカーを430万人増やすことが必要です。政府や国際機関は保健分野の労働力のキャパシティ向上、特に前線で働く女性のコミュニティ・ヘルスワーカーの募集と育成に力を入れるべきです。
女性が前線で働くヘルスワーカーとなることを後押しし、実力のあるヘルスワーカーたちが最も必要とされる、医療サービスが不十分な地域や僻地で働き続けられるように待遇を改善しなければなりません。これらは給料、研修、サポート、保護といった面での改善や、キャリア成長の機会、専門家としての認証などを含みます。個人の安全面でリスクのある途上国の多くの地域においては、政府や国際機関は女性のヘルスワーカーが働くにあたり、命の危険にさらされることのないよう、対策を打たなくてはなりません。
女性への教育は、ヘルスワーカーとして働ける女性の予備軍を拡大するためだけでなく、自らと子どもたちの健康について、より賢明に擁護できる将来の母親たちを生みだすためにも必要です。教育をほとんど、あるいは全く受けていない女性は、妊娠および出産時に専門的なサポートを得ることが少なく、母親も赤ちゃんも死亡のリスクがより高い傾向にあります。
人員配置、運搬、設備、医薬品、ヘルスワーカーの育成とサポート、システム運営への拠出の増額が必要です。より多くの子どもの生存と成長のためには、保健のアウトリーチ戦略および資金配分を最も支援を必要とする母親と子どもに向けなければなりません。
※2000年9月の国連ミレニアム・サミットにおいて、2015年までに国際社会が達成すべき8つの具体的目標として、国連ミレニアム開発目標(MDG)が合意されました。その4番目の目標(ミレニアム開発目標4)は5歳未満児の死亡率を1990年の3分の1に削減することを、5番目の目標(ミレニアム開発目標5)は妊産婦死亡率を1990年の4分の1に削減することを掲げています。