マダガスカル(公開日:2022.12.22)
【マダガスカル】 サイクロン支援事業完了報告
アフリカ大陸南東部沖に位置する島国のマダガスカルは、アフリカで最もサイクロンの被害を受けやすく、紛争ではなく気候の影響によって、食料危機に陥っている国です。
2022年1月から4月にかけて5つのサイクロンが上陸し、特に南東部のヴァトヴァヴィ地域のマナンジャリー郡と、ヌシヴァリカ郡が大きな被害を受けました。セーブ・ザ・チルドレンは、サイクロンにより影響を受けた人たちに対する支援事業を2022年4月11日より実施し、11月30日に事業が完了したので、報告します。
マダガスカル南東部ヴァトヴァヴィ地域では、サイクロンにより、農地が流されたり、主要な道路がふさがれたりして、食料の確保が難しくなりました。
食料危機は総合的食料安全保障レベル分類(IPC)によって5段階で評価されますが、2022年6月末の時点で、約22万人(マナンジャリー郡の人口の30%、ヌシヴァリカ郡の人口の45%)がIPCフェーズ3(急性食料危機)、約5万人(マナンジャリー郡の人口の15%)が、フェーズ4(人道的危機)に分類されました¹。
子どもの栄養不良率も悪化した一方で、保健医療施設に行くには1時間以上歩かなければならない遠隔地に住んでいる人が多く、子どもたちに迅速な支援を届けられない状況にありました。
こうした状況を受けて、私たちは、ヴァトヴァヴィ地域のマナンジャリー郡とヌシヴァリカ郡の6つの村において、母子にやさしいスペース(スペース)を設置し、子どもの栄養状態を改善するための緊急支援を実施しました。
セーブ・ザ・チルドレンは、地域の人たちが中心となって持続可能な活動ができるように、地域の人材育成に力を入れています。
この活動では、サイクロンの被害が生じる前から事業対象地域で暮らし、保健医療施設で働いている医療従事者と、村で栄養に関する啓発活動を担っているボランティアである地域保健員が、スペースでの支援にあたりました。
まず、医療従事者と地域保健員に対して、子どもの栄養、疾患や水・衛生に関する研修を2週間にわたり実施し、スペース1ケ所につき、医療従事者1人と地域保健員4人がひとつのチームとなって、月曜日から金曜日にかけて、それぞれの村で支援活動を実施しました。
ヌシヴァリカ郡アンタナンダバ村にあるスペースの1日に沿って、活動を報告します。
午前8時半ごろ、スペースの前には、すでに多くの母子が集まっていました。9時からの活動開始に合わせて、村に住む地域保健員が受け付けを始めます。遠くの村からやってくる母子もたくさんいました。
1つの家族につき、5,6人の子どもがいることが多いため、スペースに訪れた母親からは「子どもの世話をするのが大変なので、子どもが体調を崩しても保健医療施設には行けませんでした。村にこのスペースを作ってくれたおかげで、子どもを診てもらいに来ることができました」との声が多く聞かれました。
受け付けのテーブルには、来た順番に母子手帳を置いてもらいます。保健省が発行している母子手帳は、保健医療施設で無料で手に入れることができますが、保健医療施設に行くことが困難なことも多いため、村で手に入るノートで代用している人もいます。
午前9時から、集まった母子全員を対象に栄養に関する集団セミナーを行います。具体的には、母乳を与えるタイミングや体勢、離乳食の導入時期や量の調節方法などです。
文字を読めない母親のために絵を用いたり、学んだ内容を実践して子どもの栄養改善に至った母親の好事例を話してもらったりと、さまざまな工夫をして、母親が興味を持ち、実践できるようにしています。
セミナー終了後には、子どもの栄養状態の測定に移ります。身長・体重のほか、MUAC(Mid-Upper Arm Circumference:上腕周囲径)の測定により、急性栄養不良の状態にある子どもがいないか確認を行います。
栄養状態の測定後は、個別カウンセリングに入ります。栄養状態が良好な子どもについては、問題がないことを地域保健員が伝えます。その際に、子どもの体調の変化や、子育てで不安なことなどを、母親は地域保健員に相談することができます。
中度栄養不良と判断された子どもの母親は、医療従事者のカウンセリングを受けます。カウンセリングでは、再度母乳育児について重要なポイントを伝え、栄養不良を改善するために母乳に加えて子どもに与えるRUTF(Ready to use therapeutic food:調理不要の治療食)を1週間分提供します。1週間後にフォローアップのためもう一度スペースに来てもらい、子どもの栄養状態の経過をみていきます。
重度の栄養不良と判断された子どもは、スペースでは対応できないため治療を受ける必要があります。遠くの保健医療施設に行くことは多くの母親にとって、不安が大きいため、子どもの健康のために必要であることを丁寧に説明し、必要に応じて、家族や親戚からサポートを受けられるように、医療従事者や地域保健員が家を訪問することもあります。
1日に50人ほど、多い日には100人ほどの母親がスペースに訪れるため、子どもの栄養状態の測定やカウンセリングは午後4時ごろまで続きます。
スペースで行った支援は、医療従事者と地域保健員により詳細に記録され、セーブ・ザ・チルドレンに送られます。そして、セーブ・ザ・チルドレンの栄養担当職員は、地域の栄養局職員や保健医療施設長などの関係者とともに月に一度会議を開き、各スペースでの支援活動の詳細、データの共有を行います。
地域の関係者からも情報が提供され、地域全体での子どもの栄養状態の傾向を分析し、今後の対策について話し合いました。
保健医療施設長からは、「今まで保健医療施設からは遠くて支援を受けられなかった人が多くいることがわかった。セーブ・ザ・チルドレンが私たちの手の届かない地域で支援をしてくださり感謝している。今後は私たちが自分たちで支援を届けられるように努力していきたい」と話していました。
6ヶ所のスペースで支援に従事してきた医療従事者と地域保健員の全員が、事業完了後も引き続き活動にあたることと、各村の村長も引き続きサポートしていくことを合意しました。
2022年10月に、ヴァトヴァヴィ地域栄養局を訪問し、6つの村に設置されたスペースは、事業終了後にヴァトヴァヴィ地域栄養局に引き継ぐことを正式に合意しました。
一方で、約8ヶ月間の支援を通して、課題も見えてきました。例えば、集団指導では栄養バランスを考慮した離乳食を子どもに与えることを指導しますが、母親からは「野菜は育てていない、買うお金もない」といった声が多くあがりました。
こうした状況に対して、1年間の「レジリエンス向上事業」を実施することとなりました。この事業では、地域の人たちの生計手段確立の支援、家庭菜園を促進、災害から家や農地を守る方法の指導などの活動を含む、「生計向上」、「栄養改善」、「災害リスク軽減」の3つの側面から、地域住民のレジリエンス(回復力)向上を目指した支援をします。新しい支援活動については、今後報告します。
本事業は、皆さまからのご寄付と、ジャパン・プラットフォームからのご支援により実施しました。
(海外事業部 マダガスカル事業担当 加藤笙子)
¹ 参考:IPC Madagascar Grand Sud & Grand Sud-Est(フランス語)
2022年1月から4月にかけて5つのサイクロンが上陸し、特に南東部のヴァトヴァヴィ地域のマナンジャリー郡と、ヌシヴァリカ郡が大きな被害を受けました。セーブ・ザ・チルドレンは、サイクロンにより影響を受けた人たちに対する支援事業を2022年4月11日より実施し、11月30日に事業が完了したので、報告します。
マダガスカル南東部ヴァトヴァヴィ地域では、サイクロンにより、農地が流されたり、主要な道路がふさがれたりして、食料の確保が難しくなりました。
食料危機は総合的食料安全保障レベル分類(IPC)によって5段階で評価されますが、2022年6月末の時点で、約22万人(マナンジャリー郡の人口の30%、ヌシヴァリカ郡の人口の45%)がIPCフェーズ3(急性食料危機)、約5万人(マナンジャリー郡の人口の15%)が、フェーズ4(人道的危機)に分類されました¹。
子どもの栄養不良率も悪化した一方で、保健医療施設に行くには1時間以上歩かなければならない遠隔地に住んでいる人が多く、子どもたちに迅速な支援を届けられない状況にありました。
こうした状況を受けて、私たちは、ヴァトヴァヴィ地域のマナンジャリー郡とヌシヴァリカ郡の6つの村において、母子にやさしいスペース(スペース)を設置し、子どもの栄養状態を改善するための緊急支援を実施しました。
セーブ・ザ・チルドレンは、地域の人たちが中心となって持続可能な活動ができるように、地域の人材育成に力を入れています。
この活動では、サイクロンの被害が生じる前から事業対象地域で暮らし、保健医療施設で働いている医療従事者と、村で栄養に関する啓発活動を担っているボランティアである地域保健員が、スペースでの支援にあたりました。
まず、医療従事者と地域保健員に対して、子どもの栄養、疾患や水・衛生に関する研修を2週間にわたり実施し、スペース1ケ所につき、医療従事者1人と地域保健員4人がひとつのチームとなって、月曜日から金曜日にかけて、それぞれの村で支援活動を実施しました。
ヌシヴァリカ郡アンタナンダバ村にあるスペースの1日に沿って、活動を報告します。
午前8時半ごろ、スペースの前には、すでに多くの母子が集まっていました。9時からの活動開始に合わせて、村に住む地域保健員が受け付けを始めます。遠くの村からやってくる母子もたくさんいました。
1つの家族につき、5,6人の子どもがいることが多いため、スペースに訪れた母親からは「子どもの世話をするのが大変なので、子どもが体調を崩しても保健医療施設には行けませんでした。村にこのスペースを作ってくれたおかげで、子どもを診てもらいに来ることができました」との声が多く聞かれました。
受け付けのテーブルには、来た順番に母子手帳を置いてもらいます。保健省が発行している母子手帳は、保健医療施設で無料で手に入れることができますが、保健医療施設に行くことが困難なことも多いため、村で手に入るノートで代用している人もいます。
午前9時から、集まった母子全員を対象に栄養に関する集団セミナーを行います。具体的には、母乳を与えるタイミングや体勢、離乳食の導入時期や量の調節方法などです。
文字を読めない母親のために絵を用いたり、学んだ内容を実践して子どもの栄養改善に至った母親の好事例を話してもらったりと、さまざまな工夫をして、母親が興味を持ち、実践できるようにしています。
セミナー終了後には、子どもの栄養状態の測定に移ります。身長・体重のほか、MUAC(Mid-Upper Arm Circumference:上腕周囲径)の測定により、急性栄養不良の状態にある子どもがいないか確認を行います。
栄養状態の測定後は、個別カウンセリングに入ります。栄養状態が良好な子どもについては、問題がないことを地域保健員が伝えます。その際に、子どもの体調の変化や、子育てで不安なことなどを、母親は地域保健員に相談することができます。
中度栄養不良と判断された子どもの母親は、医療従事者のカウンセリングを受けます。カウンセリングでは、再度母乳育児について重要なポイントを伝え、栄養不良を改善するために母乳に加えて子どもに与えるRUTF(Ready to use therapeutic food:調理不要の治療食)を1週間分提供します。1週間後にフォローアップのためもう一度スペースに来てもらい、子どもの栄養状態の経過をみていきます。
重度の栄養不良と判断された子どもは、スペースでは対応できないため治療を受ける必要があります。遠くの保健医療施設に行くことは多くの母親にとって、不安が大きいため、子どもの健康のために必要であることを丁寧に説明し、必要に応じて、家族や親戚からサポートを受けられるように、医療従事者や地域保健員が家を訪問することもあります。
1日に50人ほど、多い日には100人ほどの母親がスペースに訪れるため、子どもの栄養状態の測定やカウンセリングは午後4時ごろまで続きます。
スペースで行った支援は、医療従事者と地域保健員により詳細に記録され、セーブ・ザ・チルドレンに送られます。そして、セーブ・ザ・チルドレンの栄養担当職員は、地域の栄養局職員や保健医療施設長などの関係者とともに月に一度会議を開き、各スペースでの支援活動の詳細、データの共有を行います。
地域の関係者からも情報が提供され、地域全体での子どもの栄養状態の傾向を分析し、今後の対策について話し合いました。
保健医療施設長からは、「今まで保健医療施設からは遠くて支援を受けられなかった人が多くいることがわかった。セーブ・ザ・チルドレンが私たちの手の届かない地域で支援をしてくださり感謝している。今後は私たちが自分たちで支援を届けられるように努力していきたい」と話していました。
6ヶ所のスペースで支援に従事してきた医療従事者と地域保健員の全員が、事業完了後も引き続き活動にあたることと、各村の村長も引き続きサポートしていくことを合意しました。
2022年10月に、ヴァトヴァヴィ地域栄養局を訪問し、6つの村に設置されたスペースは、事業終了後にヴァトヴァヴィ地域栄養局に引き継ぐことを正式に合意しました。
一方で、約8ヶ月間の支援を通して、課題も見えてきました。例えば、集団指導では栄養バランスを考慮した離乳食を子どもに与えることを指導しますが、母親からは「野菜は育てていない、買うお金もない」といった声が多くあがりました。
こうした状況に対して、1年間の「レジリエンス向上事業」を実施することとなりました。この事業では、地域の人たちの生計手段確立の支援、家庭菜園を促進、災害から家や農地を守る方法の指導などの活動を含む、「生計向上」、「栄養改善」、「災害リスク軽減」の3つの側面から、地域住民のレジリエンス(回復力)向上を目指した支援をします。新しい支援活動については、今後報告します。
本事業は、皆さまからのご寄付と、ジャパン・プラットフォームからのご支援により実施しました。
(海外事業部 マダガスカル事業担当 加藤笙子)
¹ 参考:IPC Madagascar Grand Sud & Grand Sud-Est(フランス語)