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シリア危機
(公開日:2026.04.17)

【シリア危機】トルコ・イスタンブールに住む難民と地域の青少年の生計支援と精神保健・心理社会的支援の完了報告

 
2011年に始まったシリア危機は、600万人以上が国を追われており、世界最大の難民危機の一つとも言われています。2024年12月8日には、ダマスカスでの政権交代という大きなニュースが世界を驚かせました。政権交代後、シリアへ戻る人たちも増えていますが、国内では長年の紛争でインフラが壊滅的に破壊されており、安心して暮らせるようになるにはまだ時間がかかると言われています。

隣国のトルコは世界最大の難民受け入れ国で、2026年3月時点でトルコに住むシリア難民の数は約230万人にのぼります[1] 。昨今の物価上昇や国内の限られた雇用機会、また2023年に発生したトルコ・シリア地震などの影響により、トルコの経済状況はトルコの人たち、難民の双方にとって厳しくなっています。

このような状況を受け、セーブ・ザ・チルドレンは、2024年12月から13ヶ月間、トルコのイスタンブールでシリア難民、その他国籍の難民、またトルコ人の青少年を対象に生計支援と精神保健・心理社会的支援に取り組みました。2025年12月に終了した事業の成果や、参加者の声を紹介します。事業の背景や活動の詳細は、事業開始時の記事をご覧ください。

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◆生計支援と精神保健・心理社会的支援の相乗効果
この事業では、難民やトルコ人の青少年を対象に、生計支援(就労や起業のための支援)と精神保健・心理社会的支援を合わせて提供しました。それにより、「就職や起業のための情報が得られて、適切なアドバイスをもらい、自信がつく」といった生計支援による効果と、「ウェルビーイングの向上や日々のストレスの軽減」といった精神保健・心理社会的支援による効果が、相互にいい影響をもたらしました。
特に、この事業では女性の参加を促進し、参加者の大半を女性が占めました。女性の就業率が男性に比べて顕著に低いトルコにおいて、女性が取り残されることなく生計支援に参加できたことは大きな意味があります。多くの参加者が、生計支援と精神保健・心理社会的支援の両方の活動に参加し、「家事育児をしながら働くための道筋を立てるのに役立った」「ストレスや感情のコントロール方法を学び、自分自身で決断できることを学んだ」「自分の実現したい目標を表現する自信がついた」と語りました。過去に働いたことがなかったり、生計支援に初めて参加する女性も多い中、この事業に参加することが「ターニングポイント」だったと語る人も多くいました。
 


個別の雇用支援の様子


• 132人(うち女性108人)が、青少年の雇用可能性を高めるために開発されたSkills to Succeed(成功のためのスキル)研修に参加し、求職の方法や履歴書の書き方、面接の準備方法、キャリアプランニング、職場でのコミュニケーションなどについて学びました。
• 110人(うち女性94人)が、自分の強みを伸ばしたり、弱みを克服するために行政や他団体が提供する研修やサービスに応募・登録しました。
• 180人(うち女性153人)に、1対1で個別の雇用支援を行い、個別の事情や職歴、学歴などの背景を考慮した助言を提供し、求職のためのサポートをしました。
• 16人(うち女性14人)に、起業に際して必要な行政手続きに関する情報提供や個別のサポートをしました。


 
精神保健・心理社会的啓発セッションの様子


• 305人(うち女性272人)が、精神保健・心理社会的啓発セッションに参加し、円滑な人間関係や争いごとの解決方法、セルフケアの方法、ストレスマネジメントなどについて学び、グループでのディスカッションなどを行いました。
• 101人(うち女性80人)が、WHO(世界保健機関)によって開発された「Self Help+」と呼ばれる精神保健・心理社会的支援のグループセッションに参加し、ストレスや感情の実践的なマネジメント方法を学びました。


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◆地区行政との連携
難民やトルコ人の青少年の雇用を促進するには、行政が提供する就労・起業支援の質の向上やキャパシティの拡大も欠かせません。この事業では、イスタンブールの3地区において、行政職員向けの研修を行ったり、一部の活動を連携して計画・実施することで、行政の生計支援サービスの質向上を目指しました。また、対象となった地区のうち、1地区では行政が運営している雇用サービスに難民の履歴書も登録できるようになり、かつ行政が提供する各種サービスにおけるセーフガーディングに関するポリシーを整備しました。別の1地区ではSkills to Succeed(成功のためのスキル)研修を行政職員だけで実施できる体制を整えることができました。
 


行政職員に向けた研修の様子


• 162人(うち女性131人)を対象に、セーフガーディングやSkills to Succeed(成功のためのスキル)に関する研修を実施しました。


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◆活動に参加した人たちの変化
イスタンブールに居住する難民や青少年の数と比べるとこの事業に参加した青少年の数は一部にすぎませんが、その一人ひとりの人生に与えたインパクトは大きく、多くの参加者が活動の中で学んだことを家族や友人と共有したことで、事業の枠を超えて影響が広まっています。

トルコ人のエリフさん*は、イスタンブールのある地区行政でインターンとして働きながら、大学卒業後の進路について不安を抱えていました。人道支援分野で働きたいという明確な意思はあったものの、自身のスキルや素質をどのようにアピールすればいいのか、また大学生から社会人になるという変化の中で自身が抱えているストレスにも気づけていませんでした。
エリフさんは、この事業でSkills to Succeed(成功のためのスキル)研修と精神保健・心理社会的支援に参加しました。Skills to Succeed研修では、履歴書の書き方や面接の準備などについて学びました。「既に履歴書は準備していましたが、活動に参加して履歴書の内容を強化することができてからは、仕事に応募するときにより自信を持てるようになりました。」とエリフさんは語ります。また、精神保健・心理社会的支援グループセッションでは、エリフさん自身も気づいていなかったストレスを特定し、コントロールする術を学び、家庭でのコミュニケーションの改善につながりました。エリフさんは、「研修を受ける前は、自分がストレスを抱えていることにも気づいていませんでした。(困難な状況も)すべて普通のことだと思っていたのです。研修を受けて、自分にとってストレスが何なのかを理解することができました。」「ストレスは、仕事関連のことだけではなくて、家族や友達など人間関係のことでも受けているのだと気づきました。普段の生活の中でも、ストレスマネジメントができるようになりました。」と言います。


 
子どもの保護ソーシャルワーカーとして働くエリフさん


各種研修を受けた後、エリフさんは本格的に求職活動を始めました。以前は不安や自信の無さから上手くアピールできなかった自身の強みや専門性についても、自信をもって効果的に面接で示せるようになり、研修終了後まもなくして市民団体で子どもの保護ソーシャルワーカーの職を得ることができました。難民の子どもたちや家族と仕事をする中で、自身の感情のコントロールが必要な時や、裨益者とのセッションを行う際にも、研修で学んだ感情やストレスのコントロール方法を活用しています。各種研修は、エリフさんの雇用可能性を高めただけでなく、就職後にもウェルビーイングを安定させ、長く職場で働き続けるために役立っています。
エリフさんは、「家族を対象としたカウンセリングもできるようになりたいです。」と言い、子どもの保護の専門家としてキャリアを築きたいと考えています。

また、シリア難民のキスメットさん*は、夫と娘とトルコに9年半近く住んでいます。彼女は初等教育までしか受けていませんが、自分の名前を付けた衣料店を持つことをずっと夢見ていました。しかし、トルコに住む多くのシリア人女性と同様、キスメットさんはトルコで働くために必要な情報にアクセスできておらず、行動を起こすための自信もなく、日々のストレスを抱えていました。
キスメットさんは、この事業でSkills to Succeed(成功のためのスキル)研修や個別の雇用支援、精神保健・心理社会的支援に参加しました。生計支援に関する活動では、トルコにおける労働市場を理解するとともに、履歴書の作成についても助言をもらい、衣料店を開くために必要な具体的なステップを描くことができました。一方で、精神保健・心理社会的支援では、家庭内で争いごとがあったりストレスのかかる状況にあるときの健全な対処法を学んだり、人間関係において落ち着いて対処する方法を学びました。
 


個別の雇用支援を受けるキスメットさん


キスメットさんは、「お店を開くとしたら、どのように始めるか?公式な手続きを踏んで進めなければいけません。色々な研修を通じて、もっと情熱を持つようになりました。これまでは応援してくれる人がいませんでしたが、誰か応援してくれる人が必要だったんです。」と語ります。また、シリア人女性として活動に参加したことについて、「女性、母親、妻として、これらの研修はとても役立つものでした。自分の足で自立するためのサポートをしてくれました。」と語り、他のシリア人女性が、家での仕事をいったん離れて研修に参加している姿を見て勇気づけられたと言います。本事業の活動を通して、キスメットさんは、自身の目標がより明確になり、より安定・自立した未来を実現するための自信を持つことができるようになりました。

他国と比べても格段に多くの難民を受け入れてきたトルコにおいて、近年の自国の経済危機やシリア国内での政権交代を受け、難民を支援することに対する逆風は強まっています。その逆風の中で、この事業でも一般企業への働きかけが実を結ばなかったり、一部活動の変更を余儀なくされることもありました。一方で、そのような難しい状況の中でも、自分の足で立ちたいと未来を切り開こうとする人たちがいます。せーブ・ザ・チルドレンは、これからもそのような人たちに寄り添い、この先どこで暮らすことになっても自分の強みを活かして望む未来をつかめるよう、支え続けていきます。


本事業は、ジャパン・プラットフォームと、個人・法人の多くの皆様のご寄付により実施しました。
*プライバシー保護のため名前は変更されています。


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(海外事業部 トルコ事業担当)

[1] https://data.unhcr.org/en/situations/syria2026331日アクセス)

 

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