パキスタン(公開日:2025.02.28)
【事業完了報告】パキスタン:アフガニスタン難民とホストコミュニティの子どもたちを対象とした学習継続と復学支援
子どもたちが教育を受けられない理由は、教育の重要性が養育者に認識されていない、女子が教育を受けられないなどの社会文化的規範・慣習のほか、学校が遠くて通えない、校舎に水道や電気がない、質の高い教員が不足している、教育に対する政府支出が少ない、世帯の困窮で必要な学用品を購入できないなど、さまざまです2。
また、隣国アフガニスタンで、2021年8月に起こった暫定政権への移行後、アフガニスタンから大勢の人たちがパキスタンへ避難してきました。
2024年12月末時点で、パキスタン国内で難民登録しているアフガニスタンの人たちは130万人にのぼります3。しかし、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、未登録の人を含めると約320万人のアフガニスタン難民が避難生活を送り、そのうち47%が18歳未満の子どもであると推計されています4。
アフガニスタン難民の子どもたちも、パキスタンでの避難生活を余儀なくされる中、上述した理由により、教育を受けることが難しい状況に置かれています。
さらに、およそ1,600万人の子どもを含む約3,300万人が、2022年7月に発生した大規模な洪水の影響を受けました5。洪水により2万5,187校が被災し6、被害を受けなかった学校も避難先として使われたことから、220万人の子どもたちの教育に影響が及び、教育支援を必要としていました7。
このような状況もあり、アフガニスタン難民と難民を受け入れている地域(ホストコミュニティ)の双方において、子どもを結婚させたり、働かせたりするなどの負の対処法を取る世帯の増加や、家庭内暴力や中退などのリスクが上昇しています8。
今回支援を実施したパキスタン西部のバロチスタン州は、アフガニスタンからの難民を国内で2番目に多く受け入れている地域です9。
バロチスタン州では、初等・中等教育における未就学率、性別による教育格差の高さや教育の質の低さが課題です10。
また、他州と比較しても経済的に貧しく11 、子どもたちが教育を受けるために必要な学用品などの費用を支払うことが困難な世帯が多い状況です。
こうした状況を受け、2023年3月1日から2024年3月31日にかけてセーブ・ザ・チルドレンは、現地パートナー団体のTameer e Khalq Foundation (TKF)と協働して、バロチスタン州で、学習継続および復学支援事業を実施しました。
この事業ではまず公立学校20校を対象にし、子どもたちが通学を継続する上で学校が安心・安全な環境になるよう学校環境の評価を行い、必要な施設の修繕を実施しました。
また、学用品を購入することが困難な子どもたちが学習に集中できるよう、学校に通学する生徒2,000人に対し、ペンやノートなどの学用品も配布しました。
上述した公立学校20校に勤務する60人の教員に対しては、教育の質が担保できるよう、ジェンダー平等と障害のある子どもの包摂(インクルーシブ)、子どもにとって過ごしやすい学習環境の構築や学校が閉校になった場合の遠隔教育などについての研修を実施しました。また、子どもに対する暴力や児童労働を防止するためにも普段子どもと接する教員がこれらのリスクを理解していることは重要です。そのため、心理的な問題を抱えた子どもたちへの対応方法や、暴力や児童労働などのリスクに直面し支援を必要としている子どもを明らかにし、必要な支援につなぐための研修も教員30人に対して実施しました。
子どもが困難な状況に直面した際に備え、適切に対処できるようになるためには子ども自身のレジリエンス12を高めることも必要です。上記の研修を受けた教員は子どものレジリエンスを高めるためのワークショップを各校で実施しました。このワークショップを通して子どもたちは子どもの権利について知り、感情のコントロールや他の子どもと協力することの重要性などについて学びました。
また、子どもたちが通学を継続するためには保護者を含む地域住民が教育や女子教育の重要性を理解することも大切です。そのため地域住民に対する啓発活動を実施し、延べ5,874人が活動に参加しました。啓発活動では地域住民が主体となって入学を呼びかけるキャンペーンも行われました。教育以外にも公衆衛生や栄養、暴力や児童労働におけるリスクなどに関するトピックを啓発活動では取り上げました。
さらに教員や地域住民の聞き取りを通し、貧困や障害などの理由により学校から中退するリスクが高い、あるいは学校から中退してしまった子どもたちを特定し、地域のパキスタン人の子ども265人とアフガニスタン難民の子ども220人に対し、通学継続あるいは復学できるように個別支援を実施しました。この個別支援では各世帯に対し、国や自治体が提供する給付金や医療支援などの社会保障サービスの情報提供や、NGOや国際機関が提供している各種サービスの利用につなげるための支援を実施しました。
これに加え、中退のリスクがある子どもの中退防止および既に中退してしまった子どもへの対応策として実施してきた個別支援を、教育活動と統合することによる有効性や課題、学びについて教育行政職員や現地NGOなどの各関係者と共有し、より良い支援や政策を考えるため、ワークショップや会議を開催しました。参加者からは地域住民や保護者、行政、NGOなどが一体となって協力し合うことが重要であり、関係者全員が個別支援における付託の手順を知り、それに沿うことで良い結果が達成できるという声があげられました。
次回はこの事業で支援を受けた子どもたちのケースストーリーをご紹介します。
本事業は皆様からのご寄付により実施しています。
(海外事業部 小山光晶)
1 Pakistan Institute of Education, PakistanEducation Statistics 2021-22 - Highlights Report, Jan 2024,p 7
※調査期間は2021-2022年だが、結果は2024年に公表された。
2 SABIHA ABID,Pakistan & GULF Economist “Education in Pakistan: problems, challenges andperspectives”
3 UNHCR, “Country - Pakistan (Islamic Republic of) (unhcr.org)” 2025年1月30日閲覧
4 UNHCR, “Regional Refugee Response Plan for AfghanistanSituation - 2024 - 2025 p28”
5 OCHA, “Revised Pakistan 2022 Floods Response Plan: 01 Sep 2022- 31 May 2023 (04 Oct 2022)” p2
6 OCHA, “Revised Pakistan 2022 Floods Response Plan: 01 Sep 2022- 31 May 2023 (04 Oct 2022)” p14
7 Education Cluster,Save the Children, UNICEF “Pakistan Education Sector Working Group flood responseperformance monitoring dashboard (as of 28 February 2023)”
8 OCHA, “Revised Pakistan 2022 Floods Response Plan: 01 Sep 2022- 31 May 2023 (04 Oct 2022)” p24-5
9 UNHCR, “Country - Pakistan (Islamic Republic of) (unhcr.org)” 2025年1月30日閲覧
10 Government ofBalochistan Balochistan Education Sector Plan 2020-25 (scspeb.org), p131
11 Government ofBalochistan Balochistan Education Sector Plan 2020-25 (scspeb.org), p20
12 回復力とも言う。子どもが持つ、困難によりもたらされる有害な影響を克服する能力や適切な権利、健康、発達を実現する方法を見出すための適応能力のこと。出典:人道行動における子どもの保護の最低基準第2版