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ネパール
(公開日:2013.07.22)

24+6=210!? 15x3=315!? 子どもがよりよく学ぶための支援とは?(2013.7.22)

 

私たちセーブ・ザ・チルドレンは子どもの権利を保護、推進する団体ですが、実際の日々の活動では、もちろん子どもたちを直接対象にした活動も幅広く展開しているものの、特に教育分野については、子どもたちに接する教師や教育行政官に対する支援を通して子どもが受ける教育の機会を拡大し、質を改善することを目指すことが多いのが実情です。


昨年からネパールにおいて、日本政府のコミュニティ開発支援無償を通して実施している基礎教育プロジェクトでは、ネパールの8つの郡において、新規教室の建設のほか、教室内の学習教材整備を通しての環境整備、学校運営委員会の組織強化、教員研修といった様々な活動を組み合わせ、対象学校の学習環境全体の改善を目指しています。



<このような「教室」で勉強せざるを得ない子どもたち、カイラリ郡>


今回はこのうち、今年から開始した教員研修の活動をご紹介したいと思います。


NGOによる支援で時々指摘される問題として、ネパールのような途上国では政府の調整力の問題と合わせて、支援する国や開発援助機関による優先課題の調整が十分に行われず、多種多様なNGOや支援団体が教育分野の支援を行い、必ずしも全体像が把握されないまま、国内各地で「経験者研修」が実施され、その質や成果が十分に検証されていないことです。上記のコミュニティ開発支援無償プロジェクトでは、ネパール政府教育省(日本の文部科学省に相当)と協力して事業を進めているため、各団体がばらばらに行う教員経験者研修の問題は何度も政府関係者から指摘されていました。


そこで、その反省を受けて、私たちセーブ・ザ・チルドレンは、教育省に加えて、同省傘下の関連部局である教育開発センターやカリキュラム開発センターと一緒に小学校教員を対象にした経験者研修の内容作成と実施に取り組むことにしました。約3か月間の準備期間を経て、今年6月に西部のカイラリ郡というところで、約40名の先生らを対象に4日間の研修を実施しました。


研修内容は、ごく基本的なことですが、先生が日々子どもに接し、科目を教えていくうえで、学習内容を生徒各人がどれだけ理解しているのか、それを教師が把握するためには何をしなければならないか、ということです。これは言うのは簡単ですが、実際には難しいことです。テストをすれば済む話、と思われる方もいるかもしれませんが、毎日テストをするのは先生には負担ですし、教室での日々のやりとりで先生が生徒の理解度を把握しておく必要があります。例えば、授業中に子どもに何か問題を出すときに、生徒全員に一緒に答えさせるよりも、先生がいったん問題を全員に言ってから、しばらく時間をおいて誰か一人の生徒を指名したほうが、生徒一同は誰が差されるか分からず、全員が答えを考える努力するので、これが考えることを促し、、学習上、より効果的である、と考えられています。しかしながら、ネパールのある調査では、これを実践している先生は全体の10%程度、という報告もあります。また、一人ずつ指名することにより、先生も生徒個々人の理解度を把握できる、という利点があります。このようなことは日本の小学校では当然のことなのかもしれません。


<先生は子どもがついてこなくてもどんどん質問を続けてしまうことがあります、バンケ郡>


さらなる課題は、算数や国語のテストをして、この子は何点、あの子は何点、と先生が分かったとしても、各生徒がテスト問題のうち、どの問題で答えられないのか、どのような間違いをしているのか、なぜそのような間違いをしてしまうのか、子どもがよりよく理解するためにどのような指導を先生がしなければならないのか、ということまで考えなければ、子どもの学びが向上することはない、ということです。これを口で説明するのは簡単ですが、では実際に日々の授業で具体的にどうする必要があるのか、を教員たちにわかってもらうことが研修をする上での大きな課題でした。


そのため、今回の研修では、「診断テスト」と呼ぶ算数のテストを導入し、2つの学校の5年生合計約70人に回答してもらうことにしました。この診断テストをする理由は、誰が何点取れるか、を知るためではなく、子どもたちがどの問題で答えられないのか、を把握することが目的なので、足し算や掛け算の計算問題を簡単なものから次第に複雑なものにしていくほか、ネパール語と算数の両方の理解度を計測するための応用問題を導入しました。


その結果、足し算や掛け算で繰り上がりがない場合、例えば、32+7は39、11X3は33、と大半の生徒が正しく回答できるのですが、繰り上がりがあると、26+4という比較的小さな値でも、一定数の子どもが210、掛け算では15X3を315と回答していることが判明しました。これは、前者については、6と4を足して10にし、2をおろしてきて210にし(1を繰り上げない)、後者については、5x3で15、さらに3と1を掛けて3、それで315にしているわけです。子どもとしては、たとえ間違っていたとしても一定の規則で「計算」していることになります。また、算数の応用問題では、教師が「1袋65ルピーのコメを買うのに100ルピー札を払ったらお釣りはいくらになるか」という問題を口頭で質問すると生徒は理解するのですが、文章を読んで答える状況だと、多数の子どもがネパール語の読解を困難に感じていることが判明しました。


この結果を研修会場に持ち帰り、見せたところ、教員一同は驚きとショックを隠せず、白熱した議論が始まりました。なぜこのような比較的簡単な計算を間違えるのか、桁の意味がそもそも分かっていない、等々です。この議論から、普段、先生たちは、子どもの答えが正しいか間違っているか、テストで何点を取ったのか、だけに関心があり、どこが間違っているのかを診断しようとしていないことが判明しました。仮に子どものうち一人だけがこのように回答しているのであれば、気に留めないかもしれませんが、複数の生徒が同じ間違いをしている、という事実から、子どもが悪いのではなく、先生の教え方に問題がある、という気づきのきっかけになりました。実際に子どもがどう間違えているのかを提示され、大半の教員は、自分たちから生徒が理解するように努力する必要があることを理解してくれたようです。


<研修の間、実際に学校に行って、模範授業を行いました。>


今後はこの研修を受けた教員が実際に日々の授業でより子どもに分かりやすいように教えるように具体的な方策を講じることが求められており、参加者した教員たちは自分たちの今後の教授法改善計画を作成しました。教授法の改善は時間がかかることであり、一朝一夕に子どもの学びを確実なものにしていくことは至難の業ですが、今回の研修で小さな「気づき」があったことを前向きにとらえ、この気づきを継続させていくことが私たちの課題です。


(報告:ネパール駐在員 塩畑真里子)


 

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