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日本/災害時における心理社会的支援
(公開日:2016.09.07)

被災した子どもの心のケアのために、知っておきたいこと

 

自然災害などの緊急時、「支援をしたい。でも、ストレスを抱えた被災者、特に子どもにどう関わればいいか分からない」と思ったことはないだろうか?そんな時、支援する側にどのような行動が求められるかを示した、「子どものための心理的応急処置(Psychological First Aid for Children)」(以下、「子どものためのPFA」)という手法がある。

セーブ・ザ・チルドレンでは今年4月、熊本地震の発生に伴う緊急支援の現場でも、この手法を活用した。被災した子どもたちは、実際にどのような反応を見せ、また、支援者はどのように子どもたちと向き合っているのだろうか?



子どものためのPFAとは?


「子どものためのPFA」は、世界保健機関(WHO)などが2011年に開発したPFAマニュアルをもとに、2013年にセーブ・ザ・チルドレンが作成した。PFAマニュアルには、緊急時にストレスを抱えた人に接する際、どのように相手に寄り添えばよいのかという支援者としての姿勢と行動が示されている。心理や精神保健の専門家でなくても使えることが、大きな特徴だ。
 
子どものためのPFAでは、子どもと養育者への支援に関する内容を、より充実させている。なぜなら、紛争、自然災害だけでなく、日常で起こりうる事件や事故などにおいても、子どもは大人とは異なる反応や考えを示すからだ。また、子どもには特有のニーズがあり、年齢によって必要とする支援も異なる。



熊本の現場から

 
「夜寝るときにいっつも夢を見るけん、こわい」「5つ葉のクローバーを取ると、逆に幸せすぎて不幸になるから、家に帰れないかもしれないから、絶対取らない」−。これらは今年4月、地震に見舞われた熊本で、「こどもひろば」の子どもたちから聞いた声だ。
 
セーブ・ザ・チルドレンでは4月15日以降、熊本県益城町を中心に緊急支援・復興支援事業を実施。学校再開前までの時期には、「こどもひろば」を避難所5カ所で開設・運営した。こどもひろばは、緊急時に子どもたちが、普段していたような遊びを通じて、より日常に近い生活を取り戻せるよう手助けする、安心・安全な空間である。

熊本地震発生の翌日、「こどもひろば」開設に向けて準備をする筆者(右)

子どもたちの変化は、会話の内容だけでなく、さまざまなところで見受けられた。鉄棒をガタガタ揺らして「地震だ〜」と言ったり、「お家がぺっちゃんこー、車がぺっちゃんこー」と言いながら粘土を潰したりする「地震ごっこ」。
 
また、「赤ちゃん返り」と呼ばれる現象も起きており、乳幼児を抱える養育者から「子どもが夜寝なくなってしまった」「おむつが取れたばかりなのに、また戻ってしまった」という声を聞いた。こどもひろばのスタッフにおんぶをせがむ子どもたち。そして、欲求や願望を表現しようと、折り紙や粘土、ぬいぐるみなどを使い、避難所に持参できなかった身の回りの品や、食べたいものをつくる子どもたちもいた。
 
このように、示す反応はさまざまだが、心理や精神保健の専門家によると、危機的状況下の子どもたちにとっては自然なことで、そばにいる大人が、安心して温かく見守ることで徐々に回復する。ただ、さらなる支援が必要な子どもは、専門家に相談する必要があるという。



「見る・聴く・つなぐ」で支援


では、支援者は実際にはどのように子どもを見守り、さらなる支援が必要な子どもに対して適切な対応をするのだろうか?ここで登場するのが、子どものためのPFA。その行動原則は「見る・聴く・つなぐ」と、とてもシンプルである。


まず「見る」では、衣食住や医療などの面で明らかに支援を必要としている、また、ずっとふさぎ込んでいるなど、気になる様子の子どもがいないか、周囲を見渡し確認する。
 
 次に「聴く」。支援を必要としている子どもに寄り添いながら、話を聴く。こちらから「地震が来たとき怖かった?」「今何が一番不安?」などと根掘り葉掘り詮索するのではなく、子どもの方から話し出した場合に、傾聴する。その際、子どもと視線が合うような姿勢をとるほか、相づちを打つなど、子どもが話しやすい環境をつくることがポイント。子どもの話を遮ったり、自らの考えで子どもの話を判断したりせず、あくまでも子どもから聴いた話を要約して内容を確認する。
 
ストレスを抱えた子どもは、時に涙を流し、興奮しながら話をすることもある。そうした場合は、水やティッシュを差し出す、椅子に座るよう促す、適切であれば背中をさするなど、落ち着けるよう手助けをすることも、子どものためのPFAには含まれている。幼い子どもであれば、一緒に深呼吸するのも良いだろう。
 
そもそも、すぐに話ができない子や、話したくない子もいる。「私はここにいるから、話したくなったらいつでも声をかけてね」と、話を聞く大人の存在を伝えるだけでも違う。
 
そして「つなぐ」では、実際に子どもや養育者から話を聴き、必要としていることに対応できれば行う。できない場合には、適切な人やもの、情報へ橋渡しする。被災地で子どもと接していると、そのニーズはさまざま。大切なことは何でもしてあげるのではなく、できるだけ子どもが自分の力で問題に対処できるよう、手助けすることが肝心だ。
 
子どもの中には、依然として強いストレスを抱えていたり、日常生活に支障をきたしているなど、自分だけでは上手く対処できず、さらなる支援を必要とする子どもがいる場合も。その際には、専門家(医師、保健師など)につなげる必要がある。



大切なのは、準備!


PFAの行動原則「見る・聴く・つなぐ」をよりスムーズに行うには、準備が欠かせない。特に重要なのは、被災地の安全や被災状況、現場で機能している支援のほか、自分自身が活動に入る避難所には、どういう人たちがいて、どのような役割を担っているか、といった情報収集である。
 
被災地の状況は刻一刻と変わり、一人で支援活動はできない。連携する機関・団体同士が協力しながら、常に最新情報を収集、共有していく必要がある。また、セーブ・ザ・チルドレンでは、平時から国立精神・神経医療研究センターや災害派遣精神医療チームなどと協力し「子どものためのPFA」研修を実施している。事前準備として、こうした研修に参加することも、検討してほしい。
 
忘れてはならないPFAの前提は、被災者を傷つけないこと。だからこそ、大規模災害支援において、さまざまな立場の支援者一人ひとりが、PFAの行動原則を活動における一つの核にする―。これにより、セクターや機関を超えた連携が実現でき、心理社会の側面から被災者に寄り添い、日常を取り戻すために支援できるのではないだろうか。

*国連や人道支援機関が参加するIASC(Inter-Agency Standing Committee:機関間常設委員)によるガイドラインでは、緊急下の心のケアを表現するために、精神保健と社会心理的支援と併記している。セーブ・ザ・チルドレンの心のケアは、この心理社会的支援にあたる。

国内事業部プログラムオフィサー
赤坂美幸


 

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