ウガンダ(公開日:2026.09.18)
【現場へのまなざし#1|ウガンダ 】「南スーダンに帰りたい」--10歳の子どもの言葉の向こうに
「現場へのまなざし」では、子どもたちや地域の人々との関わりを通して見えたこと、耳にした声、そしてそこで考えたことを、セーブ・ザ・チルドレンのスタッフの視点からお届けします。子どもたちの暮らしと、それを支える人々の言葉に思いを馳せ、子どもたちを取り巻く状況や、私たちにできることについて、ともに考えるきっかけになれば幸いです。
今回は、ウガンダ駐在歴3年のスタッフが、現地での活動や子どもたちとの対話を通じて見えてきた気づきや想いをお届けします。
■「帰りたい」と願う理由
その日、私たちが訪れたのは、17歳の姉と3人のきょうだいが子どもたちだけで暮らす家庭でした。日頃から子どもたちへの家庭訪問を行い、信頼関係を築いてきたパラ・ソーシャルワーカーに現地語通訳をしてもらいながら、私たちは子どもたちの話を聞きました。
数年前、子どもたちは、祖母とともに南スーダンから避難し、ウガンダ北部のパラベック難民居住区にたどり着きました。しかし、しばらくして祖母が病気を患い、治療のために、子どもたちと離れ南スーダンへ戻ることになりました。その後祖母は再び戻ってくることができず、子どもたちだけで暮らす日々となりました。
周囲の大人たちに支えられながら、17歳の姉は日雇いの仕事で生計を立て、きょうだいの面倒を見ています[2]。祖母と暮らしていた頃には学校に通っていた年下の弟たちも、現在は通うことができていません。
今の暮らしについて話を聞くなかで、これからどうしたいかと尋ねると、10歳の弟は静かに答えました。
「南スーダンに帰りたい」
その理由を尋ねると、うつむきながらこう話してくれました。
「南スーダンに戻れば、おばあちゃんや親族に会えるかもしれない。ここにずっといても、やることがないから」
その言葉は私の心を強く締め付けました。紛争から逃れ、安全を求めてたどり着いたはずの難民居住区。しかし、目の前にいる10歳の子どもは、私たちから見ればなお治安への懸念が残る南スーダンに「帰りたい」と話している。
安全な場所で暮らすことが、子どもにとって一番よいことなのだろう。私はどこかで、そう考えていたのかもしれません。しかし、その子にとっては、安全であることだけでは、「ここで暮らしたい」と思える理由にはならないのかもしれない。そんなことを考えました。
その後も、「南スーダンに帰りたい」というその子の言葉が、ずっと頭から離れませんでした。
■子どもが家族を支えるということ
ウガンダのパラベック難民居住区では、このように18歳未満の子どもが世帯主となり、きょうだいの生活を支える「子ども世帯」が多く暮らしています。
その背景には、紛争による親との死別や家族の離散があります。また、大人と一緒に避難してきた場合でも、病気や生活上の困難から、子どもが家族を支える役割を担わざるを得ないことがあります。
食事をどう確保するか。幼いきょうだいを誰が見守るのか。病気になったらどうするのか。家族を支えるために働けば、学校に通うことはさらに難しくなります。
また、18歳を超える青少年が幼いきょうだいや自分の子どもを育てながら、一人で家族の生計を支えている家庭も少なくありません。年齢だけで支援の必要性を判断するのではなく、それぞれの家庭がどのような困難を抱えているのかを丁寧に確かめることが欠かせません。
■地域の最前線にいる支援者を支える
こうした世帯に最も身近なところで寄り添っているのが、地域で活動するボランティアのパラ・ソーシャルワーカーです。その多くは、自身も南スーダンから避難してきた難民で、地域の言葉や文化を理解しながら、家庭を訪問し、子どもたちの声に耳を傾けています。
子どもが見せる小さな変化や、何気ない一言に気づき、その背景にある困難を考え、必要な支援につないでいく。セーブ・ザ・チルドレンは、こうした地域の支援者が子どもたちに寄り添い続けられるよう、研修や専門スタッフによる支援を行っています。
■子どもたちにとって「平和」とは
「南スーダンに帰りたい」という10歳の男の子の言葉の向こうには、祖母や親族に会いたいという願いだけでなく、学校に通えない今の暮らしから抜け出したいという思いもあったのかもしれません。
たとえ銃声の聞こえない場所にいても、家族と離れ、学校に通えず、明日何をして過ごせばよいのかも分からない。そんな暮らしの中で発せられた「帰りたい」という言葉を思い返すと、子どもにとって「平和」とは何なのだろうと考えさせられます。
もちろん、その願いをすぐにそのままかなえることが、必ずしもその子にとって最善とは限りません。一方で、「危険だから」と退けてしまえば、その言葉の背景にある子どもの願いや困難を見落としてしまいます。
今の暮らしで何に困っているのか。きょうだいとの関係や学校に戻る可能性、親族とのつながり、周囲の大人から受けられる支え、子ども自身の思いを聞きながら一つひとつ確かめていく必要があります。
そのうえで、その子にとって何が最も安全で、これからの成長につながるのかを考えること。それが、私たちが子どもの保護の活動で大切にしている「子どもの最善の利益」という考え方です。
本日9月21日は国際平和デーです。
子どもたちにとって「平和」とは何なのか。
ウガンダの現場で出会った10歳の少年の言葉に思いを馳せながら、私自身も、現場でその問いに向き合い続けていきたいと思います。
海外事業部 ウガンダ駐在員
<参考>
[1] 【子どもの保護コラム】ケースマネジメントとは?―子ども一人ひとりに合わせた支援のかたち―
[2] ウガンダのでは児童法では、子どもの最低就労年齢を原則として16歳とし、18歳未満の子どもを有害・危険な仕事に従事させることを禁止しています。
Republic of Uganda. (1996). Children Act, Chapter 62, Section 8 (as amended by the Children (Amendment) Act, 2016).
本事業は、株式会社ファーストリテイリング(ユニクロPEACE FOR ALLプロジェクト) からのご寄付により実施しています。
セーブ・ザ・チルドレンは毎年600以上の企業・団体の皆さまとさまざまな形で連携し、子どもたちを取り巻く課題解決に向けて活動しています。
【企業・団体の皆さまからのお問い合わせ先】
公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン 法人連携担当
japan.corporatepartner@savethechildren.org
https://www.savechildren.or.jp/partnership
今回は、ウガンダ駐在歴3年のスタッフが、現地での活動や子どもたちとの対話を通じて見えてきた気づきや想いをお届けします。
■「帰りたい」と願う理由
その日、私たちが訪れたのは、17歳の姉と3人のきょうだいが子どもたちだけで暮らす家庭でした。日頃から子どもたちへの家庭訪問を行い、信頼関係を築いてきたパラ・ソーシャルワーカーに現地語通訳をしてもらいながら、私たちは子どもたちの話を聞きました。
数年前、子どもたちは、祖母とともに南スーダンから避難し、ウガンダ北部のパラベック難民居住区にたどり着きました。しかし、しばらくして祖母が病気を患い、治療のために、子どもたちと離れ南スーダンへ戻ることになりました。その後祖母は再び戻ってくることができず、子どもたちだけで暮らす日々となりました。
周囲の大人たちに支えられながら、17歳の姉は日雇いの仕事で生計を立て、きょうだいの面倒を見ています[2]。祖母と暮らしていた頃には学校に通っていた年下の弟たちも、現在は通うことができていません。
今の暮らしについて話を聞くなかで、これからどうしたいかと尋ねると、10歳の弟は静かに答えました。
「南スーダンに帰りたい」
その理由を尋ねると、うつむきながらこう話してくれました。
「南スーダンに戻れば、おばあちゃんや親族に会えるかもしれない。ここにずっといても、やることがないから」
その言葉は私の心を強く締め付けました。紛争から逃れ、安全を求めてたどり着いたはずの難民居住区。しかし、目の前にいる10歳の子どもは、私たちから見ればなお治安への懸念が残る南スーダンに「帰りたい」と話している。
安全な場所で暮らすことが、子どもにとって一番よいことなのだろう。私はどこかで、そう考えていたのかもしれません。しかし、その子にとっては、安全であることだけでは、「ここで暮らしたい」と思える理由にはならないのかもしれない。そんなことを考えました。
その後も、「南スーダンに帰りたい」というその子の言葉が、ずっと頭から離れませんでした。
■子どもが家族を支えるということ
ウガンダのパラベック難民居住区では、このように18歳未満の子どもが世帯主となり、きょうだいの生活を支える「子ども世帯」が多く暮らしています。
その背景には、紛争による親との死別や家族の離散があります。また、大人と一緒に避難してきた場合でも、病気や生活上の困難から、子どもが家族を支える役割を担わざるを得ないことがあります。
食事をどう確保するか。幼いきょうだいを誰が見守るのか。病気になったらどうするのか。家族を支えるために働けば、学校に通うことはさらに難しくなります。
また、18歳を超える青少年が幼いきょうだいや自分の子どもを育てながら、一人で家族の生計を支えている家庭も少なくありません。年齢だけで支援の必要性を判断するのではなく、それぞれの家庭がどのような困難を抱えているのかを丁寧に確かめることが欠かせません。
■地域の最前線にいる支援者を支える
こうした世帯に最も身近なところで寄り添っているのが、地域で活動するボランティアのパラ・ソーシャルワーカーです。その多くは、自身も南スーダンから避難してきた難民で、地域の言葉や文化を理解しながら、家庭を訪問し、子どもたちの声に耳を傾けています。
子どもが見せる小さな変化や、何気ない一言に気づき、その背景にある困難を考え、必要な支援につないでいく。セーブ・ザ・チルドレンは、こうした地域の支援者が子どもたちに寄り添い続けられるよう、研修や専門スタッフによる支援を行っています。
■子どもたちにとって「平和」とは
「南スーダンに帰りたい」という10歳の男の子の言葉の向こうには、祖母や親族に会いたいという願いだけでなく、学校に通えない今の暮らしから抜け出したいという思いもあったのかもしれません。
たとえ銃声の聞こえない場所にいても、家族と離れ、学校に通えず、明日何をして過ごせばよいのかも分からない。そんな暮らしの中で発せられた「帰りたい」という言葉を思い返すと、子どもにとって「平和」とは何なのだろうと考えさせられます。
もちろん、その願いをすぐにそのままかなえることが、必ずしもその子にとって最善とは限りません。一方で、「危険だから」と退けてしまえば、その言葉の背景にある子どもの願いや困難を見落としてしまいます。
今の暮らしで何に困っているのか。きょうだいとの関係や学校に戻る可能性、親族とのつながり、周囲の大人から受けられる支え、子ども自身の思いを聞きながら一つひとつ確かめていく必要があります。
そのうえで、その子にとって何が最も安全で、これからの成長につながるのかを考えること。それが、私たちが子どもの保護の活動で大切にしている「子どもの最善の利益」という考え方です。
本日9月21日は国際平和デーです。
子どもたちにとって「平和」とは何なのか。
ウガンダの現場で出会った10歳の少年の言葉に思いを馳せながら、私自身も、現場でその問いに向き合い続けていきたいと思います。
海外事業部 ウガンダ駐在員
<参考>
[1] 【子どもの保護コラム】ケースマネジメントとは?―子ども一人ひとりに合わせた支援のかたち―
[2] ウガンダのでは児童法では、子どもの最低就労年齢を原則として16歳とし、18歳未満の子どもを有害・危険な仕事に従事させることを禁止しています。
Republic of Uganda. (1996). Children Act, Chapter 62, Section 8 (as amended by the Children (Amendment) Act, 2016).
本事業は、株式会社ファーストリテイリング(ユニクロPEACE FOR ALLプロジェクト) からのご寄付により実施しています。
セーブ・ザ・チルドレンは毎年600以上の企業・団体の皆さまとさまざまな形で連携し、子どもたちを取り巻く課題解決に向けて活動しています。
【企業・団体の皆さまからのお問い合わせ先】
公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン 法人連携担当
japan.corporatepartner@savethechildren.org
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