ガザ(公開日:2015.08.19)
【ガザ紛争から一年】最激戦区の一つシュジャイヤ地区を訪ねて
51日間に及んだガザ紛争から1年、セーブ・ザ・チルドレンの広報担当デイジー・ボルドウィンによる現地からの報告をお届けします。
シュジャイヤ地区を見渡すデイジー・ボルドウィン。
紛争から一年、廃墟のまま復興は進んでいない。
シュジャイヤ地区を見渡すデイジー・ボルドウィン。
紛争から一年、廃墟のまま復興は進んでいない。
瓦礫の静寂を破って流れてきたキンキンと鳴り響くメロディー。アイスクリームを売り歩くワゴンが近づいて来たのかと思いましたが、現地のスタッフが、水を売る給水トラックの音であると教えてくれました。
51日間の紛争から一年、ガザにまた夏がやって来ました。ガザの人々が今なお直面している課題をより深く理解するため、最も甚大な被害を受けた地区の一つであるシュジャイヤ地区を訪問しました。
水は大きな問題です
ガザの水は、紛争で被った損傷と単一帯水層の過剰使用の結果、海水が地下水に入り込み、全域に亘ってその90%が飲用に適していません。このため、飲み水はミネラルウォーターを買わなければなりません。しかし、ガザ地区の失業率は現在40%を超えており世界で最も高く、殆どの人はそんな余裕はありません。
紛争から一年、家を破壊された10万人の人たちには未だ住まいがありません。しかしながら、この紛争の最も大きな犠牲は、目に見えない被害でもあるのです。
残された家族の心理的な犠牲
紛争の渦中、マリアムさんは夫を、そして彼女の9人の子どもたちは父親を亡くしました。10歳の娘ラハフさんは父親に特になついていたこともあり、父の死後、人との交わりを断ってしまいました。マリアムさんは、彼女の全ての子どもたちのために強くあろうと全力を尽くそうとしていますが、今の状況から脱する道を見いだすことに苦しんでいます。
彼女は言います。「この状況をどうすることもできず、自分が無力であると感じています。我が子の安全を守ることもできません。」
「私は今、起きている時も寝る時も、いつも考えています、どうすれば子どもたちを助けることが出来るのか、彼らの未来を少しでも違ったものにするために何が出来るのかを。」
子どもが目撃してはならない出来事
マリアムさんと同じ悩みは、私が話したもう一人の母親、アヤさんからも聞かされました。アヤさんの10歳の息子ワシムさんは、紛争時、いとこがミサイルによって殺される恐ろしい光景を目撃しました。それ以来、彼は深刻な情緒的・心理的な問題に苦しみ続けています。
私のワシムではありません
アヤさんは息子に起こった変化はこれまでに体験したなかで最もつらいことだと言います。
「ワシムは突然笑顔になったり、笑い出したりします。爆撃がまた始まったという妄想に取り付かれることもあります。」
「寝る時には、ワシムはシーツで顔を覆って眠っています。」
「以前と同じ男の子ではなくなってしまいました。私のワシムではありません。」
それでもアヤは未来に希望を持っています
アヤさんとワシムさんは、私たちが想像しようとすることさえも難しいような体験をしてきました。それでもアヤさんは息子の将来について希望を捨ててはいません。
「ワシムが教育の機会を取り戻すことができるといいなと思っています。夫と私はその機会を奪われてしまいましたが、教育が如何に大切かを知っていますから。私は彼に対し、辛抱強く、そしてやさしく接し、ベストを尽くしています。」
ガザの子どもたちはここにいます
セーブ・ザ・チルドレンは、ラハフさんとワシムさん、そして彼らのような何千もの子どもたちとその家族に寄り添って活動し、人生を立て直すことを助けられるよう、個別カウンセリングやグループ療法を行っています。また保護者に対して、非常に困難な状況に置かれている子どもたちにどのように接し、ケアするのかについての研修も実施しています。
アヤさんは、ワシムさんの回復には時間がかかるのは分っているけれど、決してあきらめないと言っています。私たちも決してあきらめてはなりません。紛争から一年。世界がガザの子どもたちのことを忘れないことが極めて大切です。
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2014年7月7日、ガザから発射されるロケット弾への対応として、イスラエルは軍事作戦を開始。同年7月18日には、ガザの過激派が軍事活動に利用していると言われる地下トンネルを破壊することを公の目的に掲げ、ガザへの地上侵攻が開始されました。これによって住民が密集する都市部において戦闘が行われ、砲撃、空爆、激しい戦闘によって、大量の避難民、死亡者、負傷者が生じ、ガザからの継続的なロケット弾の発射により、イスラエル側の住居や工場などの民間インフラにも被害がありました。2014年8月5日、イスラエルの軍隊は国境まで撤退。8月26日には双方によって停戦が受け入れられ、現在に至っています。
しかしながら、ガザでは依然として住居がない人が10万人おり、現在も続いているガザの封鎖や人道支援/資金の中断や不達により復興は著しく遅れていて、人道的状況は深刻です。
セーブ・ザ・チルドレン、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンのガザ地区での支援活動
セーブ・ザ・チルドレンは、30年以上にわたり、ガザを含むパレスチナ全土で活動を続けてきました。ガザにおいては、緊急人道支援に加え、子どもやその家族への長期的な支援活動を実施している最も大きな国際NGOのひとつです。昨年のガザ紛争の勃発から今日までに、食糧、医薬品、新生児キット、水の配給、医療やカウンセリングサービスの提供、訓練されたボランティアのカウンセラーによる24時間ヘルプラインの運営支援などを通じ、145,945人の子どもたちに支援を届けてきました。また、子どもの保護や健康におけるリスクの低減、地域社会による緊急事態や災害への備えや対応の改善など、子ども自身の心理社会的な側面を含め、地域社会や子どもたちのレジリエンス(立ち直る力、回復力、復元力、弾力)の強化を目的とした活動も行っています。
セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンは、日本人現地駐在員を派遣して、今年4月よりガザの子どもたちの保護・教育支援事業を実施しています。この事業を通じて、子どもたちにとって安心・安全な教育環境の整備を行うとともに、子どもたちへの心理社会的サポートを地域ぐるみで行うことで、子どもたちや地域の人々が自らの力で困難を克服する力を育みます。
51日間の紛争から一年、ガザにまた夏がやって来ました。ガザの人々が今なお直面している課題をより深く理解するため、最も甚大な被害を受けた地区の一つであるシュジャイヤ地区を訪問しました。
水は大きな問題です
ガザの水は、紛争で被った損傷と単一帯水層の過剰使用の結果、海水が地下水に入り込み、全域に亘ってその90%が飲用に適していません。このため、飲み水はミネラルウォーターを買わなければなりません。しかし、ガザ地区の失業率は現在40%を超えており世界で最も高く、殆どの人はそんな余裕はありません。
紛争から一年、家を破壊された10万人の人たちには未だ住まいがありません。しかしながら、この紛争の最も大きな犠牲は、目に見えない被害でもあるのです。
残された家族の心理的な犠牲
紛争の渦中、マリアムさんは夫を、そして彼女の9人の子どもたちは父親を亡くしました。10歳の娘ラハフさんは父親に特になついていたこともあり、父の死後、人との交わりを断ってしまいました。マリアムさんは、彼女の全ての子どもたちのために強くあろうと全力を尽くそうとしていますが、今の状況から脱する道を見いだすことに苦しんでいます。
彼女は言います。「この状況をどうすることもできず、自分が無力であると感じています。我が子の安全を守ることもできません。」
「私は今、起きている時も寝る時も、いつも考えています、どうすれば子どもたちを助けることが出来るのか、彼らの未来を少しでも違ったものにするために何が出来るのかを。」
子どもが目撃してはならない出来事
マリアムさんと同じ悩みは、私が話したもう一人の母親、アヤさんからも聞かされました。アヤさんの10歳の息子ワシムさんは、紛争時、いとこがミサイルによって殺される恐ろしい光景を目撃しました。それ以来、彼は深刻な情緒的・心理的な問題に苦しみ続けています。
私のワシムではありません
アヤさんは息子に起こった変化はこれまでに体験したなかで最もつらいことだと言います。
「ワシムは突然笑顔になったり、笑い出したりします。爆撃がまた始まったという妄想に取り付かれることもあります。」
「寝る時には、ワシムはシーツで顔を覆って眠っています。」
「以前と同じ男の子ではなくなってしまいました。私のワシムではありません。」
それでもアヤは未来に希望を持っています
アヤさんとワシムさんは、私たちが想像しようとすることさえも難しいような体験をしてきました。それでもアヤさんは息子の将来について希望を捨ててはいません。
「ワシムが教育の機会を取り戻すことができるといいなと思っています。夫と私はその機会を奪われてしまいましたが、教育が如何に大切かを知っていますから。私は彼に対し、辛抱強く、そしてやさしく接し、ベストを尽くしています。」
ガザの子どもたちはここにいます
セーブ・ザ・チルドレンは、ラハフさんとワシムさん、そして彼らのような何千もの子どもたちとその家族に寄り添って活動し、人生を立て直すことを助けられるよう、個別カウンセリングやグループ療法を行っています。また保護者に対して、非常に困難な状況に置かれている子どもたちにどのように接し、ケアするのかについての研修も実施しています。
アヤさんは、ワシムさんの回復には時間がかかるのは分っているけれど、決してあきらめないと言っています。私たちも決してあきらめてはなりません。紛争から一年。世界がガザの子どもたちのことを忘れないことが極めて大切です。
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2014年7月7日、ガザから発射されるロケット弾への対応として、イスラエルは軍事作戦を開始。同年7月18日には、ガザの過激派が軍事活動に利用していると言われる地下トンネルを破壊することを公の目的に掲げ、ガザへの地上侵攻が開始されました。これによって住民が密集する都市部において戦闘が行われ、砲撃、空爆、激しい戦闘によって、大量の避難民、死亡者、負傷者が生じ、ガザからの継続的なロケット弾の発射により、イスラエル側の住居や工場などの民間インフラにも被害がありました。2014年8月5日、イスラエルの軍隊は国境まで撤退。8月26日には双方によって停戦が受け入れられ、現在に至っています。
しかしながら、ガザでは依然として住居がない人が10万人おり、現在も続いているガザの封鎖や人道支援/資金の中断や不達により復興は著しく遅れていて、人道的状況は深刻です。
セーブ・ザ・チルドレン、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンのガザ地区での支援活動
セーブ・ザ・チルドレンは、30年以上にわたり、ガザを含むパレスチナ全土で活動を続けてきました。ガザにおいては、緊急人道支援に加え、子どもやその家族への長期的な支援活動を実施している最も大きな国際NGOのひとつです。昨年のガザ紛争の勃発から今日までに、食糧、医薬品、新生児キット、水の配給、医療やカウンセリングサービスの提供、訓練されたボランティアのカウンセラーによる24時間ヘルプラインの運営支援などを通じ、145,945人の子どもたちに支援を届けてきました。また、子どもの保護や健康におけるリスクの低減、地域社会による緊急事態や災害への備えや対応の改善など、子ども自身の心理社会的な側面を含め、地域社会や子どもたちのレジリエンス(立ち直る力、回復力、復元力、弾力)の強化を目的とした活動も行っています。
セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンは、日本人現地駐在員を派遣して、今年4月よりガザの子どもたちの保護・教育支援事業を実施しています。この事業を通じて、子どもたちにとって安心・安全な教育環境の整備を行うとともに、子どもたちへの心理社会的サポートを地域ぐるみで行うことで、子どもたちや地域の人々が自らの力で困難を克服する力を育みます。