アフガニスタン(公開日:2010.05.14)
「アフガンに生きる子どもたち」 第二回
就学前教育をアフガンに (上)
「クラスはとっても楽しいし、ナウルーズ先生はすごくやさしい。外に出て、みんなで手をつなぐ"チェ ーン(鎖)ゲーム"が大好き。ホジェラとも仲良しになったよ。来年から小学校に入るのも楽しみ――」
はにかみながらそう話してくれたのは、オリファ(6歳)。アフガニスタン北部のファリアブ州グルズィワン郡でセーブ・ザ・チルドレンが支援する就学前教室に通うダレイシャ村の女の子だ。アフガンでは、オリファのように就学前教育を受ける子どもの数はまだまだ少ない。
ファリアブ州はトルクメニスタンと国境を接する農村地域。開発支援が行き届きにくい貧困地域の一つだ。首都カブールから北西約430キロ、空路と陸路で約5時間の所に位置する。小麦や大麦、綿花、ぶどう、ピスタチオなどの農業と家畜が人びとの暮らしの命綱だ。同州グルズィワン郡は、州都マイマナからさらに3時間の陸路移動を要する。岩肌をむき出した山と谷を越え、そして農業を支え、ある時は洪水の源にもなる渓流を幾度と渡り、ようやく辿り着ける。また、ファリアブに無数に走る渓谷の一部には、内戦時の地方軍閥が今もそのまま割拠し、不安定な治安情勢の要因となっている。経由地の村のバザールで、カラシニコフ銃AK-47を肩から提げた軍閥を見かけることも少なくない。そのため、郡から郡へと谷の合間を縫って、道なき道を車両で走破する際は、いつも以上に気が引き締まる。
2009年12月22日――西暦のカレンダー上では年の瀬が迫る師走のせわしい季節。でも、西暦の3月に新年を迎えるイスラム暦のアフガンでは、12月といっても普段の月と何ら変わらない。年末の雰囲気とはかけ離れ、ゆったりとした時が流れる。
その日、教育チームのスタッフと共にグルズィワン郡のダレイシャ村を訪問した。目的は、就学前教室が正常に運営されているかモニタリングすること。厳冬を迎えた村の木々はその葉を落とし寒々しい様だ。正午前の心地よい日差しのもと、冷たい微風が流れる。教室が行われる礫土の家屋へ向かうと、部屋の入り口には子どもたちの小さな長靴が整然と並んでいた。靴を脱いで部屋に入ると、幼児教育ボランティアの先生、14歳のナウルーズが出迎えてくれた。その背後から、3〜6歳の男の子と女の子総勢15人も笑顔にやや緊張した面持ちを交えながら、見慣れぬ訪問者を迎え入れてくれた。年長の少女ホジェラ(6歳)がイスラム教の経典コーランの一節を唱え、他の子どもたちもそれを復唱。いよいよ教室の始まりだ。週2回、子どもたちはそれぞれの村の教室に集まり、訓練を受けた幼児教育ボランティアの先生たちのもとで、歌や手作り紙芝居、積み木、ゲームなどの遊びを通じて集団生活への適応力や思考力、運動能力を育んでいく。
セーブ・ザ・チルドレンの就学前教育の特徴の一つは、home-based教室であることだ。村の家屋で教室が行われるため、子どもたちは安全でしかも近所の同世代と顔なじみになれ、なおかつ、親たちも目が行き届きやすく安心して子どもたちを教室に送り出せる。アフガンでは男女の性差はセンシティブな問題である。しかし、就学前教室に通うような小学校低学年の年齢くらいまでは、子どもたちは性別に関係なく一つの部屋に集まって一緒に歌を歌ったり、外で手をつないで遊んだりすることができる。
紛争影響国だからこそ、子どもたちに平穏な心を育む教育の機会や、安全な遊び場の保障は肝要である。こうした子ども時代の教育こそが、将来の平和な国づくりの一歩へとつながる。就学前教室でエネルギーに満ちた子どもたちの笑顔に出会うと、不思議と長旅の疲れが吹き飛ぶ。フィールドで唯一ホッとできる瞬間である。