イエメン(公開日:2022.07.27)
【イエメン教育支援 事業完了報告】学習継続のための新型コロナウイルス感染予防および教育支援
イエメンで紛争が激化してから、約7年が経過しました。人口の75%にあたる2,340万人が支援を必要としており、そのうち55%が18歳未満の子どもたちです¹。新型コロナウイルス感染症流行以前より、紛争の影響により生じた教員や衛生施設、学用品の不足、空爆による校舎の損壊などで、2021年には約560万人が教育支援を必要としていました。
ラヒジュ県はイエメン南部に位置し、交易の要であるアデン港へも近接している地域です。
(出典: Berghof Foundation and Political Development Forum Yemen,
Local Governance in Yemen: Resource Hub)
こうした状況に対応するために、セーブ・ザ・チルドレンは、2021年3月31日から2022年3月30日にかけて紛争の影響が深刻に及んでいるイエメン南部ラヒジュ県で、新型コロナウイルス感染予防と学習継続のための支援活動を実施しました。約1年間実施した支援事業について報告します。
事業では、紛争の影響による校舎の損壊が特に大きく、必要な水・衛生施設が整っていない公立学校4校に、校舎の修繕およびトイレや手洗い場などの修繕・整備を実施しました。また、修繕後に、水・衛生施設の維持管理や、軽微な修繕に対処できるよう、各校2人ずつ、計8人の設備管理者に研修を実施し、修繕キットを配布しました。
校舎の修繕に加えて、保護者会や教員38人に対し、衛生教育に関する研修を実施しました。研修を受けた保護者会の人たちと教員は、事業対象校4校にて形成された生徒中心の学校衛生クラブメンバー48人に対し同様の衛生教育研修を実施しました。そして、研修を受けた学校衛生クラブのメンバーは、各校で計86回の衛生セッションを行い、4,230人が参加しました。
また、学校での新型コロナウイルス感染症予防策を万全にできるよう、事業対象校4校に対し、石けんやトイレの清掃用具、ごみ箱などの衛生用品を配布しました。加えて、対象校に通う生徒1,789人に対し、石けんや手指消毒液、マスクなどが入った感染予防キットを配布しました。
こうした衛生対策の活動と並行した、子どもたちが継続的に学習を行えるよう、不足している生徒用の机や椅子などの備品を各4校に提供し、生徒1,476人にバックパックや鉛筆、消しゴム、鉛筆削り、定規、筆箱、ノートなどが入った学習キットを配布しました。
また、教育の質の向上を目指し、対象4校106人の教員に対する能力強化研修も行いました。研修後は、教員による学習サークルを形成し、毎月会合を開催して、研修を受けた教員間でより良い指導の実践方法や改善点などについて共有を行う機会を設けました。
さらに、教育省職員が授業の様子をモニタリングし、指導方法の良い点や改善点について教員へフィードバックも行われました。
研修を受けた教員のうち12人は、新型コロナウイルス感染症による学校閉鎖の影響で学習が継続できていない子どもたちや、学校閉鎖以前から通学していなかった子どもたちに対して補習授業を行い、事業完了までに300人の子どもたちが補習授業を受講しました。
加えて、生徒を代表して活動する生徒会、保護者を代表して活動する保護者会を各校1グループずつ形成し、計112人が参加しました。
生徒会と保護者会は活発に活動し、生徒会は子どもたちや近隣住民へ教育の重要性や子どもの学ぶ権利について啓発するキャンペーンを行いました。保護者会は、補習授業を受ける子どもたちのサポートや校舎の修繕工事の様子を監督し意見を出すなど、重要な調整役として事業後も活動しています。
ここで、私たちの活動に参加したアハマッドさんを紹介したいと思います。アハマッドさんは事業対象校の1つに通う14歳の少年です。アハマッドさんは他の子どもと同じように学校に通うことを望んでいましたが、戦闘が激しくなって以降、困窮する世帯の経済状況や、授業内容が理解できなかったため学習に困難を抱えていたことで、学校に通う意欲を失いつつありました。
一方、アハマッドさんが通っていた学校の教員には、経済状況の悪化、日々の爆撃や暴力による心理的負担、授業の実施にあたって教育省から必要な支援を受けることができなくなったことなどにより、授業内容や生徒への対応にも負の影響が見られるようになっていました。
これらの状況に対応するため、事業では、アハマッドさんに生徒用の学習キットを配布し、補習授業を実施しました。
また、アハマッドさんが通う学校の教員に対しては、緊急下での子どもに対する教育方法や暴力のないしつけ・指導方法についての研修を実施しました。その結果、アハマッドさんは安心して学校に通うことができるようになっています。
「紛争が起こった時、私は2学年目で、学校ではとてもうまくいっていました。先生たちは優しく親切で、一緒に新しいゲームで遊んだりもしていました。私はかつて学校が大好きでしたが、紛争が始まってからは嫌いになり始めました。
紛争が始まってから学校も、先生も、すべてが変わりました。先生たちの授業の欠席、頻繁な爆撃により、授業の多くは行われなくなりました。授業が行われたとしても、先生は学校に定期的に現れず、急いで行われるようになりました。
ほとんどの先生は授業の題目を黒板に書き、教科書を開いて読むように言い、そして教科書の中から私たちが理解できない多くの宿題を出していました。
そして、先生は棒でいつも私たちを脅してきました。適切な指導が無ければ、教科書を理解することはとても難しく、私にとって試験に合格する唯一の方法は教科書に書かれていることを一字一句暗記することでした。どうか試験問題に解答することができるように願いながらです。
でも、この方法もうまくいかず、何を読んでいるのか理解できないために、非常に強いストレスを感じていました。そのせいで学校が嫌いになり、学習する意欲も失いました。私も、私のクラスメイトも学校を中退することを考えていました。
新学期が始まった時、今年もいままでと同じ学校生活になると考えていました。でも、セーブ・ザ・チルドレンの活動が学校で開始されてから、変化と改善が起こりました。
先生の授業の説明の仕方が変わり、良くなりました。生徒と先生の両方の出席率が上がって、先生たちは棒を使って私たちを脅すことも無くなりました。
先生たちは授業の内容を私たちが理解しやすいようさまざまな方法で説明し始めました。例えば、絵を使った指導方法などです。
さらにこれまで無かった衛生啓発セッションや通学再開のキャンペーンなどのいろいろな学校の活動が実施されました。
また、私たちは生徒と先生が学校内で守るべき行動規範を作成し、自分に権利があることを学びました。これらすべての変化のおかげで、また学習したいと思えるようになりました。
私の学校に対する信頼と愛情は戻り、毎朝学校に早くいくのを楽しみに起きるようになりました。私の将来の夢である先生になるために勉強を続け、他の子どもたちが適切な教育を受けられるように手助けするつもりです。」
そして、ハレドさんは事業対象校のうちの1校に勤務する教員です。この事業の開始前、ハレドさんは授業を提供するための授業用備品不足や、毎学期新しく入学する生徒への指導方法に悩みを抱えていました。
しかし、セーブ・ザ・チルドレンの支援で、授業用備品が提供され、教員研修や学習サークルなどの活動を行った結果、今では自信を持って子どもたちに指導ができると語ります。
「毎学期、私はさまざまな学年の生徒に指導しています。多様な背景を持つ多くの生徒たちに、適切に指導する方法について困難を抱えていました。学校はいつも学習教材が不足しており、十分な教員もいません。指導方法の改善も明らかに必要でした。
セーブ・ザ・チルドレンの支援により教員の指導方法、そして学校全体の状況に大きく改善が見られるようになりました。
私はいくつかの研修に参加することで、これまで自分が抱えていた指導方法に関する悩みを解消していきました。研修のおかげで新しい指導方法を身につけただけでなく、授業計画、そして教室や生徒の出席率の管理まで学ぶことができました。
子どものセーフガーディングの研修は、紛争下、そして新型コロナウイルス感染症の流行下で子どもに接する方法を身につけるのに役立ちました。
教員研修だけではなく、授業のモニタリングや教員の学習サークル活動も私の指導方法を改善し、能力を向上するために役立ちました。
セーブ・ザ・チルドレンと教育省の職員は、私の授業の様子を見て改善が必要な点について共有してくれ、良い点についてもフィードバックをくれました。
学習サークルでは他の教員と一緒に教室運営における問題点を話し合い、解決案や結果について共有しました。セーブ・ザ・チルドレンは私たちの学校に非常に大きくポジティブな変化をもたらしました。」
この事業実施期間中に、教員の授業をモニタリングしてきた教育省の職員サレさんはこう話します。
「戦闘が激しくなって以降、教員の質の向上や支援を行うことは私たちにとって非常に困難なことでした。
しかし、セーブ・ザ・チルドレンはこれまで学校では行われてこなかったような重要ですばらしい活動を実施してくれました。教員は生徒への心理的なサポートもできるようになり、授業への生徒の参加も積極的に促しています。子どもたちも自分たちの権利について気づけるようになりました。」
イエメンにおいて紛争が長期化する中、子どもたちが継続的に学習できる環境を整備することは喫緊の課題となっています。セーブ・ザ・チルドレンは、紛争下および感染症拡大の緊急下においても、子どもたちが安心して学習を継続できるよう、イエメンにおける教育支援を実施していきます。
本事業は、皆さまからのご寄付と、ジャパン・プラットフォームからのご支援により実施しました。
(海外事業部イエメン事業担当 小山光晶)
¹OCHA, “Humanitarian Needs Overview Yemen 2022”, p.4
ラヒジュ県はイエメン南部に位置し、交易の要であるアデン港へも近接している地域です。
(出典: Berghof Foundation and Political Development Forum Yemen,
Local Governance in Yemen: Resource Hub)
こうした状況に対応するために、セーブ・ザ・チルドレンは、2021年3月31日から2022年3月30日にかけて紛争の影響が深刻に及んでいるイエメン南部ラヒジュ県で、新型コロナウイルス感染予防と学習継続のための支援活動を実施しました。約1年間実施した支援事業について報告します。
事業では、紛争の影響による校舎の損壊が特に大きく、必要な水・衛生施設が整っていない公立学校4校に、校舎の修繕およびトイレや手洗い場などの修繕・整備を実施しました。また、修繕後に、水・衛生施設の維持管理や、軽微な修繕に対処できるよう、各校2人ずつ、計8人の設備管理者に研修を実施し、修繕キットを配布しました。
校舎の修繕に加えて、保護者会や教員38人に対し、衛生教育に関する研修を実施しました。研修を受けた保護者会の人たちと教員は、事業対象校4校にて形成された生徒中心の学校衛生クラブメンバー48人に対し同様の衛生教育研修を実施しました。そして、研修を受けた学校衛生クラブのメンバーは、各校で計86回の衛生セッションを行い、4,230人が参加しました。
また、学校での新型コロナウイルス感染症予防策を万全にできるよう、事業対象校4校に対し、石けんやトイレの清掃用具、ごみ箱などの衛生用品を配布しました。加えて、対象校に通う生徒1,789人に対し、石けんや手指消毒液、マスクなどが入った感染予防キットを配布しました。
こうした衛生対策の活動と並行した、子どもたちが継続的に学習を行えるよう、不足している生徒用の机や椅子などの備品を各4校に提供し、生徒1,476人にバックパックや鉛筆、消しゴム、鉛筆削り、定規、筆箱、ノートなどが入った学習キットを配布しました。
また、教育の質の向上を目指し、対象4校106人の教員に対する能力強化研修も行いました。研修後は、教員による学習サークルを形成し、毎月会合を開催して、研修を受けた教員間でより良い指導の実践方法や改善点などについて共有を行う機会を設けました。
さらに、教育省職員が授業の様子をモニタリングし、指導方法の良い点や改善点について教員へフィードバックも行われました。
研修を受けた教員のうち12人は、新型コロナウイルス感染症による学校閉鎖の影響で学習が継続できていない子どもたちや、学校閉鎖以前から通学していなかった子どもたちに対して補習授業を行い、事業完了までに300人の子どもたちが補習授業を受講しました。
加えて、生徒を代表して活動する生徒会、保護者を代表して活動する保護者会を各校1グループずつ形成し、計112人が参加しました。
生徒会と保護者会は活発に活動し、生徒会は子どもたちや近隣住民へ教育の重要性や子どもの学ぶ権利について啓発するキャンペーンを行いました。保護者会は、補習授業を受ける子どもたちのサポートや校舎の修繕工事の様子を監督し意見を出すなど、重要な調整役として事業後も活動しています。
ここで、私たちの活動に参加したアハマッドさんを紹介したいと思います。アハマッドさんは事業対象校の1つに通う14歳の少年です。アハマッドさんは他の子どもと同じように学校に通うことを望んでいましたが、戦闘が激しくなって以降、困窮する世帯の経済状況や、授業内容が理解できなかったため学習に困難を抱えていたことで、学校に通う意欲を失いつつありました。
一方、アハマッドさんが通っていた学校の教員には、経済状況の悪化、日々の爆撃や暴力による心理的負担、授業の実施にあたって教育省から必要な支援を受けることができなくなったことなどにより、授業内容や生徒への対応にも負の影響が見られるようになっていました。
これらの状況に対応するため、事業では、アハマッドさんに生徒用の学習キットを配布し、補習授業を実施しました。
また、アハマッドさんが通う学校の教員に対しては、緊急下での子どもに対する教育方法や暴力のないしつけ・指導方法についての研修を実施しました。その結果、アハマッドさんは安心して学校に通うことができるようになっています。
「紛争が起こった時、私は2学年目で、学校ではとてもうまくいっていました。先生たちは優しく親切で、一緒に新しいゲームで遊んだりもしていました。私はかつて学校が大好きでしたが、紛争が始まってからは嫌いになり始めました。
紛争が始まってから学校も、先生も、すべてが変わりました。先生たちの授業の欠席、頻繁な爆撃により、授業の多くは行われなくなりました。授業が行われたとしても、先生は学校に定期的に現れず、急いで行われるようになりました。
ほとんどの先生は授業の題目を黒板に書き、教科書を開いて読むように言い、そして教科書の中から私たちが理解できない多くの宿題を出していました。
そして、先生は棒でいつも私たちを脅してきました。適切な指導が無ければ、教科書を理解することはとても難しく、私にとって試験に合格する唯一の方法は教科書に書かれていることを一字一句暗記することでした。どうか試験問題に解答することができるように願いながらです。
でも、この方法もうまくいかず、何を読んでいるのか理解できないために、非常に強いストレスを感じていました。そのせいで学校が嫌いになり、学習する意欲も失いました。私も、私のクラスメイトも学校を中退することを考えていました。
新学期が始まった時、今年もいままでと同じ学校生活になると考えていました。でも、セーブ・ザ・チルドレンの活動が学校で開始されてから、変化と改善が起こりました。
先生の授業の説明の仕方が変わり、良くなりました。生徒と先生の両方の出席率が上がって、先生たちは棒を使って私たちを脅すことも無くなりました。
先生たちは授業の内容を私たちが理解しやすいようさまざまな方法で説明し始めました。例えば、絵を使った指導方法などです。
さらにこれまで無かった衛生啓発セッションや通学再開のキャンペーンなどのいろいろな学校の活動が実施されました。
また、私たちは生徒と先生が学校内で守るべき行動規範を作成し、自分に権利があることを学びました。これらすべての変化のおかげで、また学習したいと思えるようになりました。
私の学校に対する信頼と愛情は戻り、毎朝学校に早くいくのを楽しみに起きるようになりました。私の将来の夢である先生になるために勉強を続け、他の子どもたちが適切な教育を受けられるように手助けするつもりです。」
そして、ハレドさんは事業対象校のうちの1校に勤務する教員です。この事業の開始前、ハレドさんは授業を提供するための授業用備品不足や、毎学期新しく入学する生徒への指導方法に悩みを抱えていました。
しかし、セーブ・ザ・チルドレンの支援で、授業用備品が提供され、教員研修や学習サークルなどの活動を行った結果、今では自信を持って子どもたちに指導ができると語ります。
「毎学期、私はさまざまな学年の生徒に指導しています。多様な背景を持つ多くの生徒たちに、適切に指導する方法について困難を抱えていました。学校はいつも学習教材が不足しており、十分な教員もいません。指導方法の改善も明らかに必要でした。
セーブ・ザ・チルドレンの支援により教員の指導方法、そして学校全体の状況に大きく改善が見られるようになりました。
私はいくつかの研修に参加することで、これまで自分が抱えていた指導方法に関する悩みを解消していきました。研修のおかげで新しい指導方法を身につけただけでなく、授業計画、そして教室や生徒の出席率の管理まで学ぶことができました。
子どものセーフガーディングの研修は、紛争下、そして新型コロナウイルス感染症の流行下で子どもに接する方法を身につけるのに役立ちました。
教員研修だけではなく、授業のモニタリングや教員の学習サークル活動も私の指導方法を改善し、能力を向上するために役立ちました。
セーブ・ザ・チルドレンと教育省の職員は、私の授業の様子を見て改善が必要な点について共有してくれ、良い点についてもフィードバックをくれました。
学習サークルでは他の教員と一緒に教室運営における問題点を話し合い、解決案や結果について共有しました。セーブ・ザ・チルドレンは私たちの学校に非常に大きくポジティブな変化をもたらしました。」
この事業実施期間中に、教員の授業をモニタリングしてきた教育省の職員サレさんはこう話します。
「戦闘が激しくなって以降、教員の質の向上や支援を行うことは私たちにとって非常に困難なことでした。
しかし、セーブ・ザ・チルドレンはこれまで学校では行われてこなかったような重要ですばらしい活動を実施してくれました。教員は生徒への心理的なサポートもできるようになり、授業への生徒の参加も積極的に促しています。子どもたちも自分たちの権利について気づけるようになりました。」
イエメンにおいて紛争が長期化する中、子どもたちが継続的に学習できる環境を整備することは喫緊の課題となっています。セーブ・ザ・チルドレンは、紛争下および感染症拡大の緊急下においても、子どもたちが安心して学習を継続できるよう、イエメンにおける教育支援を実施していきます。
本事業は、皆さまからのご寄付と、ジャパン・プラットフォームからのご支援により実施しました。
(海外事業部イエメン事業担当 小山光晶)
¹OCHA, “Humanitarian Needs Overview Yemen 2022”, p.4