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イエメン
(公開日:2022.11.21)

【イエメン 水・衛生と子どもの保護支援完了】地域と学校を対象とした水・衛生支援と子どもの保護システム強化支援

 
イエメンで紛争が激化してから、約8年が経過しました。人口の75%にあたる2,340万人が支援を必要としており、そのうち55%が18歳未満の子どもです¹。イエメンでは10秒に1人、子どもが感染症などの予防可能な病気で亡くなっています。

感染症の流行を防ぐためには、適切な手洗いなどが重要ですが、紛争の影響で安全な水やトイレなどの水・衛生施設の利用が難しい状況が続いています。そのため、国民のおよそ半分にあたる1,780万人が水・衛生支援を必要としています²。

また、紛争が始まってから10,000人以上の子どもたちが死傷しています³。紛争や新型コロナウイルス感染症による経済状況の悪化で世帯収入が減ったことにより、児童労働や児童婚などのリスクが増加しました。

国連難民高等弁務官所(UNHCR)が、2021年に各世帯を対象に実施した調査によると、家族との離散、児童労働、ネグレクト、虐待や搾取などの「子どもの保護」に関するリスクを抱えた子どもは2020年では16%でしたが、2021年には23%へ増加しました⁴。


国内避難民では、大人に付き添われていない子どもや主たる養育者と離ればなれになった子どもが18%にのぼり、そのような子どもたちは緊急時に暴力に晒されるリスクが特に高く⁵、特に支援が必要です。

こうした状況に対応するために、セーブ・ザ・チルドレンは、2021年10月1日から2022年7月30日にかけて紛争の影響が深刻に及んでいるイエメン南西部のタイズ県で、地域と学校での水・衛生支援、地域の子どもの保護のシステム強化のための支援を実施しました。約1年間実施した支援事業について報告します。


タイズ県はイエメン南西部に位置したイエメンの紛争の中心地でもある県です
(出典: Berghof Foundation and Political Development Forum Yemen, Local Governance in Yemen: Resource Hub)

この事業では、事業対象地域の2ヶ所の給水システムを修繕し、子どもを含む地域の人たちが安全な水を利用できるように支援しました。

また、地域の人たちが修繕後の給水システムの維持管理や、軽微な修繕に対処できるよう、地域の代表14人が参加する水管理委員会を設立し、水・衛生設備の修繕に関する研修を行ったほか、修繕キットを配布しました。


設置された貯水タンク


給水システム修繕後の稼働確認を行っているセーブ・ザ・チルドレンのスタッフ


水管理委員会での研修の様子

また、地域の人たちからボランティアを募り、正しい手洗いの方法などについての研修を行いました。研修終了後、研修を受けたボランティアが主体となり、地域の人たちが正しい手洗いなどの衛生習慣を身につけることができるように地域と学校で衛生啓発活動を行いました。

事業計画当初はのべ6,300人が本活動に参加予定でしたが、衛生啓発を必要とする人たちは想定よりも多く、最終的にのべ9,758人に衛生啓発支援を届けることができました。


ボランティアによる地域での衛生啓発の様子

また、紛争の影響による校舎の損壊が特に大きく、必要な水・衛生施設が整っていない公立学校4校を対象に、トイレや手洗い場などの修繕・整備を実施しました。

そして、修繕後に水・衛生施設の維持管理や軽微な修繕に対処できるよう、各校2人ずつ計8人の設備管理者に研修を実施したほか、修繕キットを配布しました。加えて学校での衛生対策ができるように石けんや塩素消毒剤などの衛生用品を配布しました。



学校における衛生用品配布の様子

子どもたちを暴力から守る(子どもの保護)支援では、学校に勤務するスクールソーシャルワーカー4人を対象に、支援を必要としている子どもを特定し、必要な支援につなぐケースマネジメントに関する研修を行いました。

この研修では、スクールソーシャルワーカーのサポートができるよう地域の人々からなる子ども保護委員会を設立し、子どもの保護や子どもの権利、ケースマネジメントについての研修を実施しました。

研修終了後は、研修を受けたソーシャルワーカーと子どもの保護委員会のメンバーが中心となり、支援期間中に、児童労働や性暴力などの課題に直面した42人の子どもに、必要な支援を提供しました。

私たちの活動に参加したオサマさん(52歳、男性)を紹介します。オサマさんは、村長で、水の問題は子どもの頃から大きな問題でした。


オサマさんが暮らす村では、紛争が発生してから毎日水汲みのために片道5時間かけて歩いていました。そのため、子どもたちは学校に通うことが難しくなっていました。また、汲みに行った水は安全ではなく、洗濯や飲み水としての利用を通して、子どもや大人に下痢症がまん延していました。


修繕された水・衛生設備の前にいるオサマさん

これらの状況をうけ、村と学校の水・衛生設備を修繕するとともに、衛生啓発活動を行い、衛生用品の配布を行いました。

「私はこの村で生まれ、育ちました。娘5人と息子3人がおり、この村の村長でもあります。この村は非常に支援が届きにくい地域で、他の地域と比較しても生活基盤が整いづらいところです。

村にはかつて1,600人以上が利用する水汲み場が1ヶ所ありました。1キロほど離れてはいましたが、何とかやりくりできていました。しかし2015年に紛争が激しくなってから、そこの水の利用は完全に止まってしまい、悪夢でした。私たちは、洗濯や飲用には不向きな、安全ではない汚染された水源を使うしかありませんでした。

みんなが、汚れた水源の水を飲み、服を洗います。当然、みんなが病気になります。しかし、私たちには選択肢がありません。多くの子どもが腎臓関連の病気になりました。

水の問題というのは地域全体にとっていつも悪夢のような問題の一つでした。私が子どもの頃、毎日水を汲むのにどれだけ苦労したかを覚えています。父も、そして祖父も同じように苦労していました。

夏、雨季の季節は5時間もかけて水汲みにいっていました。また、冬に水汲みに行くことがどれだけ困難なことか想像してみてください。

私は2人の息子と午前2時に水汲みに行かなければなりませんでした。その時間帯なら人が少なく空いているからです。子どもたちは両親の手伝いのために水汲みに行き、列に並ばざるを得ない状態でした。

通学できなくなってしまい、エネルギーと時間を要する多大な責任を抱えることに、いら立ちも感じていました。子どもの日々の目標は、学校での学習ではなく、水汲みになり、悲しくなったり、落ち込んだりしていました。

セーブ・ザ・チルドレンが、私たちの村に来た時、希望を持つようになりました。水源部分の修繕と整備を行い、水汲みのできる場所から揚水するためにソーラーパネルを設置し、貯水タンクを建設しました。

学校には新しくトイレを建設し、古いトイレを修繕しました。村の人々は衛生習慣についての研修を受けて、衛生用品を手に入れました。


オサマさんの村に設置された揚水用のソーラーパネル

正直に言って、セーブ・ザ・チルドレンの支援によってどれだけ私たちの生活が変わったのか表す言葉が見つかりません。

少なくとも私はこれまで以上に家族と一緒に過ごす時間が増えました。村中の子どもと大人、誰に聞いてもわずか10分で安全な水が手に入るので、これ以上水について心配することがなく幸せだと言います。」

イエメンでの紛争が長期化する中、子どもや地域の人たちが安全な水の利用や衛生的な習慣を身につけ、子どもが暴力から守られることは喫緊の課題となっています。

セーブ・ザ・チルドレンは、紛争下および感染症拡大の緊急下においても、子どもたちが安心・安全な環境で過ごせるようイエメンでの支援を継続していきます。

本事業は皆さまからのご寄付と、ジャパン・プラットフォームからのご支援により実施しています。

(海外事業部 小山光晶)

¹OCHA, “Humanitarian Needs Overview Yemen 2022”, p.4
²OCHA, “Humanitarian Needs Overview Yemen 2022”, p.87
³OCHA, “Humanitarian Needs Overview Yemen 2022”, p.75
⁴UNHCR, “UNHCR Yemen Operational Update, covering the Period 30 November - 9 December 2021
⁵OCHA, “Humanitarian Needs Overview Yemen 2022”, p.75

 

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