バングラデシュ(公開日:2020.05.18)
バングラデシュ「人に優しくあることを忘れないで」最前線で働く医療従事者による切実な訴え―新型コロナウイルス感染症
セーブ・ザ・チルドレンHIV感染予防プロジェクトの最前線で働く医療従事者 アブダスからの報告です。
私は、違法薬物の注射によりヒト免疫不全ウイルス(HIV)に感染するリスクが高い人々に対しメタドンを処方する仕事をしています。新型コロナウイルス感染症拡大に伴い、自身の仕事がこれほど多くの患者たちとかかわることになるとは予想もしていませんでした。
メタドンとは、注射針から注入する違法薬物の使用を減少させることを目的とした経口治療薬です。継続的な服用が必要であり、少しでもメタドンが服用できないと、注射針や他の方法での違法薬物の使用につながり、HIV感染リスクを著しく上げてしまいます。通常であれば、私が働いている場所には、1日あたり多い時で180人の患者がやってきます。
3月初旬にバングラデシュで初めて新型コロナウイルス感染症の感染者が確認されたとき、私はいつも通り仕事をしていました。しかし次第に感染者数が増加するにつれ、私は自分や同僚の安全が不安になりました。なぜなら、私たちは感染リスクの高い人たちと直接接触する仕事をしているためです。
私たちの元へやってくる患者の多くは、路上やスラム地域に住んでおり、衛生習慣の正しい知識やそれを徹底できる環境も最小限しかありません。言うまでもなく、多くは人が密集した場所に住んでおり、ソーシャルディスタンスの確保など到底できません。
セーブ・ザ・チルドレンは、私たちが仕事を続けられるよう、個人防護具や手指用の消毒液を支援してくれました。薬を渡すカウンターはガラスで覆われ、患者の並ぶ列では3フィート(約1メートル)ずつ距離を取るよう整備されました。
そして、政府が国全体のロックダウンを実施し国中に検閲所を設けてからは、すべての交通機関が運休になり、日に日に仕事に行くことが難しくなりました。セーブ・ザ・チルドレンは、私たちのサービスが脆弱な人たちに届くようにと、往復の通勤に必要な交通手段を提供してくれました。しかし、私の同僚のなかには、自宅から職場までが遠く、通勤に何時間もかかってしまうために仕事に来ることができなくなってしまった者もおり、気が付いたら私は3人分の仕事を担当するようになっていました。
都市周辺の薬物中毒者のリハビリ支援やHIV感染予防対策を行う施設が閉鎖されたため、毎日多くの患者たちが、私の働くHIV感染予防対策センターにきました。このセンターがある地域のコミュニティの人たちは、施設に対して不安を覚えていました。彼らは薬物使用者のリハビリを支える重要性は分かっていましたが、一方で、そういった人々がこの感染症を持ち込むのではないかと不安に感じていました。そしてついに、近隣住民たちはセンターの外で大きな抗議運動を行い、私たちに、サービスをやめるか別の場所でサービスをするようにと叫び、訴えました。
私たちはやむなくその場所での活動を止めましたが、私は、どのような状況であってもこの医療サービスの提供を止めてはならないと確信していました。メタドンは薬物中毒者にとって、リハビリのためにとても重要な薬だからです。私たちは、住宅街から離れた場所で政府が運営する薬物治療センター内で、再度サービスを開始しました。私たちは厳しい管理とフォローアップのもと、4時間おきにメタドンを処方し、患者が自宅で服用するサービスを始めました。これにより接触を減らしたのです。
しかしこの新型コロナウイルスは、明らかに多くのスティグマを引き起こしていました。私の家主は、私が医療従事者であることを知っていたため、毎日仕事に出かける私に対し強い怒りを露わにしていました。家主は、私がその建物に住む人々の命を危険に晒しているとして訴えたのです。私の隣人も家主と同様に訴えたことで混乱を生み、私は即時退去を求められました。職場で私たちが取っている予防策を彼らに説明しようとしましたが、誰も私の言うことに耳を貸そうともしませんでした。私は彼らの行動に大きなショックを受けました。人を助けたい―私はただそれだけの想いだったにもかかわらず、どうしてあのようなひどい扱いができたのでしょうか。
私は家族が住むジョソールから200km離れたダッカで一人暮らしをしていましたが、突然道に放り出され、その夜眠る場所もなく家族の住む家に帰るすべもなかったのです。上司が、個人経営の自動車会社に連絡し、ジョソールに帰る手はずを取ってくれたため、今、私は自宅から遠隔で仕事をしています。
私は、今、命を救う仕事ができないことを非常に残念に思っています。同僚はとても協力的で、サービスに混乱が生じないよう、私に代わって病院の運営をしてくれています。
現在の事態は、医療従事者である私たちにとって非常にストレスを感じる状況です。私たちは、このような危機において、互いに優しく、そして協力的であることを忘れてはなりません。この問題は世界的な問題であり、私たちはともにこの問題に立ち向かっているのです。だからこそ、私たちは互いに助け合うべきなのです―それが出来たときこそ、新型コロナウイルス感染症の収束に向かうことができるでしょう。
(アブダス・ソブハーンは、セーブ・ザ・チルドレン HIV感染予防プロジェクトのスタッフで、薬物使用者やその他ハイリスクグループに対応するなど最前線で活動しています。)
私は、違法薬物の注射によりヒト免疫不全ウイルス(HIV)に感染するリスクが高い人々に対しメタドンを処方する仕事をしています。新型コロナウイルス感染症拡大に伴い、自身の仕事がこれほど多くの患者たちとかかわることになるとは予想もしていませんでした。
メタドンとは、注射針から注入する違法薬物の使用を減少させることを目的とした経口治療薬です。継続的な服用が必要であり、少しでもメタドンが服用できないと、注射針や他の方法での違法薬物の使用につながり、HIV感染リスクを著しく上げてしまいます。通常であれば、私が働いている場所には、1日あたり多い時で180人の患者がやってきます。
3月初旬にバングラデシュで初めて新型コロナウイルス感染症の感染者が確認されたとき、私はいつも通り仕事をしていました。しかし次第に感染者数が増加するにつれ、私は自分や同僚の安全が不安になりました。なぜなら、私たちは感染リスクの高い人たちと直接接触する仕事をしているためです。
私たちの元へやってくる患者の多くは、路上やスラム地域に住んでおり、衛生習慣の正しい知識やそれを徹底できる環境も最小限しかありません。言うまでもなく、多くは人が密集した場所に住んでおり、ソーシャルディスタンスの確保など到底できません。
セーブ・ザ・チルドレンは、私たちが仕事を続けられるよう、個人防護具や手指用の消毒液を支援してくれました。薬を渡すカウンターはガラスで覆われ、患者の並ぶ列では3フィート(約1メートル)ずつ距離を取るよう整備されました。
そして、政府が国全体のロックダウンを実施し国中に検閲所を設けてからは、すべての交通機関が運休になり、日に日に仕事に行くことが難しくなりました。セーブ・ザ・チルドレンは、私たちのサービスが脆弱な人たちに届くようにと、往復の通勤に必要な交通手段を提供してくれました。しかし、私の同僚のなかには、自宅から職場までが遠く、通勤に何時間もかかってしまうために仕事に来ることができなくなってしまった者もおり、気が付いたら私は3人分の仕事を担当するようになっていました。
都市周辺の薬物中毒者のリハビリ支援やHIV感染予防対策を行う施設が閉鎖されたため、毎日多くの患者たちが、私の働くHIV感染予防対策センターにきました。このセンターがある地域のコミュニティの人たちは、施設に対して不安を覚えていました。彼らは薬物使用者のリハビリを支える重要性は分かっていましたが、一方で、そういった人々がこの感染症を持ち込むのではないかと不安に感じていました。そしてついに、近隣住民たちはセンターの外で大きな抗議運動を行い、私たちに、サービスをやめるか別の場所でサービスをするようにと叫び、訴えました。
私たちはやむなくその場所での活動を止めましたが、私は、どのような状況であってもこの医療サービスの提供を止めてはならないと確信していました。メタドンは薬物中毒者にとって、リハビリのためにとても重要な薬だからです。私たちは、住宅街から離れた場所で政府が運営する薬物治療センター内で、再度サービスを開始しました。私たちは厳しい管理とフォローアップのもと、4時間おきにメタドンを処方し、患者が自宅で服用するサービスを始めました。これにより接触を減らしたのです。
しかしこの新型コロナウイルスは、明らかに多くのスティグマを引き起こしていました。私の家主は、私が医療従事者であることを知っていたため、毎日仕事に出かける私に対し強い怒りを露わにしていました。家主は、私がその建物に住む人々の命を危険に晒しているとして訴えたのです。私の隣人も家主と同様に訴えたことで混乱を生み、私は即時退去を求められました。職場で私たちが取っている予防策を彼らに説明しようとしましたが、誰も私の言うことに耳を貸そうともしませんでした。私は彼らの行動に大きなショックを受けました。人を助けたい―私はただそれだけの想いだったにもかかわらず、どうしてあのようなひどい扱いができたのでしょうか。
私は家族が住むジョソールから200km離れたダッカで一人暮らしをしていましたが、突然道に放り出され、その夜眠る場所もなく家族の住む家に帰るすべもなかったのです。上司が、個人経営の自動車会社に連絡し、ジョソールに帰る手はずを取ってくれたため、今、私は自宅から遠隔で仕事をしています。
私は、今、命を救う仕事ができないことを非常に残念に思っています。同僚はとても協力的で、サービスに混乱が生じないよう、私に代わって病院の運営をしてくれています。
現在の事態は、医療従事者である私たちにとって非常にストレスを感じる状況です。私たちは、このような危機において、互いに優しく、そして協力的であることを忘れてはなりません。この問題は世界的な問題であり、私たちはともにこの問題に立ち向かっているのです。だからこそ、私たちは互いに助け合うべきなのです―それが出来たときこそ、新型コロナウイルス感染症の収束に向かうことができるでしょう。
(アブダス・ソブハーンは、セーブ・ザ・チルドレン HIV感染予防プロジェクトのスタッフで、薬物使用者やその他ハイリスクグループに対応するなど最前線で活動しています。)