日本/子ども虐待の予防(公開日:2018.12.12)
子どもに対するあらゆる体罰を終わらせるために−セーブ・ザ・チルドレン・スウェーデン事務局長エリザベット・ダリーンとの対談
世界では現在、54ヶ国が家庭を含むあらゆる場面での子どもに対する体罰を法律で禁止している。しかし日本では、民法で親権者の懲戒権が認められ、「子の利益のために」「監護及び教育に必要な範囲で」、懲戒を加えることができるとされており、法律で明確に禁止されているとはいえない状況にある。[1]
セーブ・ザ・チルドレンは、殴る、たたく、蹴るといった有形力を用いる罰に加えて、怒鳴りつけるなど子どものこころを傷つける罰を含む体罰等は、どんなに軽いものであっても子どもに対する暴力であり、子ども一人ひとりが持つ人権を侵害するものであること、また、子どもの発達に負の影響を及ぼすことから、家庭を含むあらゆる場面での体罰等を全面禁止する法改正が早急に必要であると訴えている。
今年6月に、セーブ・ザ・チルドレン・スウェーデンの事務局長であり、「子どもに対する暴力撤廃グローバル・パートナーシップ(以下、GPeVAC)[2]」の暫定議長を務めるエリザベット・ダリーンの来日を機に、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンで日本の子ども虐待の予防事業マネージャーとして法改正に向けた政策提言を行う瀬角南が、日本における子どもに対する体罰等の禁止に向けた動きや可能性について意見を聞いた。[3]
瀬角:
2014年9月に名古屋で開催された「子ども虐待防止世界大会」のゲストスピーカーとして来日して以来、4年ぶりの日本ですが、この間、何か変化を感じたことはありますか?
ダリーン:
良い方向への変化を感じています。これは日本だけでなく、世界的な変化です。4年前には、体罰等の全面禁止に対して、「体罰等を使わずに、子どもに適切なしつけができるのか?」といった懐疑的な空気がありました。しかし、体罰等を用いることが子どもの発達に負の影響を及ぼすことが、科学的な根拠を伴って明らかになってきたことを受け、議論の内容そのものが大きく変わってきています。
瀬角:
体罰等が子どもに負の影響を及ぼすことは、すでにさまざまな科学的根拠に基づいて明らかで、議論の余地がなくなったということですね。
ダリーン:
その通り。ですから最近は、体罰等全面禁止の法制化によって、親や養育者がどのような影響を受ける可能性があるのか、さらに親や養育者が体罰等を使わずに子どもをしつけられるよう社会がどう支援するべきか、といった議論に進んでいます。経済的な問題や家族構成の問題など、さまざまな問題を抱える家族の子育てを、社会が支える仕組みが必要なのです。
そもそも法制化は、親を罰したり、親から子どもを引き離したりするためではなく、「幸せな家族とは何か?」「子どもの健やかな成長とは何か?」という考えに基づいて子育てができるよう、親や養育者を力づけるために行われるものです。
瀬角:
決して親や養育者を罰するために法改正を行うのではないという点は、強調したいですね。
ダリーン:
子どもに対する体罰等は、どんなに軽いものであっても子どもに対する暴力であるという社会の規範を作り、子どもが暴力から守られ、皆でよりポジティブな子育てを考えるための基点となるものとして、法制化が必要なのです。法律があれば、社会的行動が形成され、意識向上を促すことにつながります。大人たちが、体罰等を行使する前に、考えるようになりますから。
瀬角:
そうですね。私たちも、同じように考えています。
日本では、今年3月に、5歳の少女が親の虐待で死亡した事件がありました。国内で大きく報道され、社会に衝撃を与えました。この悲惨な事件を受けて、子どもに対する虐待を予防するために、私たちはどのように議論を進めるべきだと思いますか?
ダリーン:
まずは、子どもを中心に置いて考えるべきです。スウェーデンでも、1970年代に子どもが親から虐待を受けて死亡した悲惨な事件をきっかけに、体罰等全面禁止の法制化の議論が一気に加速しました。さらに、スウェーデンでは妊娠から出産、育児を支えるファミリーセンターという子どもの育成を社会が見守るシステムが構築されていて、子どもに何か異変が見られたら、周囲が気づいて対応できるのです。
瀬角:
日本では、体罰等全面禁止の法改正がなかなか実現しないと同時に、子育てに関する行政の施策も、スウェーデンなどと比べるとまだ不十分だと思いますが、これは日本の国会における女性議員の割合の低さなども関係しているのでしょうか?
ダリーン:
スウェーデンでも、体罰等全面禁止が法制化された1970年代は、女性議員の割合はまだ低かったと思います。しかし、NGO・NPOや女性団体、弁護士など多くの人たちが声をあげ、法制化の後押しをしました。一つ言えることは、これはジェンダーに左右されるべき問題ではないということです。これ以上悲惨な事件が続かないよう、議員一人ひとりが、勇気をもって取り組むべき問題なのです。
瀬角:
日本政府の対応に関しては何か意見がありますか?今回の来日では、GPeVACの暫定議長として、外務省の堀井学外務大臣政務官を表敬訪問されましたね。[4]
ダリーン:
今年の2月、日本政府は、GPeVACのパスファインディング国になることを宣言しました。そして「子どもに対する暴力撤廃基金」に対して約600万ドル(約6億7千万円)の拠出を行うと表明しました。[5]この拠出は,ナイジェリアとウガンダで暴力の脅威に直面する子どもを保護するために活用されます。これは素晴らしいことです。GPeVACのパスファインディング国になるということは、もちろん国内においても、子どもに対する暴力撤廃にコミットしなければなりません。私は個人的に、日本には「子どもに対する暴力撤廃グローバル・パートナーシップ」のリーダーになってほしいと思っています。
瀬角:
国内の課題にコミットし、施策を推進するためには、省庁の横断的な取り組みが不可欠ですから、政府のリーダーシップを期待したいです。セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンとしても、今後も体罰等禁止の法改正に向けた働きかけや、体罰等によらない子育ての啓発、支援を続けていきます。
※インタビューの内容や役職などは、2018年6月時点の情報にもとづいています。
セーブ・ザ・チルドレンは、殴る、たたく、蹴るといった有形力を用いる罰に加えて、怒鳴りつけるなど子どものこころを傷つける罰を含む体罰等は、どんなに軽いものであっても子どもに対する暴力であり、子ども一人ひとりが持つ人権を侵害するものであること、また、子どもの発達に負の影響を及ぼすことから、家庭を含むあらゆる場面での体罰等を全面禁止する法改正が早急に必要であると訴えている。
今年6月に、セーブ・ザ・チルドレン・スウェーデンの事務局長であり、「子どもに対する暴力撤廃グローバル・パートナーシップ(以下、GPeVAC)[2]」の暫定議長を務めるエリザベット・ダリーンの来日を機に、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンで日本の子ども虐待の予防事業マネージャーとして法改正に向けた政策提言を行う瀬角南が、日本における子どもに対する体罰等の禁止に向けた動きや可能性について意見を聞いた。[3]
瀬角:
2014年9月に名古屋で開催された「子ども虐待防止世界大会」のゲストスピーカーとして来日して以来、4年ぶりの日本ですが、この間、何か変化を感じたことはありますか?
ダリーン:
良い方向への変化を感じています。これは日本だけでなく、世界的な変化です。4年前には、体罰等の全面禁止に対して、「体罰等を使わずに、子どもに適切なしつけができるのか?」といった懐疑的な空気がありました。しかし、体罰等を用いることが子どもの発達に負の影響を及ぼすことが、科学的な根拠を伴って明らかになってきたことを受け、議論の内容そのものが大きく変わってきています。
瀬角:
体罰等が子どもに負の影響を及ぼすことは、すでにさまざまな科学的根拠に基づいて明らかで、議論の余地がなくなったということですね。
ダリーン:
その通り。ですから最近は、体罰等全面禁止の法制化によって、親や養育者がどのような影響を受ける可能性があるのか、さらに親や養育者が体罰等を使わずに子どもをしつけられるよう社会がどう支援するべきか、といった議論に進んでいます。経済的な問題や家族構成の問題など、さまざまな問題を抱える家族の子育てを、社会が支える仕組みが必要なのです。
そもそも法制化は、親を罰したり、親から子どもを引き離したりするためではなく、「幸せな家族とは何か?」「子どもの健やかな成長とは何か?」という考えに基づいて子育てができるよう、親や養育者を力づけるために行われるものです。
瀬角:
決して親や養育者を罰するために法改正を行うのではないという点は、強調したいですね。
ダリーン:
子どもに対する体罰等は、どんなに軽いものであっても子どもに対する暴力であるという社会の規範を作り、子どもが暴力から守られ、皆でよりポジティブな子育てを考えるための基点となるものとして、法制化が必要なのです。法律があれば、社会的行動が形成され、意識向上を促すことにつながります。大人たちが、体罰等を行使する前に、考えるようになりますから。
瀬角:
そうですね。私たちも、同じように考えています。
日本では、今年3月に、5歳の少女が親の虐待で死亡した事件がありました。国内で大きく報道され、社会に衝撃を与えました。この悲惨な事件を受けて、子どもに対する虐待を予防するために、私たちはどのように議論を進めるべきだと思いますか?
ダリーン:
まずは、子どもを中心に置いて考えるべきです。スウェーデンでも、1970年代に子どもが親から虐待を受けて死亡した悲惨な事件をきっかけに、体罰等全面禁止の法制化の議論が一気に加速しました。さらに、スウェーデンでは妊娠から出産、育児を支えるファミリーセンターという子どもの育成を社会が見守るシステムが構築されていて、子どもに何か異変が見られたら、周囲が気づいて対応できるのです。
瀬角:
日本では、体罰等全面禁止の法改正がなかなか実現しないと同時に、子育てに関する行政の施策も、スウェーデンなどと比べるとまだ不十分だと思いますが、これは日本の国会における女性議員の割合の低さなども関係しているのでしょうか?
ダリーン:
スウェーデンでも、体罰等全面禁止が法制化された1970年代は、女性議員の割合はまだ低かったと思います。しかし、NGO・NPOや女性団体、弁護士など多くの人たちが声をあげ、法制化の後押しをしました。一つ言えることは、これはジェンダーに左右されるべき問題ではないということです。これ以上悲惨な事件が続かないよう、議員一人ひとりが、勇気をもって取り組むべき問題なのです。
瀬角:
日本政府の対応に関しては何か意見がありますか?今回の来日では、GPeVACの暫定議長として、外務省の堀井学外務大臣政務官を表敬訪問されましたね。[4]
ダリーン:
今年の2月、日本政府は、GPeVACのパスファインディング国になることを宣言しました。そして「子どもに対する暴力撤廃基金」に対して約600万ドル(約6億7千万円)の拠出を行うと表明しました。[5]この拠出は,ナイジェリアとウガンダで暴力の脅威に直面する子どもを保護するために活用されます。これは素晴らしいことです。GPeVACのパスファインディング国になるということは、もちろん国内においても、子どもに対する暴力撤廃にコミットしなければなりません。私は個人的に、日本には「子どもに対する暴力撤廃グローバル・パートナーシップ」のリーダーになってほしいと思っています。
瀬角:
国内の課題にコミットし、施策を推進するためには、省庁の横断的な取り組みが不可欠ですから、政府のリーダーシップを期待したいです。セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンとしても、今後も体罰等禁止の法改正に向けた働きかけや、体罰等によらない子育ての啓発、支援を続けていきます。
※インタビューの内容や役職などは、2018年6月時点の情報にもとづいています。
[1]民法820条および822条。法務省は「懲戒として有形力を行使することができる範囲は相当程度限定される」と述べている(2018年3月29日第196回国会参議院文教科学委員会)。
[2] 「子どもに対する暴力撤廃のためのグローバル・パートナーシップ(Global Partnership to End Violence Against Children:GPeVAC)」は、世界中で子どもに対するあらゆる暴力をなくすための活動を進めるグローバルなネットワーク。各国の政府、国連機関、民間セクター、市民社会、子ども・若者などが参加している。
[3]スウェーデンは約40年前の1979年に、世界で初めて家庭を含むあらゆる場面での子どもに対する体罰等を法律で禁止した。
[4] パイス子どもに対する暴力担当国連事務総長特別代表及びダリーン「子どもに対する暴力撲滅グローバル・パートナーシップ」(GPeVAC)暫定議長による堀井学外務大臣政務官表敬平成30年6月13日
https://www.mofa.go.jp/mofaj/fp/hr_ha/page23_002541.html
[5]平成29年度補正予算にて、600万ドルをナイジェリアとウガンダにおける子どもの保護のプロジェクトに拠出