日本/子ども虐待の予防(公開日:2019.12.03)
子どもの権利条約採択30年「体罰に関する法改正最新事情」をテーマにランチセミナーを実施しました
2019年は国連子どもの権利条約が採択されて30周年、日本が条約を批准して25周年の記念すべき年です。セーブ・ザ・チルドレンは多くの市民団体と協力して、「広げよう!子どもの権利条約キャンペーン」を展開しています。
11月16日、17日には、都内の大学において「子どもの権利条約フォーラム2019」が行われ、のべ650人が参加しました。17日のランチセミナーでは、セーブ・ザ・チルドレンから、体罰に関する法改正の最新事情や国際的な動きなどを報告しました。今回のブログでは、その内容を中心に体罰禁止の法改正や体罰等によらないしつけについてお伝えします。
「体罰は許されない」という社会規範をつくる
2019年6月19日、子どもの虐待防止強化に向けて、親権者などによる体罰禁止を明記した児童福祉法および、児童虐待の防止等に関する法律などの改正法が成立しました。改正法は2020年4月1日から施行となります。この法改正で重要な点として、罰則規定がないという点があげられます。
つまり、親を罰するための法律ではなく、子どもは体罰等によらない安心・安全な環境で育てられるべきという社会規範を作ることに主眼が置かれています。体罰が未だに広く容認されている日本社会において、子どもへの体罰は許されないという新たな社会規範を築く第一歩になり得ると考えられます。
体罰全面禁止国は現在世界で58ヶ国
世界では、日本と同じように家庭における体罰を法律で禁止している国が2019年11月現在、58ヶ国あります。この58ヶ国は体罰全面禁止国と呼ばれ、全面禁止かどうかは国際NGOの「子どもに対するあらゆる体罰を終わらせるグローバル・イニシアチブ(以下、グローバル・イニシアチブ)」が子どもの権利条約など国際的な人権基準に照らして判断しています。
日本は、今年6月の法改正を経てもまだ全面禁止国と見なされていません。その理由のひとつとして、グローバル・イニシアチブは、法律の中に禁止される体罰の定義がないことをあげています。
現在、厚生労働省が禁止される体罰や体罰等によらない子育て方法に関するガイドラインを策定中ですが、その中で、軽い体罰も含めすべての体罰が禁止であることが明確になれば、日本も全面禁止国と認められる予定です。
さらに、すでに体罰を全面禁止している58ヶ国のほとんどでは、体罰のほかに、子どものこころを傷つけるような暴言などについても禁止されており、現在策定中のガイドラインでも、たたいたり、こころを傷つけるような言葉を子どものしつけに用いてはならないとされる予定です。
体罰等によらない子育ての社会啓発が重要
過去の研究から、社会の中で体罰の容認度を低くしたり、実際に体罰をなくしたりしていくためには、法改正のみでは不十分であり、同時に体罰等によらない子育てに関する社会啓発活動を徹底する必要があることが明らかになっています。
世界で最初に子どもへの体罰を法律で禁止したスウェーデンでは、1979年の法改正直後に、政府を挙げて大々的な啓発キャンペーンを行っています。キャンペーンは、体罰を用いずに子どもをしつける方法について書かれた16ページの冊子を子どものいる全世帯に配布する、牛乳パックに法改正に関するイラストとメッセージを掲載する、学校の授業で体罰禁止の法改正や子どもの権利を教える、小児科や産婦人科で子育て講座を実施するなどさまざまな方法で行われました。
そのうち、体罰等によらない子育て方法を伝える活動は、子育て世代は年代を追うごとに入れ替わっていくため、現在まで継続して行われています。そうしたさまざまな取り組みの結果、調査で、体罰を子育てに用いていると回答した割合は、1980年の35%から2018年の2%にまで減少しています[1]。
しつけと罰は別物
では、日本ではどうでしょうか。先の厚生労働省のガイドラインなど、2020年4月の改正法施行に向けて、体罰等によらない子育てをどのように広く国民に広めるべきか、国や自治体でも検討が始まっています。
これまで、雑誌やインターネットなどでは、乳幼児期のお世話の方法や予防接種、離乳食、トイレトレーニング、入園・入学準備に関する情報、子連れのおでかけ情報などは多いものの、日常の中で生じる子どもとの衝突を、たたいたり、怒鳴ったりしないで乗り越える方法、特に乳幼児期以降、子どもの発達段階に応じて、衝突をどう切り抜け、どうしつけをするのかといった情報は少ないように見受けられます。
「たたいたり怒鳴ったりすることが禁止されたら、どうやって子どもをしつけたらいいの?」「そんなことしたら、しつけが行き届いていない子どもが増えて非行も増えるのでは?」という疑問は、こうした情報の少なさからくるものと思われます。
セーブ・ザ・チルドレンが養育者を対象に開催している子育てワークショップでは、こうした疑問に答えるために、むしろ体罰を受けて育った場合の方が非行や反社会的行動のリスクが高まるという研究結果について紹介したり[2]、しつけと罰は別物、子どもをたたいたり怒鳴ったりしないということは甘やかすということではない、守らなければならないルールや大切な価値などを理解できるように手助けすることがしつけであり、それは体罰等を用いずにできる、ということを事例や下のようなイラストを用いて参加者と一緒に考えるワークを実施しています。
[1] 「Tracking Progress towards Non-violent Childhoods」 Staffan Janson, Guest professor in Pediatrics, Uppsala University,Sweden2018年. http://www.childrenatrisk.eu/nonviolence/wp-content/uploads/sites/3/2019/02/NVC_TrackingProgress2018.1.pdf
[2]https://pdfs.semanticscholar.org/0d03/a2e9f085f0a268b4c0a52f5ac31c17a3e5f3.pdf
11月16日、17日には、都内の大学において「子どもの権利条約フォーラム2019」が行われ、のべ650人が参加しました。17日のランチセミナーでは、セーブ・ザ・チルドレンから、体罰に関する法改正の最新事情や国際的な動きなどを報告しました。今回のブログでは、その内容を中心に体罰禁止の法改正や体罰等によらないしつけについてお伝えします。
「体罰は許されない」という社会規範をつくる
2019年6月19日、子どもの虐待防止強化に向けて、親権者などによる体罰禁止を明記した児童福祉法および、児童虐待の防止等に関する法律などの改正法が成立しました。改正法は2020年4月1日から施行となります。この法改正で重要な点として、罰則規定がないという点があげられます。
つまり、親を罰するための法律ではなく、子どもは体罰等によらない安心・安全な環境で育てられるべきという社会規範を作ることに主眼が置かれています。体罰が未だに広く容認されている日本社会において、子どもへの体罰は許されないという新たな社会規範を築く第一歩になり得ると考えられます。
体罰全面禁止国は現在世界で58ヶ国
世界では、日本と同じように家庭における体罰を法律で禁止している国が2019年11月現在、58ヶ国あります。この58ヶ国は体罰全面禁止国と呼ばれ、全面禁止かどうかは国際NGOの「子どもに対するあらゆる体罰を終わらせるグローバル・イニシアチブ(以下、グローバル・イニシアチブ)」が子どもの権利条約など国際的な人権基準に照らして判断しています。
日本は、今年6月の法改正を経てもまだ全面禁止国と見なされていません。その理由のひとつとして、グローバル・イニシアチブは、法律の中に禁止される体罰の定義がないことをあげています。
現在、厚生労働省が禁止される体罰や体罰等によらない子育て方法に関するガイドラインを策定中ですが、その中で、軽い体罰も含めすべての体罰が禁止であることが明確になれば、日本も全面禁止国と認められる予定です。
さらに、すでに体罰を全面禁止している58ヶ国のほとんどでは、体罰のほかに、子どものこころを傷つけるような暴言などについても禁止されており、現在策定中のガイドラインでも、たたいたり、こころを傷つけるような言葉を子どものしつけに用いてはならないとされる予定です。
体罰等によらない子育ての社会啓発が重要
過去の研究から、社会の中で体罰の容認度を低くしたり、実際に体罰をなくしたりしていくためには、法改正のみでは不十分であり、同時に体罰等によらない子育てに関する社会啓発活動を徹底する必要があることが明らかになっています。
世界で最初に子どもへの体罰を法律で禁止したスウェーデンでは、1979年の法改正直後に、政府を挙げて大々的な啓発キャンペーンを行っています。キャンペーンは、体罰を用いずに子どもをしつける方法について書かれた16ページの冊子を子どものいる全世帯に配布する、牛乳パックに法改正に関するイラストとメッセージを掲載する、学校の授業で体罰禁止の法改正や子どもの権利を教える、小児科や産婦人科で子育て講座を実施するなどさまざまな方法で行われました。
そのうち、体罰等によらない子育て方法を伝える活動は、子育て世代は年代を追うごとに入れ替わっていくため、現在まで継続して行われています。そうしたさまざまな取り組みの結果、調査で、体罰を子育てに用いていると回答した割合は、1980年の35%から2018年の2%にまで減少しています[1]。
しつけと罰は別物
では、日本ではどうでしょうか。先の厚生労働省のガイドラインなど、2020年4月の改正法施行に向けて、体罰等によらない子育てをどのように広く国民に広めるべきか、国や自治体でも検討が始まっています。
これまで、雑誌やインターネットなどでは、乳幼児期のお世話の方法や予防接種、離乳食、トイレトレーニング、入園・入学準備に関する情報、子連れのおでかけ情報などは多いものの、日常の中で生じる子どもとの衝突を、たたいたり、怒鳴ったりしないで乗り越える方法、特に乳幼児期以降、子どもの発達段階に応じて、衝突をどう切り抜け、どうしつけをするのかといった情報は少ないように見受けられます。
「たたいたり怒鳴ったりすることが禁止されたら、どうやって子どもをしつけたらいいの?」「そんなことしたら、しつけが行き届いていない子どもが増えて非行も増えるのでは?」という疑問は、こうした情報の少なさからくるものと思われます。
セーブ・ザ・チルドレンが養育者を対象に開催している子育てワークショップでは、こうした疑問に答えるために、むしろ体罰を受けて育った場合の方が非行や反社会的行動のリスクが高まるという研究結果について紹介したり[2]、しつけと罰は別物、子どもをたたいたり怒鳴ったりしないということは甘やかすということではない、守らなければならないルールや大切な価値などを理解できるように手助けすることがしつけであり、それは体罰等を用いずにできる、ということを事例や下のようなイラストを用いて参加者と一緒に考えるワークを実施しています。
[1] 「Tracking Progress towards Non-violent Childhoods」 Staffan Janson, Guest professor in Pediatrics, Uppsala University,Sweden2018年. http://www.childrenatrisk.eu/nonviolence/wp-content/uploads/sites/3/2019/02/NVC_TrackingProgress2018.1.pdf
[2]https://pdfs.semanticscholar.org/0d03/a2e9f085f0a268b4c0a52f5ac31c17a3e5f3.pdf