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日本/子ども虐待の予防
(公開日:2018.11.01)

【シンポジウム報告】「子どもに対する体罰等のない社会を目指して」を開催(仙台市、2018年)

 
2018年10月27日、セーブ・ザ・チルドレンは日本弁護士連合会、東北弁護士会連合会、仙台弁護士会との共催により、宮城県仙台市で「子どもに対する体罰等のない社会を目指して」と題したシンポジウムを開催しました。

子どもも大人と同じように一人の人間として尊重されるべき存在です。たたいたり、怒鳴ったりといった体罰等*¹は、子どもの体やこころを傷つけるとともに、子どもの発達に負の影響を及ぼすことが科学的に明らかになっています。

世界に目を向けると、子どもに対する体罰等を法律で禁止し、体罰等によらない子育てを広めた国では、その容認や行使が減少しています。日本でも、子どもに対する体罰等をなくすための活動や、体罰等が不要だという意識は少しずつ広がっていますが、体罰等のない社会はいまだに実現していません。

今回のシンポジウムでは、公立黒川病院小児科の岩城利充氏、日本弁護士連合会子どもの権利委員会の相川裕氏、セーブ・ザ・チルドレン国内事業部プログラム・マネージャーの瀬角南が登壇し、子どものすこやかな成長を支える、体罰等のない社会を実現するためには何が必要か、医師、弁護士、NGOそれぞれの立場から、現状の課題や今後の展望を話しました。

当日は、子育て中の保護者や、地方自治体の議員、弁護士、保育士、子ども・子育て支援に携わる職員など43人が参加しました。

◆基調講演:「子どもの体罰・不適切養育とその影響」:講師 岩城 利充氏
はじめに、公立黒川病院小児科の岩城利充氏が、体罰や不適切な養育が子どもに与える影響について、小児科臨床の事例を踏まえた基調講演を行いました。



岩城氏は、(当日配布の資料を示しながら)しつけと虐待は程度や質の問題ではなく、明確に違うことを念頭におく必要があるとし*²、不適切な養育(マルトリートメント)は愛着の形成不全を引き起こし、それ以降の発達に影響しかねないと指摘しました。

しつけとは、社会的ルールを身に着ける、自尊感情を育む、自己コントロール力をつける、という3つの構成要素を持っているとし、たたく・怒鳴るといった恐怖によるコントロールは、自己コントロール力を育むことにならず、しつけに該当しないと話しました。
また、体罰とは、ある行動のあとに、苦痛刺激を与える暴力的な手続きによってその行動を減らそうとすることだと説明。苦痛刺激の副次効果として、不安や恐怖、抑うつ、場面の回避、対人回避や、攻撃行動を引き起こすなど、体罰は行動分析学的にも有効ではなく、実態上の問題があると強調しました。

体罰だけでなく、子どもを異常に叱るという行為についても、たとえて言えば、いわば毒ガスを子どもに注ぎ込むようなものであると指摘。貯めておくと心に負の影響を与えてしまうため、吐き出さざるを得ず、その際に行動異常となって表れると説明しました。

子どもに対して罰を与えることや叱ることを減らし、褒めることを増やすことによって、攻撃行動や行動異常が改善された臨床事例も数多く紹介し、子どもの良い行動を褒め、子どもに安心感を与えて大事にするという、人権意識の生活化が大切だと伝えました。

◆報告1:「禁止立法で体罰・虐待の予防を!」:報告者 相川 裕氏
続いて、日本弁護士連合会子どもの権利委員会の相川裕氏より、体罰等禁止の法改正の必要性と、諸外国の取り組みについて報告しました。



体罰等は、子どもの人格や尊厳、心身を侵害し、子どもの健康、発達、教育の権利等を侵害するものであると説明。また、子どもに体罰等をすることは、子どもに体罰等を学習させてしまうことに繋がるとし、さらには体罰等自体が子どものストレス要因になってしまう副次的弊害も指摘しました。

諸外国の事例として、1979年に世界で最初に体罰等を法律で明示的に禁止したスウェーデンの例をあげ、国内における体罰に対する肯定的態度が1960年代の55%から2006年には7%にまで減少。比例して、公的機関による親子分離への介入や、年間の虐待死数も大幅に減少したと報告しました。

各国の調査結果から、法改正と同時に社会全体で啓発キャンペーンを実施することによって大きな成果を上げられるとし、人々による意識や行動を変えるには、法律で明示的に禁止し、社会に明確なメッセージを発信することが必要だと訴えかけました。

◆報告2:「日本における子どもに対する体罰等の実態とたたかない、怒鳴らない、ポジティブな子育て」:報告者 瀬角 南
セーブ・ザ・チルドレンからは、体罰等をなくすべき理由として、体罰等と虐待予防との関連性、体罰等の負の影響、子どもの人権の観点という3つをあげ、体罰等をなくすために必要なことについて報告しました。



軽い罰から始まったことが深刻化して虐待に発展する事例や、暴力や暴言が子どもの発達や脳に負の影響を与えるという研究結果が出ていることを踏まえ、虐待予防の観点からも、家庭を含めたあらゆる場面での子どもに対する体罰等をなくすことは非常に重要だと説明しました。

体罰等は、子どもの権利、子どもの尊厳を傷つける行為であるとし、子どもは一人の人間、という当たり前のことが社会全体で守られるべきだと強調。法的禁止により明確に基準を定め、子育て中の人だけではなく、社会全体の常識として広く啓発することが重要だと訴えかけました。

また、セーブ・ザ・チルドレンが2017年に実施したインターネット調査において、日本に住む大人2万人のうち、約6割が子どもに対する体罰を容認している一方で子育て中の約9割以上が、体罰等によらない子育てに関心を示していると報告。体罰等によらない子育てを学び、実践するための支援を拡充していくことが必要だと提言しました。

◆パネルディスカッション
会場から寄せられた質問に各登壇者が答える形で、パネルディスカッションを行いました。



「子育てで苦労している親に対し、周りにいる人が何か出来ることはないか」という質問に対し、岩城氏は、養育者の抱える背景を頭に入れておく必要があるとし、養育者の家庭環境や経済面、情緒面など、養育者自身の背景を理解した上で、楽な気持ちになるよう支援することが必要だと話しました。瀬角は、見て見ぬふりをして養育者を孤立させるのではなく、親や子どもに声掛けすることも、周りに出来る支援だと伝えました。

「今日の日本では、親が外でストレスを多く受けている中で、自治体や企業が取り組むべきことは何か」という質問に対し、相川氏は、ワークライフバランスの問題や、養育者が一人で煮詰まってしまう前に専門家に相談できる機会を保障し孤立を防ぐことなどをあげ、子育ての問題を個人ではなく社会の問題として捉え、一人ひとりの置かれている状況に即した合理的配慮を出来る限りするという考え方が必要ではと、話しました。

最後に岩城氏は、一番大事なことは、親が子どもに対して、大切だという思いを「伝える」ことであり、そのためにも親自身が余裕を持って子どもと関われるよう、養育者へ寄り添い、支えてほしい、と訴えかけました。

セーブ・ザ・チルドレンは、子どもをたたかない、怒鳴らない社会の実現を目指して今後も活動を続けていきます。

*¹「体罰等」とは…体罰その他の残虐なまたは品位を傷つける形態の罰(2006年、国連子どもの権利委員会一般的意見8号)

*²川崎二三彦(2006)『児童虐待―現場からの提言』岩波新書

(国内事業部 遠山由佳)

 

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