日本/子ども虐待の予防(公開日:2018.08.31)
【シンポジウム報告】「禁止立法で体罰・虐待の予防を!−科学的に明らかになってきた体罰の弊害と効果的施策―」を開催しました(2018年8月)
2018年8月28日、セーブ・ザ・チルドレンは日本弁護士連合会との共催により、東京都千代田区で「禁止立法で体罰・虐待の予防を!−科学的に明らかになってきた体罰の弊害と効果的施策―」と題したシンポジウムを開催しました。
子どもをたたく、怒鳴るなどの体罰等*は、子どもの発達にさまざまな負の影響を与えることが科学的に明らかになっています。世界では、54ヶ国で、家庭を含むあらゆる場面での子どもに対する体罰等が法律で禁止されています。日本でも、子どもに対する体罰等をなくすための活動や、体罰等が不要だという意識は少しずつ広がっていますが、体罰等のない社会はいまだに実現していません。
そこで今回のシンポジウムでは、山梨県立大学の西澤哲氏、日本弁護士連合会子どもの権利委員会の森保道氏、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン国内事業部プログラム・マネージャーの瀬角南が登壇し、しつけと体罰の違いや体罰等による弊害、日本における体罰等禁止の法改正の必要性と、体罰等によらない子育てについて、それぞれの立場から知見を共有し、今後の課題、展望を話しました。
当日は、国会議員秘書や、地方議員、弁護士、教員、子ども・子育て支援に携わる人たちなど約200人が参加しました。
◆基調講演:「混乱する『しつけ』:しつけ、体罰、虐待をめぐって」:講師 西澤 哲氏
はじめに、山梨県立大学の西澤氏が、臨床福祉学、臨床心理学の専門家として長年児童虐待の問題を研究してきた立場から、基調講演を行いました。
西澤氏は、虐待について、子どもが弱い立場におかれ体罰等を振るわれても逃げられないでいることを利用して、親が何らかの心理的利得や欲求満足を得ることだと指摘。つまり、虐待とは、子どもをコントロールすることが出来た、という親の有能感や達成感を得るための乱用であり、しつけとは全く別物であると話しました。また、しつけと虐待が混同されるのは、しつけに暴力や体罰等が含まれるようになったからだと指摘しました。しつけとは、子どもの自律性を促進するために、親が子どもを手助けし、教えることだと説明。養育者の手助けが繰り返し行われることで習慣化し、子どもが自然とその能力を獲得していくことだと話しました。
例えば、おなかが空いた、眠い、など、乳幼児が不快な状態の時には、養育者が適切な対応やあやすなどの手助けをすることで快の状態へ回復する。それを繰り返すことで、子どもの自己調整機能が形成されていくことがしつけだ、と話しました。一方、罰による行動の抑止は、しつけの本質と逆である他律性につながる行為だと強調しました。
体罰等を受けることにより、自分の痛みや苦痛に対する感覚麻痺が生じ、共感性の阻害、つまり人の痛みがわからなくなることがあると指摘。体罰等による最も大きな弊害は子どもの自己調整障害であり、食べる、寝るといった生理的調節から、感情・行動の調節にまで弊害をきたし得るとし、これだけの副作用があるのに、しつけにおいて体罰等を選びますか、と問いかけました。
最後に、子どもに言うことを聞かせようとすることは、子どもを大人に近づけようとする行為であると説明。「なぜこんなことをするのか」という怒りではなく、「なぜこのようにふるまったのだろう、なぜこのように感じたのだろう」と子どもへの好奇心を持ち、問いかけ、理解しようとする姿勢があれば、体罰等は生まれてこないはずだと訴えかけました。
◆報告1:「体罰等の日本の現状とたたかない、怒鳴らない子育て」:報告者 瀬角 南
続いて、セーブ・ザ・チルドレンの瀬角より、子どもに対する体罰等に関する意識実態調査結果の報告と、体罰等によらない子育てについて紹介しました。セーブ・ザ・チルドレンが昨年実施したインターネット調査から、日本に住む大人2万人のうち約6割が、子どもに対する体罰を容認していることがわかり、子育て中の養育者(1,030人)の約7割が子どもをたたいたことがあると回答したことを発表しました。
一方で、子育て中の約9割が体罰等によらない子育てに関心があると回答。その中には、体罰をなんらかの場面で容認している人も含まれており、体罰等によらない子育てを学び、実践するための支援を拡充することが必要であり、個人の問題ではなく、社会全体の問題として、広く啓発することが必要だと提言しました。
そして、法改正と啓発に関する比較調査から、法的禁止を行わずに啓発だけを行った場合と、法的禁止をしたが啓発は行わなかった場合では、後者の方が効果は大きく、さらに法的禁止と全国規模の啓発をセットで行うことが最も効果的だと強調しました。
◆質疑応答
最後に、会場から寄せられた質問に各登壇者が答える形で、質疑応答を行いました。
西澤氏は、「児童虐待防止法があるのにどうして禁止立法が必要なのか」という質問に対し、児童虐待防止法は親子の暴力にのみ焦点を当てた法律であるが、親だけでなく、広義における保護者的立場で子どもと関わるすべての人が対象となる禁止立法が必要だと回答しました。また、「ポジティブ・ディシプリンに対してどう思うか」という質問に対しては、子育ての考え方を学ぶことで、子どもと親が一方的ではなく一緒に未来を考え、紡いでいけると良いのでは、と伝えました。
瀬角は「イライラしないためにはどうしたらよいでしょうか」という質問に対し、イライラすることは誰にでもあることで、脳内で理性より感情が勝っている状態だと説明。感情が爆発しているという状態そのものを自覚し、見つめること、自分がイライラする原因に向き合い把握することがヒントになると回答しました。
セーブ・ザ・チルドレンは、子どもをたたかない、怒鳴らない社会の実現を目指して今後も活動を続けていきます。
(国内事業部 遠山由佳)
*「体罰等」とは…体罰その他の残虐なまたは品位を傷つける形態の罰(2006年、国連子どもの権利委員会一般的意見8号)
子どもをたたく、怒鳴るなどの体罰等*は、子どもの発達にさまざまな負の影響を与えることが科学的に明らかになっています。世界では、54ヶ国で、家庭を含むあらゆる場面での子どもに対する体罰等が法律で禁止されています。日本でも、子どもに対する体罰等をなくすための活動や、体罰等が不要だという意識は少しずつ広がっていますが、体罰等のない社会はいまだに実現していません。
そこで今回のシンポジウムでは、山梨県立大学の西澤哲氏、日本弁護士連合会子どもの権利委員会の森保道氏、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン国内事業部プログラム・マネージャーの瀬角南が登壇し、しつけと体罰の違いや体罰等による弊害、日本における体罰等禁止の法改正の必要性と、体罰等によらない子育てについて、それぞれの立場から知見を共有し、今後の課題、展望を話しました。
当日は、国会議員秘書や、地方議員、弁護士、教員、子ども・子育て支援に携わる人たちなど約200人が参加しました。
◆基調講演:「混乱する『しつけ』:しつけ、体罰、虐待をめぐって」:講師 西澤 哲氏
はじめに、山梨県立大学の西澤氏が、臨床福祉学、臨床心理学の専門家として長年児童虐待の問題を研究してきた立場から、基調講演を行いました。
西澤氏は、虐待について、子どもが弱い立場におかれ体罰等を振るわれても逃げられないでいることを利用して、親が何らかの心理的利得や欲求満足を得ることだと指摘。つまり、虐待とは、子どもをコントロールすることが出来た、という親の有能感や達成感を得るための乱用であり、しつけとは全く別物であると話しました。また、しつけと虐待が混同されるのは、しつけに暴力や体罰等が含まれるようになったからだと指摘しました。しつけとは、子どもの自律性を促進するために、親が子どもを手助けし、教えることだと説明。養育者の手助けが繰り返し行われることで習慣化し、子どもが自然とその能力を獲得していくことだと話しました。
例えば、おなかが空いた、眠い、など、乳幼児が不快な状態の時には、養育者が適切な対応やあやすなどの手助けをすることで快の状態へ回復する。それを繰り返すことで、子どもの自己調整機能が形成されていくことがしつけだ、と話しました。一方、罰による行動の抑止は、しつけの本質と逆である他律性につながる行為だと強調しました。
体罰等を受けることにより、自分の痛みや苦痛に対する感覚麻痺が生じ、共感性の阻害、つまり人の痛みがわからなくなることがあると指摘。体罰等による最も大きな弊害は子どもの自己調整障害であり、食べる、寝るといった生理的調節から、感情・行動の調節にまで弊害をきたし得るとし、これだけの副作用があるのに、しつけにおいて体罰等を選びますか、と問いかけました。
最後に、子どもに言うことを聞かせようとすることは、子どもを大人に近づけようとする行為であると説明。「なぜこんなことをするのか」という怒りではなく、「なぜこのようにふるまったのだろう、なぜこのように感じたのだろう」と子どもへの好奇心を持ち、問いかけ、理解しようとする姿勢があれば、体罰等は生まれてこないはずだと訴えかけました。
◆報告1:「体罰等の日本の現状とたたかない、怒鳴らない子育て」:報告者 瀬角 南
続いて、セーブ・ザ・チルドレンの瀬角より、子どもに対する体罰等に関する意識実態調査結果の報告と、体罰等によらない子育てについて紹介しました。セーブ・ザ・チルドレンが昨年実施したインターネット調査から、日本に住む大人2万人のうち約6割が、子どもに対する体罰を容認していることがわかり、子育て中の養育者(1,030人)の約7割が子どもをたたいたことがあると回答したことを発表しました。
一方で、子育て中の約9割が体罰等によらない子育てに関心があると回答。その中には、体罰をなんらかの場面で容認している人も含まれており、体罰等によらない子育てを学び、実践するための支援を拡充することが必要であり、個人の問題ではなく、社会全体の問題として、広く啓発することが必要だと提言しました。
そして、体罰等によらない子育てプログラム「ポジティブ・ディシプリン(前向きなしつけ)」について紹介。体罰等によらない子育てを学び、実践を繰り返すことで、子どもを一人の人間として尊重し、その自律を助けながら、子どもと親が尊重し合う関係づくりを目指していると伝えました。
◆報告2:「家庭での体罰等の禁止の法制化がなぜ必要か」:報告者 森 保道氏
森氏は、家庭を含めたあらゆる場面での子どもに対する体罰等の法的禁止が必要である理由について、体罰等は子どもの人権を侵害する行為であるとし、法律で明確に定め、社会に対して発信する必要があると指摘しました。法的禁止は、社会における子どもの保護システムを支える基盤になるとし、2000年に法改正を実施したドイツにおいて、虐待の疑いがあった際に、市民が親や子どもへ働きかけるなどの積極的な対応が増えたと報告されており、法的禁止により早期の積極的な介入が実現されていくと伝えました。
体罰等を法律で明示的に禁止することで、体罰等が着実に減少した事例も紹介しました。スウェーデンでは、体罰に対する肯定的な態度を示す割合が、1960年代には55%でしたが、2006年には7%まで減少し、過去1年間に子どもをたたいた親の割合が1980年の27.5%から、2011年には2.8%にまで減少したと報告。
そして、法改正と啓発に関する比較調査から、法的禁止を行わずに啓発だけを行った場合と、法的禁止をしたが啓発は行わなかった場合では、後者の方が効果は大きく、さらに法的禁止と全国規模の啓発をセットで行うことが最も効果的だと強調しました。
◆質疑応答
最後に、会場から寄せられた質問に各登壇者が答える形で、質疑応答を行いました。
西澤氏は、「児童虐待防止法があるのにどうして禁止立法が必要なのか」という質問に対し、児童虐待防止法は親子の暴力にのみ焦点を当てた法律であるが、親だけでなく、広義における保護者的立場で子どもと関わるすべての人が対象となる禁止立法が必要だと回答しました。また、「ポジティブ・ディシプリンに対してどう思うか」という質問に対しては、子育ての考え方を学ぶことで、子どもと親が一方的ではなく一緒に未来を考え、紡いでいけると良いのでは、と伝えました。
瀬角は「イライラしないためにはどうしたらよいでしょうか」という質問に対し、イライラすることは誰にでもあることで、脳内で理性より感情が勝っている状態だと説明。感情が爆発しているという状態そのものを自覚し、見つめること、自分がイライラする原因に向き合い把握することがヒントになると回答しました。
セーブ・ザ・チルドレンは、子どもをたたかない、怒鳴らない社会の実現を目指して今後も活動を続けていきます。
(国内事業部 遠山由佳)
*「体罰等」とは…体罰その他の残虐なまたは品位を傷つける形態の罰(2006年、国連子どもの権利委員会一般的意見8号)