日本/子ども虐待の予防(公開日:2021.12.17)
【報告】「子どもとの向き合い方を考えるオンラインセミナー4 子どもが安心する大人って?〜『みんなの学校』が教えてくれたこと〜」を実施しました
セーブ・ザ・チルドレンは、2021年11月23日、「子どもとの向き合い方を考えるオンラインセミナー4 子どもが安心する大人って?〜『みんなの学校』が教えてくれたこと〜」を開催しました。
ゲストにドキュメンタリー映画「みんなの学校」で紹介された大阪市立大空小学校の初代校長木村泰子さんを迎えての講演があったほか、セーブ・ザ・チルドレンのスタッフからは特設サイト「おやこのミカタ」を紹介しました。セミナーには子育て中の方、仕事やボランティアで子どもと関わりがある方など、178人が参加しました。
初めに、木村さんから「子どもが安心する大人って?〜『みんなの学校』が教えてくれたこと〜」と題して、大空小学校での子どもたちのエピソードをもとに講演がありました。以下、講演内容を抜粋して報告します。
※オンラインセミナーに先立って実施された、木村さんのおやこのミカタインタビューはこちら
【自分から、自分らしく、自分の言葉で語る】
木村さんが校長として勤務されていた 「みんなの学校」(大阪市立大空小学校)では、地域に住んでいる多様な子どもたちが「自分から、自分らしく、自分の言葉で」語れる学びの場をつくっていこうとする取り組みが進められてきました。1人ひとり異なる 子どもたちだからこそ、子どもたち自身が「自分から、自分らしく、自分の言葉で」語ることで、多様な子ども同士の学び合いが生まれてきたそうです。
【子ども同士をつなぐ大人になること】
また、大空小学校では、子ども同士の関係を大切にし、大人の役割は、子どもの邪魔をせずに子ども同士をつなぐことだと木村さんは話しました。大人が一方的に「正解」を伝えるといった対応をせずに、子ども同士をつなぐことができれば、子どもたちは、お互いの違いから学び関わり合おうとしていく、と木村さんは言います。大空小学校では、子ども同士の関係性をつないでいく大人にどうしたらなれるかを、問い続けてきたそうです。しかし、最後まで「これで良い」と思えた日はなかった、とも言います。
【安心できる大人】
続いて、「安心できる大人」について、ある子どものエピソードが紹介されました。ある日、教室で昼休みに友だちの物を取ってしまった子どもがいました。学年の先生たちは、どうしたら「ぼくが取りました」と本当のことを言ってくれるかを、一生懸命方法を考えて関わろうとしたそうです。先生たちは「大丈夫?困ってない?」、「怒れへんから言うてみ」と優しく声をかけたのですが、逆に、その子どもをすごく怒らせてしまったそうです。
一方で木村さんが「あんた、あほやな。なんで取ったら『取った』って言えへんの?黙ってたらしんどいやろ」と問いかけると、素直にこう話してくれたそうです。「先生たちな、『怒れへんから言うてみ』とかみんな優しそうに言うけど、俺が取ったって言うたら絶対親にも言うし、怒られへんなんてありえないやろ?そこから先のこと考えたら、俺ホントのことだんだん言われへんようになった」と。大人が、一生懸命に優しく関わろうとすればするほど、その子は本当のことを言ったあとのことを考えて、追い詰められてしまったようです。
学年の先生たちは、なぜ木村さんには本当のことを言ってくれたのか教えてほしいとその子に尋ねてみました。「校長先生(木村さん)な、何も言わんと、いつもそばで黙っていてくれる。困ったらいつでも相談できる」との答えだったそうです。その子にとって、木村さんは安心できる大人だったのです。
大人が「教えなきゃいけない」とか「助けてあげなきゃいけない」と子どもに接すれば接するほど、子どもはその大人のことを恩着せがましく思ってしまうことがあります。主語が「先生が」や「親が」だったり、「大人がこの子のために」という感覚で子どもに接したりすると、子どもとの関係は対等ではなくなってしまいます。子どもは、それぞれの環境で育ち、さまざまな経験を持っている存在です。子どもを尊重し、子どもを主語にした関わりでなければ子どもは安心できないと、木村さんは言います。
子どもから教えてもらった「安心できる大人」を目指し、大空小学校の教員で理想とされる先生像を考えた時、最終的な答えは「透明人間」となったそうです。大人が指導力を用いて子どもと関わるのではなく、そばにいて、子どもと子どもとの間を、通訳してつなげていく。そうすれば、子どもは前を向く本質を持っているから、子ども同士つながりあっていきます、と木村さんは言います。
セミナー参加者からのアンケートでは、「子どもの声を聴かせてもらえるようになることを目標として、姿勢を改めていきたいと思います」、「子どもだけでなく、すべての人と関わる際に気をつけることなどをわかりやすく、すぐに実践できる言葉で伝えていただけたので良かった」などの感想が寄せられ、多くの方が子どもとの関係性を築く上でのヒントを得たようでした。
今回のオンラインイベントは、おやこのミカタウェブサイトで視聴することができます(1月末公開予定)。
これまでのオンラインイベントの動画視聴はこちら
セーブ・ザ・チルドレンでは、今後もウェブサイト「おやこのミカタ」を基に、ポジティブな子育てを広める活動を続けていきます。
セミナーゲスト: 大阪市立大空小学校初代校長 木村 泰子さん
大阪府生まれ。2006年に開校した大阪市立大空小学校の初代校長を9年間務める。大空小学校では「すべての子どもの学習権を保障する」という理念のもと、教職員や地域の人たちとともに障害の有無に関わらず、すべての子どもがいつもいっしょに学び合っている。2015年には大空小学校の1年間を追ったドキュメンタリー映画「みんなの学校」が公開され、大きな反響を呼んだ。この映画は文科省の特別選定作品にも選ばれ、現在も全国各地の教育現場などで自主上映されている。2015年春に、45年間の教員生活を終え、現在は講演活動やセミナーで全国の人たちと学び合っている。
(報告:国内事業部 岩井さくら)
ゲストにドキュメンタリー映画「みんなの学校」で紹介された大阪市立大空小学校の初代校長木村泰子さんを迎えての講演があったほか、セーブ・ザ・チルドレンのスタッフからは特設サイト「おやこのミカタ」を紹介しました。セミナーには子育て中の方、仕事やボランティアで子どもと関わりがある方など、178人が参加しました。
初めに、木村さんから「子どもが安心する大人って?〜『みんなの学校』が教えてくれたこと〜」と題して、大空小学校での子どもたちのエピソードをもとに講演がありました。以下、講演内容を抜粋して報告します。
※オンラインセミナーに先立って実施された、木村さんのおやこのミカタインタビューはこちら
【自分から、自分らしく、自分の言葉で語る】
木村さんが校長として勤務されていた 「みんなの学校」(大阪市立大空小学校)では、地域に住んでいる多様な子どもたちが「自分から、自分らしく、自分の言葉で」語れる学びの場をつくっていこうとする取り組みが進められてきました。1人ひとり異なる 子どもたちだからこそ、子どもたち自身が「自分から、自分らしく、自分の言葉で」語ることで、多様な子ども同士の学び合いが生まれてきたそうです。
【子ども同士をつなぐ大人になること】
また、大空小学校では、子ども同士の関係を大切にし、大人の役割は、子どもの邪魔をせずに子ども同士をつなぐことだと木村さんは話しました。大人が一方的に「正解」を伝えるといった対応をせずに、子ども同士をつなぐことができれば、子どもたちは、お互いの違いから学び関わり合おうとしていく、と木村さんは言います。大空小学校では、子ども同士の関係性をつないでいく大人にどうしたらなれるかを、問い続けてきたそうです。しかし、最後まで「これで良い」と思えた日はなかった、とも言います。
【安心できる大人】
続いて、「安心できる大人」について、ある子どものエピソードが紹介されました。ある日、教室で昼休みに友だちの物を取ってしまった子どもがいました。学年の先生たちは、どうしたら「ぼくが取りました」と本当のことを言ってくれるかを、一生懸命方法を考えて関わろうとしたそうです。先生たちは「大丈夫?困ってない?」、「怒れへんから言うてみ」と優しく声をかけたのですが、逆に、その子どもをすごく怒らせてしまったそうです。
一方で木村さんが「あんた、あほやな。なんで取ったら『取った』って言えへんの?黙ってたらしんどいやろ」と問いかけると、素直にこう話してくれたそうです。「先生たちな、『怒れへんから言うてみ』とかみんな優しそうに言うけど、俺が取ったって言うたら絶対親にも言うし、怒られへんなんてありえないやろ?そこから先のこと考えたら、俺ホントのことだんだん言われへんようになった」と。大人が、一生懸命に優しく関わろうとすればするほど、その子は本当のことを言ったあとのことを考えて、追い詰められてしまったようです。
学年の先生たちは、なぜ木村さんには本当のことを言ってくれたのか教えてほしいとその子に尋ねてみました。「校長先生(木村さん)な、何も言わんと、いつもそばで黙っていてくれる。困ったらいつでも相談できる」との答えだったそうです。その子にとって、木村さんは安心できる大人だったのです。
大人が「教えなきゃいけない」とか「助けてあげなきゃいけない」と子どもに接すれば接するほど、子どもはその大人のことを恩着せがましく思ってしまうことがあります。主語が「先生が」や「親が」だったり、「大人がこの子のために」という感覚で子どもに接したりすると、子どもとの関係は対等ではなくなってしまいます。子どもは、それぞれの環境で育ち、さまざまな経験を持っている存在です。子どもを尊重し、子どもを主語にした関わりでなければ子どもは安心できないと、木村さんは言います。
子どもから教えてもらった「安心できる大人」を目指し、大空小学校の教員で理想とされる先生像を考えた時、最終的な答えは「透明人間」となったそうです。大人が指導力を用いて子どもと関わるのではなく、そばにいて、子どもと子どもとの間を、通訳してつなげていく。そうすれば、子どもは前を向く本質を持っているから、子ども同士つながりあっていきます、と木村さんは言います。
セミナー参加者からのアンケートでは、「子どもの声を聴かせてもらえるようになることを目標として、姿勢を改めていきたいと思います」、「子どもだけでなく、すべての人と関わる際に気をつけることなどをわかりやすく、すぐに実践できる言葉で伝えていただけたので良かった」などの感想が寄せられ、多くの方が子どもとの関係性を築く上でのヒントを得たようでした。
今回のオンラインイベントは、おやこのミカタウェブサイトで視聴することができます(1月末公開予定)。
これまでのオンラインイベントの動画視聴はこちら
セーブ・ザ・チルドレンでは、今後もウェブサイト「おやこのミカタ」を基に、ポジティブな子育てを広める活動を続けていきます。
セミナーゲスト: 大阪市立大空小学校初代校長 木村 泰子さん
大阪府生まれ。2006年に開校した大阪市立大空小学校の初代校長を9年間務める。大空小学校では「すべての子どもの学習権を保障する」という理念のもと、教職員や地域の人たちとともに障害の有無に関わらず、すべての子どもがいつもいっしょに学び合っている。2015年には大空小学校の1年間を追ったドキュメンタリー映画「みんなの学校」が公開され、大きな反響を呼んだ。この映画は文科省の特別選定作品にも選ばれ、現在も全国各地の教育現場などで自主上映されている。2015年春に、45年間の教員生活を終え、現在は講演活動やセミナーで全国の人たちと学び合っている。
(報告:国内事業部 岩井さくら)