シリア危機(公開日:2016.03.15)
「僕はもう子どもではいられない」
〜シリアの工場で働く12歳のアナスさん〜
2016年3月でシリア危機が始まってから5年が経過します。5年といえば、小学校の学校生活期間のほとんどにあたります。本来であれば親は、子どもの成長や未来に胸を弾ませ、子どもたち自身も多くの可能性に満ち、貴重な「子どもでいる」時間を過ごしているはずです。しかし、紛争は容赦なくそういったものを奪っていきます。シリアで暮らす子どもたちの中には、早く大人にならなければいけないと感じ、友人や兄弟・姉妹と遊ぶことや学校で学ぶことをあきらめて日々を生き抜いている子どももいます。
自らが働く工場の一角で(アナスさん、12歳)
シリア人のアナスさん(12歳)は、人々の生活は以前ともう同じではないと思っていると話してくれました。物事が悪い方向に変わり、今では子どもたちが働きに出て、大人は家に閉じこもっていることが多くなったと言います。アナスさんも友だちとサッカーをして遊ぶかわりに、家族のために働きに出ています。家族の中に他に働き手がいないために、彼が家族を食べさせていくしかないのです。
アナスさんに日々の生活、仕事や学校への思いを聞いてみました。
「僕は、家族を助けるために働かなければなりません。シリアで紛争が始まってから、村ではいろんなことが変わってしまいました。物の値段は上がり、パン一切れの値段も10リラ* (約5円)から100リラ(約50円)、チョコのお菓子は5リラ(約2.5円)から100リラ(約50円)にまで上がってしまいました。いくらなのか、もうよく分かりません。どうせ高すぎて買うこともできないから。
*シリアの通貨はシリア・ポンドだが、地元の人たちは「リラ」という通称を使うことが多い。
食べ物だけではなく、すべてが変わってしまいました。僕は今12歳ですが、紛争が起きてからとても生活が変わったと感じています。僕らはもう学校に行っていません。先生がこの村に来なくなったから。それに安全じゃないからサッカーもできないし、外で自転車に乗ることもできません。イードのお祭り(イスラム教の断食明けの祝祭)のときも、お金がないから新しい服も買えないのです。村には電気が通らなくなったので、冷蔵庫も使えないし、いつ最後にアイスを食べたかもう思い出せません。すべてがどんどん悪い方にいって、前みたいに楽しいことは何もなくなってしまいました。
昔は、大人だけが働きに出かけていて、子どもたちは学校に行って、友だちと楽しく遊んでいました。でも、今では、僕の知っている子どもはほとんど家族のために仕事をしています。大人は戦闘に加わるか、何もせずに家にいるだけです。僕はたくさんの仕事をしてきたけど、どれもすごく大変でした。石を扱う工場で働いたこともあったけど、すごく重い石を運ばなければいけなくて腰が痛くなってしまい、その仕事は辞めました。ほかの子どもたちと一緒に、パンとか石油を売る仕事もしたけど、すごくきつい仕事で疲れてしまいました。今の仕事もすごく疲れるけど、僕の家族は食べ物が必要だし、僕しか働ける人がいないから、みんな僕を頼りにしているのです。
もう僕は子どもではいられないのです、僕の責任はとても重いから。
毎朝6時に起きて、朝ごはんを食べてから工場に行って、掃除をして、上司にコーヒーをいれます。それから、大きなビニール袋を外から運んで機械に入れ、細かく刻み、それを今度は洗濯機で洗ってきれいにします。みんなの仕事が終わったら、次の日のために僕が機械を洗って準備します。夜6時過ぎに家に帰ってご飯を食べて寝ます。たまに友だちと遊びに出かけることもあるけど、普段はすごく疲れていて、ただ寝るだけになってしまいます。
今は、学校がそれほど重要だと思えません。僕は家族を助けているし、家族のために食べ物を持ってきてあげないといけないから。もし僕が学校に行ったら、家族を支えられなくなって、今度は家族が僕のためにお金を稼がなければいけなくなります。もし僕が仕事をやめたら、また今の仕事と同じぐらい働けるようになるまでに、何年もかかってしまう。僕の両親は、学校が再開したらすぐに学校に戻りなさいと言うけれど、僕は仕事をする方がいいと思っています。数年後には、僕は自分の工場を持ちたいです。そうすれば、もっとたくさんお金が稼げるし、家族を安全に、幸せにしてあげられると思うから。」
教育の大切さや児童労働の悪影響を理解していても、紛争が長引き、家計が悪化していく中で、子どもを働きに出さざるを得ない家庭、また自ら働きに出る子どもたちが増えているのが現状です。このような状況にいる子どもたちは暴力や搾取の被害を受けやすく、またよりよい稼ぎを求めて武装勢力に関与していくシリアの子どもや若者も顕著になっています。
セーブ・ザ・チルドレンでは、このような子どもたちに支援を届け、また子どもたちが暴力や搾取の被害に遭わないように、地域における子どもの保護の取り組み、子どもたちへの教育や心理社会サポートの提供、併せて、家族への生計支援等を包括的に行っています。
本事業は皆さまからのご支援と、ジャパン・プラットフォームからの助成により実施しています。
※使用している子どもの名前・写真は、個人情報保護のため、一部編集しております。