シリア危機(公開日:2021.03.12)
「シリア以外ならどこでも」:シリア危機から10年、祖国での未来を想像できない子どもたち
2021年3月で、シリア紛争が起こってから10年が経ちます。セーブ・ザ・チルドレンの最新の報告書『シリア以外ならどこでも(Anywhere but Syria)*』を発表し、シリアの子どもたちの大多数は自国での将来を想像できないと考えていることを報告しました。ヨルダンやレバノン、トルコ、オランダで調査したシリア難民の子どもたちの平均86%が、シリアに戻りたくないと回答していますi。また、シリア国内で避難をしている子どもたちの3人に1人が他国で暮らしたいと回答しています。
さらに、故郷から避難せざるをえなかった子どもたちは、避難先の暮らしで安心・安全を感じられていません。調査対象の約5人に2人が、差別を受け、教育を受けられていないと答えています。そして、多くの子どもたちは、自身の将来について夢や希望を持てないと感じています。
この報告書は、セーブ・ザ・チルドレンがシリア国内外で避難生活を送る子どもとその保護者など1,900人以上を対象に行ったインタビューをもとに作成されました。報告書では次のことが明らかになりました:
さらに、故郷から避難せざるをえなかった子どもたちは、避難先の暮らしで安心・安全を感じられていません。調査対象の約5人に2人が、差別を受け、教育を受けられていないと答えています。そして、多くの子どもたちは、自身の将来について夢や希望を持てないと感じています。
この報告書は、セーブ・ザ・チルドレンがシリア国内外で避難生活を送る子どもとその保護者など1,900人以上を対象に行ったインタビューをもとに作成されました。報告書では次のことが明らかになりました:
- •ヨルダン、レバノン、トルコ、オランダで、避難生活を送るシリア難民の子どもたちのうちシリアに帰還したいと回答した子どもは、ヨルダンで9%、レバノン29%、トルコ3%、オランダ9%だった。
- •調査に参加した子どもたちに、将来に最も望むことは何かと質問した結果、最も多かった回答は、「シリアで起こっている戦闘や暴力が終わること」(26%)、次いで「教育」(18%)であった。
- •調査に参加した子どもたちの44%が、自分たちの暮らす地域や学校で差別を経験したことがあると回答した。シリア国内の調査対象の子どもたちは、58%が差別を経験したと回答した。
- •調査に参加した子どもたちの42%が学校に通っておらず、学習機会があると回答した子どもたちは、レバノンでは31%、ヨルダンでは半数以下の49%だった。
ララさん(中央)といとこのサルワさん(左)、友人のヤナさん(右)
ララさん(7歳)は、3年前に故郷イドリブ県から避難を余儀なくされ、以降、避難を繰り返し現在は同県内にある避難民キャンプにいます。
「10年が経ち、私たちの未来は紛争一色になってしまいました。シリアでの生活は困難を極め自宅は破壊され、今はテントで生活しています。シリア以外の安全で学校やおもちゃがある国に住みたいです。ここは安心できる場所ではなく、犬の吠える声も怖く、テントも安全ではありません。」
調査に回答した子どもたちのうち、避難先のコミュニティとのつながりが薄いことを最も感じているのは、シリア国内で避難する子どもたちでした。彼らは、自国内で避難しているにも関わらず、ヨルダンやレバノンに避難している子どもたちよりも、差別を経験していると回答する割合が明らかに高いことが示されました。
新型コロナウイルス感染症は経済に深刻な影響を及ぼしていますが、それ以前でも、シリアに暮らす80%の人たちiiは、国際貧困ライン(1.9米ドル/日)を下回る水準の暮らしをしています。最近の数値によると、今後620万人の子どもたちが深刻な食料不足に直面すると考えられています。
さらに、国外に避難するシリアの子どもたちとその家族の生活も困難を極めています。レバノンでは、経済危機や政情不安、新型コロナウイルス感染症の流行、昨年起こった首都ベイルートでの大規模爆発事故の影響で、シリア難民10家族のうち9家族が極度の貧困のなかで生活していると国連は伝えていますiv。
ナダさん(右)ときょうだい
シリアで生まれ、現在レバノン北部で避難生活を送るナダさん(17歳)は、次の通り話します。
「将来の夢は医師になることですが、治安も悪く、学校にも通っていません。夢はきょうだいのように学校に行くことです。シリアに戻って、また暮らしたいとは思いませんが、レべノンにもいたくありません。どこに行っても、学校に行ってもいじめられたり、ここにいるなと言われたりします。」
調査では、子どもたちは、良い教育を受けることの重要性と、それが手の届かないところにあることが自分たちの健やかな成長(well-being)に及ぼす深刻な影響も強く訴えていました。
しかし、対照的にオランダでは、シリアの子どもたちの70%が前向きな未来を描いており、調査に参加した子どもたち全員が教育を受けていました。そして、10人に8人以上がオランダに残りたいと考えており、その理由として言語や教育、経済的機会、自由をあげていました。
セーブ・ザ・チルドレンはすべての関係者に対し、過去10年間にわたってシリアの子どもたちの生活を困難にしてきた身体的、精神的暴力からシリアの子どもたちを守るよう訴えます。シリアの子どもたちには、常に安心・安全が脅かされることを恐れる必要のない環境で育つ権利、避難生活を余儀なくされたり、さらなる避難の恐怖の中での生活を強いられることのない権利があります。加えて、出身国や出身地を理由に差別されないよう権利が保障されなければなりません。
■報告書(全文・英語)はこちら https://resourcecentre.savethechildren.net/node/18914/pdf/anywhere_but_syria_02032021_1.pdf
* シリアとヨルダン、レバノン、トルコ、オランダで、13歳から17歳のシリアの子どもたちにインタビューしました。また、両親や養育者にも簡単な調査を実施しました。
i The average percentage of children who don't wish to return to Syria is calculated by aggregating the answers to this question from children in Turkey, the Netherlands, Lebanon and Jordan and dividing the total percentage by four
ii https://reliefweb.int/report/syrian-arab-republic/syria-economic-crisis-compounds-conflict-misery-millions-face-deeper#:~:text=Syrians'%20food%20security%20and%20livelihoods,line%20of%20%241.90%20per%20day.
iii https://www.savethechildren.net/news/syria-number-children-going-hungry-35-just-four-months
iv https://reliefweb.int/report/lebanon/nine-out-ten-syrian-refugee-families-lebanon-are-now-living-extreme-poverty-un-study