シリア危機(公開日:2017.03.07)
【紛争6年目のシリア】毒性ストレスに晒される子どもたちのメンタルヘルスが危機的状況に―シリアの子どもたちに関する調査報告書「見えない傷」を発表
子ども支援専門の国際NGOであるセーブ・ザ・チルドレンは、2011年3月にシリアで内戦が勃発してから6年を迎えるにあたり、シリア国内に留まる子どもたちのメンタルヘルスに関する過去最大規模の調査*1を実施し、報告書「見えない傷(Invisible Wounds):6年に及ぶ紛争がシリアの子どもたちのメンタルヘルスに与える影響」を発表しました。
調査の結果、多くの子どもたちが砲撃や空爆、暴力行為に日常的に晒されている不安や恐怖から、毒性ストレス(toxic stress)*2状態に置かれていることが明らかになりました。これは、子どもたちが、極度の精神的外傷を受けていることを意味します。継続的に過剰なストレスに晒されることで、子どもの精神的・身体的な健康に、生涯にわたる影響を及ぼす可能性があります。メンタルヘルスの専門家は、毒性ストレスは子どもが体験するストレス反応の最も危険な形であると説明し、このままでは子どもたちが受ける精神的ダメージは、不可逆的なものになるだろうと警告しています。
本調査で明らかになったことー
●大人の84%と、子どものほぼ全員が、日常的な爆撃や砲撃が、最大のストレス要因だと答えました。
●子どもの50%が、学校にいて安全だと感じることは全く、もしくはほとんどないと答え、40%が、たとえ家のすぐ近くであっても、外で遊ぶのを安全だと感じないと答えました。
●子どもの49%が、常に嘆きや深い悲しみを感じていると答え、78%が往々にして感じると答えました。
●大人の89%が、紛争が長期化するにつれ、子どもたちはより恐怖感を感じるようになり、神経質になっていると答えました。
●大人の80%が、子どもたちや青少年は以前よりも攻撃的になったと答え、71%が、子どもたちは頻繁に夜尿や尿失禁をするようになったと答えました。これらは、子どもの毒性ストレスやPTSD(心的外傷後ストレス障害)症状として一般的な特徴です。
●大人の48%が、紛争が始まって以降、言語障害や言葉を発せなくなった子どもを見たことがあると答えました。
●大人の59%が、武装勢力に徴用された子どもや青少年のことを知っていると答えました
シリア北東部ハサケの国内難民キャンプで暮らすザイナブさん(12歳)は、「酷いことを沢山見てしまったような気がします。紛争が始まって、それまで習ったことを全て忘れてしまった子どもたちもいます。私の9歳の弟は、『1+1』のような簡単な問題にも答えられません。私は、もう2年間も学校に行っていません。このまま状況が変わらずに歳をとって、将来が全くなくなってしまったら、どうすればいいのでしょう。こんな不公平なことはないと思います」と訴えます。
子どもが恒常的に精神的ストレスに晒されると、夜尿、公共の場所での尿失禁、言語障害や言葉を発せなくなる、攻撃性の増大、薬物乱用などの症状が現れてきます。調査を行った地域の住人や専門家からは、12歳以上の子どもの間では、自傷行為や自殺未遂が増えているとの報告も出ています。
シリア北西部イドリブで活動するセーブ・ザ・チルドレンのパートナー団体シャファック(Shafak)の職員は、「ここでは、人がいつ死んでもおかしくない状況です。この安全と安心が無いことが、子どもに多くの精神的問題をもたらしています。子どもたちは常にストレス下にあり、飛行機やロケットの音を極度に恐れているため、椅子が動いたり、ドアが閉まったりする音にでさえも反応します。子どもたちはますます自分の殻に閉じこもるようになり、私たちが子どもたちのために実施している活動にも参加したがらなくなっています。小さい子どもたちの間では、公共の場での尿失禁も増えています」と証言します。こうした症状は、毒性ストレスの兆候です。
ハーバード大学をベースに子ども保護とメンタルヘルスの専門家として活動するアレクサンドラ・チェン(Alexandra Chen)は、 「子どもたちには自然に回復する力がありますが、多くのシリアの子どもたちのように、極度のトラウマ的体験に繰り返し晒されることで、毒性ストレス状態の中での生活という甚大なリスクを招きます。こうした状況は、脳やその他の臓器の発育不全、心臓病のリスクの増大、薬物乱用、抑うつ症状やその他のメンタルヘルスの問題を引き起こすなど、子どもの精神的・身体的な健康に、生涯にわたる影響を及ぼす可能性があります」と指摘します。
子どもたちは、紛争の終結、適切な支援、そして早期の介入によって、こうしたトラウマ的体験から回復が可能ですが、家族間の支援や公的サービスが壊滅状態にあるシリアでは、子どもたちのメンタルヘルスの危機的状況は、臨界点に達しています。
医者や専門家の多くが国外に避難してしまったことに加え、絶え間ない爆撃や包囲によって支援団体の職員が入れない地域では、専門的なケアがほぼ受けられません。また、社会的偏見から、人々はメンタルヘルスのケアを受けることをためらう傾向にあります。
大人たちも極度のストレスを抱えながら日々の生活への対処に追われる中、調査で話を聞いた子どもの4人に1人が、恐怖や悲しみ、落ち込みを感じても、相談できる場所や人がほとんど、もしくは全くないと回答しました。
セーブ・ザ・チルドレンの中東地域におけるメンタルヘルスおよび心理社会的支援シニアアドバイザーを務めるマルシア・ブロフィ博士(Dr Marcia Brophy)は、「私たちは、シリア国内に留まる子どもたちを支えきれていません。親が目の前で殺されるのを目撃した子どもたちや、包囲された地域で命の危険に脅かされながら生活している子どもたちが、適切な助けを受けられずに取り残されているのです。私たちは、この世代の子どもたちに、生涯にわたる精神的・身体的健康へのダメージを負わせようとしています。紛争によって6年という歳月を失った子どもたちに、未来までも失わせてはなりません」と訴えます。
セーブ・ザ・チルドレンは本調査を通して、6年に及ぶ紛争が、シリア国内に留まる子どもたちのメンタルヘルスに危機的状況をもたらしていることを明らかにしました。子どもたちは大きな音に脅えて尿を失禁し、外で遊ぶことを怖がり、教育を受けないことで将来が損なわれることを不安に思いながらも、爆撃を恐れて学校に行くことができません。一般市民の居住地への爆撃を終わらせ、緊急支援物資やメンタルヘルスおよび心理社会的支援を行き届かせることで、子どもたちを毒性ストレスによる苦しみから解放することができます。
セーブ・ザ・チルドレンは、即時停戦と暴力停止の合意に加えて、次のことを求めます―
●全ての紛争当事者は、子どもたちの苦痛や恐怖の最大の要因となっている、人口が密集している地域での爆弾の使用や、学校、病院、その他市民生活に関わる施設への攻撃を停止すること。
●包囲作戦を戦術として採用することを即刻中止し、シリア全土での人道支援の無制限のアクセスを保障し、セーブ・ザ・チルドレンやパートナー団体が最も脆弱な立場に置かれた人々に支援を届けられるようにすること。
●ドナーは、緊急時における子どものメンタルヘルスと健やかな成長(well-being)を支援する新しい国際的なコミットメントを行うこと。これには、シリア国内における、メンタルヘルスおよび心理社会的支援への十分な資金提供を含むこと。
その他の提言は、報告書をご覧ください
*1 本調査は、2016年12月〜2017年2月にかけて、セーブ・ザ・チルドレンとシリアのパートナー団体が、シリア全14県中7県(アレッポ、ダマスカス、ダラア、ホムス、イドリブ、ハサケ、リフ・ダマスカス)で、458人の子ども、青少年、大人を対象に実施。13〜17歳の青少年154人(女子59人、男子95人)、159人の保護者(女性61人、男性98人)に対する個人への聞き取りと、125人の子ども(女児56人、男児69人)を5〜7歳、8〜11歳、12〜14歳、15〜17歳の年齢に分けた17のグループに対する聞き取り調査により行われました。加えて、精神保健福祉士、精神科医、支援関係者、教師、保護者、子ども20人に対して、詳細な聞き取り取材を行いました。調査は訓練を受けた専門家が実施し、調査に参加した子どもたちに対しては、心理的応急処置が施されました。
*2 Center on the Developing Child, Harvard University,
http://developingchild.harvard.edu/science/key-concepts/toxic-stress/
<セーブ・ザ・チルドレンによる、シリア国内の子どもたちへの支援>
セーブ・ザ・チルドレンは、シリア国内の10県で、メンタルヘルスおよび心理社会的支援と、教育支援を行っています。メンタルヘルスおよび心理社会的支援は、機関間常設委員会(IASC)のガイドラインに基づき、芸術を通じた癒しと教育プログラムや子どものレジリエンスプログラムなどを含みます。セーブ・ザ・チルドレンはまた、7つの基礎医療施設と1つの産科医院への支援提供、ワクチン接種キャンペーンの実施、家庭用品や衛生用品、防寒用品の配布なども実施しています。シリア国内ではこれまでに、150万人以上の子どもを含む240万人以上の人々に支援を届けました。*シリア危機への対応として、セーブ・ザ・チルドレンはさらに、ヨルダン、レバノン、イラク、エジプトなどの周辺国でシリア難民支援も実施しています。
調査の結果、多くの子どもたちが砲撃や空爆、暴力行為に日常的に晒されている不安や恐怖から、毒性ストレス(toxic stress)*2状態に置かれていることが明らかになりました。これは、子どもたちが、極度の精神的外傷を受けていることを意味します。継続的に過剰なストレスに晒されることで、子どもの精神的・身体的な健康に、生涯にわたる影響を及ぼす可能性があります。メンタルヘルスの専門家は、毒性ストレスは子どもが体験するストレス反応の最も危険な形であると説明し、このままでは子どもたちが受ける精神的ダメージは、不可逆的なものになるだろうと警告しています。
本調査で明らかになったことー
●大人の84%と、子どものほぼ全員が、日常的な爆撃や砲撃が、最大のストレス要因だと答えました。
●子どもの50%が、学校にいて安全だと感じることは全く、もしくはほとんどないと答え、40%が、たとえ家のすぐ近くであっても、外で遊ぶのを安全だと感じないと答えました。
●子どもの49%が、常に嘆きや深い悲しみを感じていると答え、78%が往々にして感じると答えました。
●大人の89%が、紛争が長期化するにつれ、子どもたちはより恐怖感を感じるようになり、神経質になっていると答えました。
●大人の80%が、子どもたちや青少年は以前よりも攻撃的になったと答え、71%が、子どもたちは頻繁に夜尿や尿失禁をするようになったと答えました。これらは、子どもの毒性ストレスやPTSD(心的外傷後ストレス障害)症状として一般的な特徴です。
●大人の48%が、紛争が始まって以降、言語障害や言葉を発せなくなった子どもを見たことがあると答えました。
●大人の59%が、武装勢力に徴用された子どもや青少年のことを知っていると答えました
シリア北東部ハサケの国内難民キャンプで暮らすザイナブさん(12歳)は、「酷いことを沢山見てしまったような気がします。紛争が始まって、それまで習ったことを全て忘れてしまった子どもたちもいます。私の9歳の弟は、『1+1』のような簡単な問題にも答えられません。私は、もう2年間も学校に行っていません。このまま状況が変わらずに歳をとって、将来が全くなくなってしまったら、どうすればいいのでしょう。こんな不公平なことはないと思います」と訴えます。
子どもが恒常的に精神的ストレスに晒されると、夜尿、公共の場所での尿失禁、言語障害や言葉を発せなくなる、攻撃性の増大、薬物乱用などの症状が現れてきます。調査を行った地域の住人や専門家からは、12歳以上の子どもの間では、自傷行為や自殺未遂が増えているとの報告も出ています。
シリア北西部イドリブで活動するセーブ・ザ・チルドレンのパートナー団体シャファック(Shafak)の職員は、「ここでは、人がいつ死んでもおかしくない状況です。この安全と安心が無いことが、子どもに多くの精神的問題をもたらしています。子どもたちは常にストレス下にあり、飛行機やロケットの音を極度に恐れているため、椅子が動いたり、ドアが閉まったりする音にでさえも反応します。子どもたちはますます自分の殻に閉じこもるようになり、私たちが子どもたちのために実施している活動にも参加したがらなくなっています。小さい子どもたちの間では、公共の場での尿失禁も増えています」と証言します。こうした症状は、毒性ストレスの兆候です。
ハーバード大学をベースに子ども保護とメンタルヘルスの専門家として活動するアレクサンドラ・チェン(Alexandra Chen)は、 「子どもたちには自然に回復する力がありますが、多くのシリアの子どもたちのように、極度のトラウマ的体験に繰り返し晒されることで、毒性ストレス状態の中での生活という甚大なリスクを招きます。こうした状況は、脳やその他の臓器の発育不全、心臓病のリスクの増大、薬物乱用、抑うつ症状やその他のメンタルヘルスの問題を引き起こすなど、子どもの精神的・身体的な健康に、生涯にわたる影響を及ぼす可能性があります」と指摘します。
子どもたちは、紛争の終結、適切な支援、そして早期の介入によって、こうしたトラウマ的体験から回復が可能ですが、家族間の支援や公的サービスが壊滅状態にあるシリアでは、子どもたちのメンタルヘルスの危機的状況は、臨界点に達しています。
医者や専門家の多くが国外に避難してしまったことに加え、絶え間ない爆撃や包囲によって支援団体の職員が入れない地域では、専門的なケアがほぼ受けられません。また、社会的偏見から、人々はメンタルヘルスのケアを受けることをためらう傾向にあります。
大人たちも極度のストレスを抱えながら日々の生活への対処に追われる中、調査で話を聞いた子どもの4人に1人が、恐怖や悲しみ、落ち込みを感じても、相談できる場所や人がほとんど、もしくは全くないと回答しました。
セーブ・ザ・チルドレンの中東地域におけるメンタルヘルスおよび心理社会的支援シニアアドバイザーを務めるマルシア・ブロフィ博士(Dr Marcia Brophy)は、「私たちは、シリア国内に留まる子どもたちを支えきれていません。親が目の前で殺されるのを目撃した子どもたちや、包囲された地域で命の危険に脅かされながら生活している子どもたちが、適切な助けを受けられずに取り残されているのです。私たちは、この世代の子どもたちに、生涯にわたる精神的・身体的健康へのダメージを負わせようとしています。紛争によって6年という歳月を失った子どもたちに、未来までも失わせてはなりません」と訴えます。
セーブ・ザ・チルドレンは本調査を通して、6年に及ぶ紛争が、シリア国内に留まる子どもたちのメンタルヘルスに危機的状況をもたらしていることを明らかにしました。子どもたちは大きな音に脅えて尿を失禁し、外で遊ぶことを怖がり、教育を受けないことで将来が損なわれることを不安に思いながらも、爆撃を恐れて学校に行くことができません。一般市民の居住地への爆撃を終わらせ、緊急支援物資やメンタルヘルスおよび心理社会的支援を行き届かせることで、子どもたちを毒性ストレスによる苦しみから解放することができます。
セーブ・ザ・チルドレンは、即時停戦と暴力停止の合意に加えて、次のことを求めます―
●全ての紛争当事者は、子どもたちの苦痛や恐怖の最大の要因となっている、人口が密集している地域での爆弾の使用や、学校、病院、その他市民生活に関わる施設への攻撃を停止すること。
●包囲作戦を戦術として採用することを即刻中止し、シリア全土での人道支援の無制限のアクセスを保障し、セーブ・ザ・チルドレンやパートナー団体が最も脆弱な立場に置かれた人々に支援を届けられるようにすること。
●ドナーは、緊急時における子どものメンタルヘルスと健やかな成長(well-being)を支援する新しい国際的なコミットメントを行うこと。これには、シリア国内における、メンタルヘルスおよび心理社会的支援への十分な資金提供を含むこと。
その他の提言は、報告書をご覧ください
*1 本調査は、2016年12月〜2017年2月にかけて、セーブ・ザ・チルドレンとシリアのパートナー団体が、シリア全14県中7県(アレッポ、ダマスカス、ダラア、ホムス、イドリブ、ハサケ、リフ・ダマスカス)で、458人の子ども、青少年、大人を対象に実施。13〜17歳の青少年154人(女子59人、男子95人)、159人の保護者(女性61人、男性98人)に対する個人への聞き取りと、125人の子ども(女児56人、男児69人)を5〜7歳、8〜11歳、12〜14歳、15〜17歳の年齢に分けた17のグループに対する聞き取り調査により行われました。加えて、精神保健福祉士、精神科医、支援関係者、教師、保護者、子ども20人に対して、詳細な聞き取り取材を行いました。調査は訓練を受けた専門家が実施し、調査に参加した子どもたちに対しては、心理的応急処置が施されました。
*2 Center on the Developing Child, Harvard University,
http://developingchild.harvard.edu/science/key-concepts/toxic-stress/
<セーブ・ザ・チルドレンによる、シリア国内の子どもたちへの支援>
セーブ・ザ・チルドレンは、シリア国内の10県で、メンタルヘルスおよび心理社会的支援と、教育支援を行っています。メンタルヘルスおよび心理社会的支援は、機関間常設委員会(IASC)のガイドラインに基づき、芸術を通じた癒しと教育プログラムや子どものレジリエンスプログラムなどを含みます。セーブ・ザ・チルドレンはまた、7つの基礎医療施設と1つの産科医院への支援提供、ワクチン接種キャンペーンの実施、家庭用品や衛生用品、防寒用品の配布なども実施しています。シリア国内ではこれまでに、150万人以上の子どもを含む240万人以上の人々に支援を届けました。*シリア危機への対応として、セーブ・ザ・チルドレンはさらに、ヨルダン、レバノン、イラク、エジプトなどの周辺国でシリア難民支援も実施しています。