シリア危機(公開日:2018.05.18)
【レバノン】シリア難民の子どもの保護事業を開始、子どもを暴力や虐待、搾取から守る
シリア危機が2011年に始まってから、7年が経過しましたが、シリア国内の状況は混迷を深め、近隣国に避難するシリア難民の暮らしも厳しさを増すばかりです。シリアの近隣国の一つ、レバノンには2017年末時点で150万人のシリア難民が避難している(1) と言われています。
国連の調査により、レバノンに避難するシリア難民の7割以上の人々が1日400円以下の生活を送っており(2) 、8割以上の人々が借金を抱えていることが明らかになっています(3)。また、難民が暮らす廃墟ビルやテント居住群の衛生環境は劣悪で、感染症が流行することもあります。このような厳しい状況の中で、最も弱い立場に置かれるのは、子どもたちです。
シリア危機により、シリアの多くの子どもたちは故郷を追われるだけでなく、家族を失ったり、身体的、精神的に傷を負うなどの被害を受けています。さらに、助けを求めて逃れてきたはずのレバノンにおいても、地域や家庭などで、日常的に暴力や虐待、搾取などの被害に遭っている子どももいます。
問題としては、児童労働の深刻化や、親に薦められ、望まない結婚をさせられる子どもの増加があります。多くの子どもたちが、農作物の収穫、飲食店での給仕、工場などでの自動車やバイクの修理といった労働に従事しているほか、路上での物販や物乞いなどを行っています。また、レバノンのセント・ジョゼフ大学が2015年に実施した調査によると、レバノンに避難する18歳未満のシリア難民女性のうち23%が既婚であるとされています(4)。結婚とは何かを十分に知らないまま結婚し、嫁いだ世帯で苦しい生活を強いられる子どもが増えているのです。
子どもたちは言います。「誰も信頼できない」「刑務所で暮らしているようだ」と。何の罪もない子どもたちが、このような状況に追いやられているのです。
セーブ・ザ・チルドレンは、このような問題の発生を防ぎ、子どもたちが適切に守られるよう2017年7月1日に、南レバノン県サイダ郡の5つの難民集住地域で事業を開始しました。本事業では、地域住民自身が、地域や家庭における暴力や虐待、搾取などの子どもの保護の問題を発見し、セーブ・ザ・チルドレンのスタッフと協力し、問題解決を行っていくための活動を実施しています。
2018年1月までの第1期事業期間中には、難民集住地域で子どもたちを守るために活動するボランティアグループ、『子ども保護グループ』を形成し、グループのメンバーに対し子どもの保護に関する研修を実施しました。これらの活動を受け、メンバーたちは、自身が居住する地域にて子どもに対する暴力や虐待、搾取などの問題を発見した際に、セーブ・ザ・チルドレンのスタッフに相談し、支援を求めることができるようになりました。
スタッフは、子ども保護グループメンバーの相談を受け、問題の被害にあっている子どもたちや家族に聴き取りを行い、地域の学校や医療機関、職業訓練等を実施している他のNGOなどとの連携のもと、一人ひとりの子どもたちの状況を改善するための支援を提供しています。
難民集住地域に住むある子どもは、シリア危機の影響で母親を失い、父親とも暮らせなくなり、祖母とレバノンで暮らしていましたが、長引く避難生活や父母の不在等が原因となり、心理的ストレスを抱えていました。そこで、セーブ・ザ・チルドレンのソーシャルワーカーが子ども自身や祖母の悩みを聴き、精神科医と連携して、子どもへの支援を提供しています。
本事業ではまた、暴力や虐待、搾取などの問題を予防するための啓発活動も行っています。ある地域では、セーブ・ザ・チルドレンの啓発活動のひとつである研修を受けた子ども保護グループメンバーが、児童婚を予防するために、地域住民に注意を呼び掛けるようになりました。これにより、児童婚を予防することができたケースも出てきています。
2018年2月には、事業第2期が開始されました。第2期では、子ども保護グループメンバーの能力強化を行い、被害にあっている子どもたちへの支援強化を目指した活動を実施しています。
シリア危機の影響でレバノンに避難した子どもたちが、少しでも安心安全な暮らしを送ることができるよう、引き続き、セーブ・ザ・チルドレンは子どもの保護の活動を実施していきます。
本事業は、皆さまからのご寄付とジャパン・プラットフォームのご支援により実施しています。
(1)UN OCHA, Humanitarian Bulletin Lebanon Issue 30|1 November 2017- 31 January 2018.
(2)レバノンは物価が高いため、サンドイッチひとつ、コーヒー一杯を安価な店で購入するだけで400円に達してしまいます。
(3)UNHCR, UNICEF, & WFP. (2017). Vulnerability assessment of Syrian refugees in Lebanon 2017.
(4)Universite Saint-Joseph, News Brief, June 30th 2015, p.1.
(レバノン駐在員 西口祐子)
国連の調査により、レバノンに避難するシリア難民の7割以上の人々が1日400円以下の生活を送っており(2) 、8割以上の人々が借金を抱えていることが明らかになっています(3)。また、難民が暮らす廃墟ビルやテント居住群の衛生環境は劣悪で、感染症が流行することもあります。このような厳しい状況の中で、最も弱い立場に置かれるのは、子どもたちです。
レバノンの難民集住地域に住むシリア難民の子どもたち
シリア危機により、シリアの多くの子どもたちは故郷を追われるだけでなく、家族を失ったり、身体的、精神的に傷を負うなどの被害を受けています。さらに、助けを求めて逃れてきたはずのレバノンにおいても、地域や家庭などで、日常的に暴力や虐待、搾取などの被害に遭っている子どももいます。
問題としては、児童労働の深刻化や、親に薦められ、望まない結婚をさせられる子どもの増加があります。多くの子どもたちが、農作物の収穫、飲食店での給仕、工場などでの自動車やバイクの修理といった労働に従事しているほか、路上での物販や物乞いなどを行っています。また、レバノンのセント・ジョゼフ大学が2015年に実施した調査によると、レバノンに避難する18歳未満のシリア難民女性のうち23%が既婚であるとされています(4)。結婚とは何かを十分に知らないまま結婚し、嫁いだ世帯で苦しい生活を強いられる子どもが増えているのです。
子どもたちは言います。「誰も信頼できない」「刑務所で暮らしているようだ」と。何の罪もない子どもたちが、このような状況に追いやられているのです。
セーブ・ザ・チルドレンは、このような問題の発生を防ぎ、子どもたちが適切に守られるよう2017年7月1日に、南レバノン県サイダ郡の5つの難民集住地域で事業を開始しました。本事業では、地域住民自身が、地域や家庭における暴力や虐待、搾取などの子どもの保護の問題を発見し、セーブ・ザ・チルドレンのスタッフと協力し、問題解決を行っていくための活動を実施しています。
2018年1月までの第1期事業期間中には、難民集住地域で子どもたちを守るために活動するボランティアグループ、『子ども保護グループ』を形成し、グループのメンバーに対し子どもの保護に関する研修を実施しました。これらの活動を受け、メンバーたちは、自身が居住する地域にて子どもに対する暴力や虐待、搾取などの問題を発見した際に、セーブ・ザ・チルドレンのスタッフに相談し、支援を求めることができるようになりました。
スタッフは、子ども保護グループメンバーの相談を受け、問題の被害にあっている子どもたちや家族に聴き取りを行い、地域の学校や医療機関、職業訓練等を実施している他のNGOなどとの連携のもと、一人ひとりの子どもたちの状況を改善するための支援を提供しています。
2017年10月に実施した、子ども保護グループへの研修の様子
難民集住地域に住むある子どもは、シリア危機の影響で母親を失い、父親とも暮らせなくなり、祖母とレバノンで暮らしていましたが、長引く避難生活や父母の不在等が原因となり、心理的ストレスを抱えていました。そこで、セーブ・ザ・チルドレンのソーシャルワーカーが子ども自身や祖母の悩みを聴き、精神科医と連携して、子どもへの支援を提供しています。
本事業ではまた、暴力や虐待、搾取などの問題を予防するための啓発活動も行っています。ある地域では、セーブ・ザ・チルドレンの啓発活動のひとつである研修を受けた子ども保護グループメンバーが、児童婚を予防するために、地域住民に注意を呼び掛けるようになりました。これにより、児童婚を予防することができたケースも出てきています。
2018年2月には、事業第2期が開始されました。第2期では、子ども保護グループメンバーの能力強化を行い、被害にあっている子どもたちへの支援強化を目指した活動を実施しています。
シリア危機の影響でレバノンに避難した子どもたちが、少しでも安心安全な暮らしを送ることができるよう、引き続き、セーブ・ザ・チルドレンは子どもの保護の活動を実施していきます。
本事業は、皆さまからのご寄付とジャパン・プラットフォームのご支援により実施しています。
(1)UN OCHA, Humanitarian Bulletin Lebanon Issue 30|1 November 2017- 31 January 2018.
(2)レバノンは物価が高いため、サンドイッチひとつ、コーヒー一杯を安価な店で購入するだけで400円に達してしまいます。
(3)UNHCR, UNICEF, & WFP. (2017). Vulnerability assessment of Syrian refugees in Lebanon 2017.
(4)Universite Saint-Joseph, News Brief, June 30th 2015, p.1.
(レバノン駐在員 西口祐子)