シリア危機(公開日:2016.03.15)
死と隣り合わせの日常:シリア包囲下に暮らす子ども25万人に関する報告書
子ども支援の国際NGOセーブ・ザ・チルドレンは、シリア紛争が始まって丸5年を迎える3月15日にあわせ、シリア国内の8つの包囲地域に暮らす父母や子どもたち125人、22グループを対象にインタビュー形式の定性調査を実施し、その結果をまとめた報告書「包囲下の子ども時代:Childhood Under Siege」を発表しました。
本報告書によると、25万人以上とされるシリアの包囲地域に暮らす子どもたちにとっての最大の脅威は、たる爆弾を含む空爆や砲撃です。22グループすべてで、子どもたちは爆撃の恐怖に常に脅かされていると訴え、父母たちは、子どもたちが以前よりも引きこもりがちになったり、攻撃的になったり、落ち込みやすくなっていると述べました。
報告書の中では、包囲地域の衝撃的な日常が描き出されています。医療従事者の証言によると、電気のない状態でろうそくの明かりを頼りに手術が行われており、医薬品は底を突き、病気の赤ちゃんが適切な治療を受けられず、病院に行く道すがらの検問所で亡くなっています。子どもたちは、日に一度の食事に、ゆでた葉っぱや動物のえさを食べることを余儀なくされ、教師たちは子どもたちを爆撃から守るために、地下に教室を作っています。また、住民を包囲地域に留まらせるために、狙撃手が包囲から逃れようとする住民を手当たり次第に狙います。
首都ダマスカス近郊の東グータ地区に暮らす母親は、「ここでは恐怖がすべてを支配しています。子どもも大人も、自分が殺される順番を待ちながら生きている状態です」と言います。
過去半年の間に、攻撃は激しさを増しています。最新の情報によると、包囲地域では他の地域よりも頻繁にたる爆弾が投下されていて、この傾向は2015年の後半に著しく増大しています。例えば、9月にはアルワエル地区で、子どもたちが遊んでいた運動場に砲撃があり、12月には東グータ地区への空爆で、2週間に少なくとも29人の子どもが犠牲になりました。
シリア東部の都市デリゾールに暮らす父親は、「砲撃の間、私の子どもたちは恐怖に震えていました。4人の子どもが爆弾の犠牲になるのを目撃しましたが、その光景はあまりにも惨たらしく、注視できませんでした。手足をなくした子どももいたのです」と、砲撃時の体験を語りました。
また、包囲下の暮らしの恐ろしさは、爆撃への恐怖が子どもたちに与える深刻な心理的被害だけでなく、食料や基礎的な医薬品、清潔な水が手に入らないこともあると、父母たちは訴えています。
今回インタビューした22のグループのうち、
●大人のグループでは、1グループを除いてすべてのグループ(17中16グループ)で、医薬品の不足や医療へのアクセスがないことが原因で、自分等の地域の子どもたちが死亡したという証言があった
●22グループすべてで、インタビューの回答者から、日々の食事の回数を半分以下に減らさざるを得なくなっているとの証言があった
●4グループから、自分等の地域で栄養不良や飢餓に関連した原因で亡くなった子どもがいるとの証言があった
2014年以降、国連安全保障理事会では、シリア国内への制限のない人道支援のアクセスを求める決議が4か月に1回の頻度で計6回採択されていますが、包囲下で暮らす人々の数は、昨年中に2倍以上も増えています。最も被害の大きい地域への支援物資を増やそうという努力はあるものの、供給は不定期でごくわずかであり、医療に欠かせない医薬品や燃料、栄養価の高い食料などは含まれていません。また、住民は医療を受けるためであっても、包囲地域の外に出ることが許されていません。こうした状況下では、人道支援の自由なアクセスが認められない限り、喫緊に支援を必要とする全ての人に、救命物資を届けることはできません。
シリアでは、支援物資が高く積み上がった倉庫からわずか数キロしか離れていない所で、子どもたちが食料や医薬品の不足で亡くなっています。そうした子どもたちは、世界が行動しないことの代償を払わされているのです。
シリアの子どもたちの苦しみの主たる責任は、紛争の当事者たちにあります。セーブ・ザ・チルドレンは、紛争のすべての当事者に対し、包囲を解くこと、制限や期限のない人道支援のアクセスを直ちに許可すること、そして学校や病院、その他市民生活に欠かせないインフラへの攻撃を止めることを求めます。
包囲下にある争の全ての当事者に責任を課し、包囲地域への制限のない人道支援のアクセスを保証させるべきです。セーブ・ザ・チルドレンはまた、世界の首脳に対し、人道支援を和平協議から切り離し、援助を政治折衝の交渉材料として使わぬように要請します。
*本報告書全文のPDFファイル(英語)はこちら