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シリア危機
(公開日:2025.01.17)

【シリア危機】トルコ・イスタンブールに住む難民と地域の青少年の生計支援・心理社会的支援を開始しました

 
2011年にシリア危機が始まってから、600万人以上が国を追われており、世界最大の難民危機の一つとも言われています。2024年12月8日にダマスカスでの政権交代という大きなニュースが世界を驚かせましたが、暫定政権下での今後のシリア情勢は未だ不透明です。また、長年の紛争による甚大な犠牲は依然として残っており、シリア難民が安心して帰還できる見通しはまだ立っていません。


 シリア国内の避難民キャンプにて

トルコは、世界最大の難民受け入れ国で、2024年9月時点でトルコの難民受け入れ数は300万人を超えています1
昨今の物価上昇や国内の限られた雇用機会、また2023年に発生したトルコ・シリア地震などの影響により、トルコの経済状況はトルコの人たち、難民の双方にとって厳しくなっています。中でも、シリア難民の置かれた状況は深刻で、2023年の調査によると、2022年の一年間で経済状況が悪化したと答えたトルコに住むシリア難民は85%に上り、約90%が毎月必要な出費をまかなったり、世帯の基本的なニーズを満たすことができていないと答えました。また、このような状況に対処するため、多くの世帯が食事の量を減らしたり、借金をしたりしていることが分かっています2


2023年2月に発生した地震の影響を受けた世帯に聞き取りを行う
セーブ・ザ・チルドレンのスタッフ


さらに、同調査では、難民のうち28%が職を見つけることができず、57%が日雇いや短期など、社会的に不安定な仕事をしていることが分かっています。トルコにおいて、シリア難民が就労許可を取るための制度は2016年に採択されましたが、実際の就労許可の発行数は2023年時点で10万件強と、トルコに住むシリア難民の数に比べると非常に少なくなっています3。就労許可の制度は、正規で雇用されているシリア難民にとっては重要なものですが、正規雇用の機会をつかめず非正規で働いている大多数のシリア難民の状況を改善するには至っていません。(※ここでいう非正規とは、職場や企業自体が行政に登録されていない、もしくは法的に有効な雇用契約などを結んでいない、また必ずしも企業や団体と関連のないイレギュラーな日雇い労働なども含まれます。)このような非正規雇用は、シリア危機以前からトルコ国内で存在していたものの、特にシリアの人たちはトルコの人たちに比べて、法的に定められている範囲を超えた長時間労働や低賃金、また過酷な労働環境で働かざるを得ないなど、搾取の対象となっている現状があります。

トルコに住む多くのシリア難民が正規雇用に就けていないこと、また冒頭に述べたトルコの経済状況の悪化の影響もうけて、世帯が経済的困窮の状態に陥ると、それに伴って児童労働が増えるなど教育を継続できない子どもが増えることも懸念されます。このような状況は、今後さらに深刻な構造的貧困を生み出したり、シリア難民がトルコ社会に馴染んでいく上での障壁となる可能性も考えられます。

また、高い失業率や就労機会の減少は、特にトルコに住む難民の青少年の精神的・心理的な健康(ウェルビーイング)にも大きな影響を与えており、多くの青少年が自身の将来や雇用に就いて不安を抱えている状況です。


シリア難民の青少年の就労に関するカウンセリングを行うセーブ・ザ・チルドレンの
スタッフ(右)

こうした状況を受け、セーブ・ザ・チルドレンは、シリア難民をはじめとした難民および、特に生活の厳しいトルコの青少年を対象に、生計向上支援と心理社会的支援を2024年12月1日から開始しました。この事業は、2023年12月1日から2024年10月15日まで実施した事業 の後継事業となります。

事業では、シリア難民をはじめとした難民とトルコの青少年に向けて正規雇用や企業に向けた能力強化研修や個別の雇用支援を行うほか、地域の行政や企業といった、雇用者側への働きかけも行います。地域行政の雇用・生計支援は、難民が対象外であることや、地域の企業も難民雇用に伴う手続きなどを懸念してなかなか難民の雇用に踏み切れないといった現状があります。そのため、雇用者側への働きかけを行うことで、正規雇用に対するハードルが低くなることを目指します。

また、難民やトルコの青少年のウェルビーイング改善を目指して、メンタルヘルスや、職場における多様性、難民の社会への統合などをテーマにした啓発セッションや、自身が抱える心理的な課題や感情について話し合えるグループセッションも行います。これらのセッションの内容は、職場での人間関係や就業環境の改善に役立ち、ウェルビーイングの向上にもつながることが期待されます。


啓発セッションの様子

これらの活動を通して、イスタンブールで脆弱な状況に置かれたシリア難民をはじめとする難民やトルコの青少年の生計向上とウェルビーイングの向上を目指します。

本事業は皆さまからのご寄付と、ジャパン・プラットフォームからのご支援により実施しています。

(海外事業部 清水奈々子)


1https://reliefweb.int/report/turkiye/unhcr-turkiye-fact-sheet-september-2024-0

2https://reliefweb.int/report/turkiye/inter-agency-protection-needs-assessment-round-7-august-2023

3https://www.csgb.gov.tr/istatistikler/calisma-hayati-istatistikleri/resmi-istatistik-programi/calisma-izin-istatistikleri/


 

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