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シリア危機
(公開日:2025.02.10)

【事業完了報告】トルコ:シリア難民と地域の青少年、女性の生計支援および心理社会的支援を実施しました

 
2011年にシリア危機が始まり、14年が経とうとしています。紛争から逃れるため、600万人以上が国を追われ、トルコはそのうち300万人近くを受け入れています1 。2024年12月8日にダマスカスで政権交代が起こりましたが、暫定政権下での今後のシリア情勢は未だ不透明であることや、長年の紛争による莫大な犠牲は依然として残っており、シリア難民が安心して帰還できる見通しはまだ立っていません。また、既にトルコでの生活が長くなり、トルコで生まれ育った子どもを抱える世帯も多く、シリアに自主的に帰国する人たちがどれくらいいるのかは未だ不透明です。

セーブ・ザ・チルドレンでは、2023年12月から2024年10月にかけて、シリア難民をはじめとする難民、地域の青少年や女性を対象とした生計支援および心理社会的支援を実施しました(詳細はこちら)。

事業を開始した当時は、新型コロナウイルスの感染拡大やウクライナ危機の影響による急激な物価高が起こっており、また2023年2月のトルコ・シリア大地震もトルコ経済に大きな打撃を与えました。トルコの経済状況が悪化の一途をたどる中、シリア難民の青少年や女性は、就労のために必要な知識や技術が不足していたり、煩雑な申請手続きや限られた雇用機会、言語の違いなどさまざまな障壁によって、安定した就労機会を得ることが難しい状況でした。このような高い失業率や就労機会の減少は、人々の精神的・心理的な健康(ウェルビーイング)にも影響を及ぼします。

このような状況を受け、セーブ・ザ・チルドレンでは、難民が多く居住するトルコの首都イスタンブールにおいて、シリア難民をはじめとする難民と、特に厳しい状況に置かれたトルコの青少年や女性を対象に、生計向上支援と心理社会的支援を開始しました。

実施にあたっては、まず難民や地域の人からの聞き取り、地域行政や他団体との協力、各種報告書のレビューなどをもとに、地域行政や民間、NGOなどから既に提供されている職業訓練、生計支援、語学クラスなどの情報をマッピングし、活動の参加者が必要とする支援に繋げられるような体制を整備しました。また、インタビューを通して、難民や地域の人が、就業・起業に関してどのようなニーズを抱えているのかを調査しました。

上記のような活動と並行して、生計支援を必要としている難民と地域の青少年・女性を特定し、一人一人に合ったジョブ・カウンセリングを実施しました。カウンセリングには135人が参加し、それぞれ希望するコース(就業コースもしくは起業コース)に参加しました。また、40人の参加者に対して、公的・民間の雇用サービスへの登録支援を実施しました。

ジョブ・カウンセリング終了時の調査では、81%の参加者の就業・起業に関する知識やスキルが向上したことが分かり、実際に11人がカウンセリング終了から平均して10週以内に就業もしくは起業できたと回答しました。

 
ジョブ・カウンセリングの様子


さらに、インタビューで確認されたニーズをもとに、ITリテラシー、セールス・マーケティングスキル、コミュニケーションスキルに関する能力強化研修を実施し、63人が参加しました。研修終了時の調査では、調査対象となった参加者のうち、約89%が研修内容はニーズに沿っていたと回答し、また、全ての裨益者がトレーニングで得た知識やスキルを実際の生活や職場で活用できると回答しました。


ITリテラシー研修の様子


心理社会的支援に関する情報共有セッションでは、67人の参加者を対象に、
●「職場での差別」
●「職場環境における多様性」
●「争いごとの解決方法」
●「就職活動や職場環境におけるストレスへの対処法」
●「起業家としてのマインドセット」

などの内容でセッションを実施しました。また、必要に応じて個別の心理カウンセリングも45人を対象に実施し、ストレスマネジメント、感情のマネジメント方法、またネガティブな感情や希望を失ったときに取れる対処方法やスキルなどのトピックについて扱いました。

このような活動を行った結果、多くの裨益者がセッションで得た知識やスキルを実際の生活や職場で活用できると回答し、また個別の心理カウンセリングの参加者においては、参加者全員の心理社会的ウェルビーイングの改善が確認されました。
 

心理社会的支援に関する情報共有セッションの様子


この活動に参加した、シリア難民のハミッドさん(28歳)は、イスタンブールでITスキルを活かしてフリーランサーとして働いていました。イスタンブールに住んで9年になり、自身のスキルを活かしてITの会社を設立したいと考えていましたが、起業するにあたっての支援や研修を受けたことがなく、顧客との中長期的な関係構築が苦手だったりと、さまざまな課題に直面していました。また、フリーランサーとして働いて生計を立てていることに伴うプレッシャーやストレスを感じていました。
 

ハミッドさん(28歳)


ハミッドさんは、この事業でジョブ・カウンセリングの起業コースに参加し、また心理社会的支援に関する情報共有セッションや個別支援にも参加しました。ジョブ・カウンセリングでは、ハミッドさんが考える事業のコンセプトや、改善が必要な分野が明確化され、また顧客との効果的なコミュニケーションについても助言を受けることができました。さらに、心理社会的支援に関する支援では、起業に当たって直面するだろうさまざまな課題やストレスに対処するためのスキルを学ぶことができました。


 起業コースのカウンセリングを受けるハミッドさん(写真奥)


全ての活動を修了し、ハミッドさんは「自分の起業までのロードマップをより明確化することができました。事業を成功させるために改善すべきこともよくわかりました。」と語ります。また、顧客とのコミュニケーションについても、セッションで学んだことを実践することで既に違いを感じているといいます。今後は、研修やセッションで学んだことを生かし、イスタンブールで事務所を構えることを目標にしています。

ハミッドさんのように、事業開始時には、就業や起業について希望を持てない参加者がほとんどでしたが、さまざまなセッションや研修を通して知識やスキルを身に着けるうちに、より積極的に自ら就業・起業機会を模索するなど、多くの参加者にポジティブな変化が見られました。また、活動の参加者がいろいろな知識やスキルを身に着けて実際に行動に移していく中で、参加者の家族や周囲の人々にも影響を与えて、同じように就業・起業の機会を探し始めたという声も聞かれました。このように、対象となった参加者の枠を超えて、事業のポジティブなインパクトが広がっていることが分かりました。

昨今のシリア情勢の急激な変化もあり、シリア難民を取り巻く環境はなかなか安定しませんが、活動を通して彼らが将来に明るい展望を描くことができるように、これからも支援を続けていきます。2024年12月からは本事業の後継事業(詳細はこちら)を実施しています。

本事業は皆様からのご寄付と、ジャパン・プラットフォームの助成を受けて実施しました。引き続き、温かいご支援のほどよろしくお願いいたします。


(海外事業部 清水奈々子)

1 UNHCR, Situation Syria Regional RefugeeResponse 2025128日閲覧


 

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