シリア危機(公開日:2026.08.26)
【シリア危機】ダマスカス郊外で実施した子どもの保護支援事業が完了しました
セーブ・ザ・チルドレンは、2025年9月から2026年4月にかけて、シリア・ダマスカス郊外県ダラヤ郡において、「ダマスカス郊外における子どもの保護支援事業」を実施しました。
長期化する子どもたちへの影響
シリアでは、2011年から続く危機に加え、2024年12月の急激な政治情勢の変化を経て、今なお多くの人々が厳しい生活を余儀なくされています。国連によると、2026年6月時点で、1,560万人が人道支援を必要としており、そのうち720万人を子どもが占めています[1]。政変後は、周辺国などに避難していた人々の帰還が進んでいる一方[2]、生活に欠かせないインフラや生計手段の回復は十分に進んでおらず、社会・経済を取り巻く環境は依然として深刻です。
長引く危機は、子どもたちの安全や心身にも大きな影響を及ぼしています。暴力や児童婚、児童労働、性的搾取などの危険にさらされる子ども、長年にわたる紛争の経験によって心理的ストレスを抱える子どもに加え、爆発性戦争残存物(Explosive Remnants ofWar:ERW)の犠牲となる子どもも少なくありません。[3]
子どもたちが直面するこれらの課題に対応するため、セーブ・ザ・チルドレンでは、特に脆弱な状態に置かれた子どもが多く暮らすダマスカス郊外県ダラヤ郡において、暴力や搾取等のリスクにさらされている子どもや心理的ストレスを抱える子どもが適切な支援を受けられるよう、事業を実施しました。(事業開始時のブログはこちら)
ダラヤ郡は、これまで反政府勢力の拠点として、激しい攻撃が続いてきた地域です。また、シリアでもっとも多くの帰還民を受け入れているダマスカス郊外の農村部に位置し、イドリブ県に次いで全国に2番目に多く国内避難民を受け入れている[4]、支援ニーズが高い地域です。このような背景から、子どもの保護や精神保健・心理社会的支援(MHPSS)が必要とされる一方で、専門的なサービスは十分に行き届いていない状況でした。
そこで本事業では、支援を必要とする子どもたちとその家族に対し、一人ひとりの状況に応じた個別支援や継続的なフォローアップを行うと同時に、養育者が子どもの基本的なニーズをより適切に満たせるよう現金支援を実施しました。
また、心理社会的支援、青少年を対象としたライフスキル支援、地域での啓発活動なども合わせて行いました。
対象となる子どもについては、地域や学校、現地提携団体などからの紹介に加え、支援スタッフが子ども一人ひとりの状況を確認し、特に子どもの保護支援の必要性が高く、サービスへのアクセスが困難な子どもとその家族を優先して支援しました。
一人ひとりの子どもに寄り添った支援
事業では、児童労働や暴力、家族との離散など、さまざまな困難を抱える136人の子ども(男子66人、女子70人)それぞれの状況に応じた個別支援を行い、当初計画の120人を上回る子どもたちに支援を届けることができました。
支援にあたっては、子どもや家庭が抱える課題を個別に確認したうえで、それぞれに必要な支援計画を立てました。そして、カウンセリングや継続的な見守り、必要に応じて専門的な支援につなぐなど、個々の状況やニーズに応じたサポートを行いました。その結果、支援を受けた子どもの91%で状況の改善が確認されました。
さらに、経済的な困難によって子どもがより危険な状況に置かれるおそれがあるなど、個別支援を受けた子どもの家庭のうち特に支援の必要性が高い93世帯に現金支援を行いました。現金支援を個別支援と組み合わせることで、子どもの基本的なニーズを満たすとともに、経済的な困窮を背景とし、子どもが児童労働や児童婚、搾取などの危険にさらされるリスクを軽減することを目指しました。
アートを通じて、子どもたちが安心して自分を表現できる場を
心理的ストレスを抱える子どもたちに対しては、HEART(Healing and Education Through the Arts)プログラムを実施し、403人(男子184人、女子219人)が参加しました。
HEARTは、アートなどの創作活動を通じて、子どもたちが自分の感情や経験を安全な環境で表現し、ストレスに対処する力やウェルビーイングを高めることを目指す心理社会的支援プログラムです。活動の事前・事後評価では、参加した子どもたちの94%で、心理的ウェルビーイングが向上したことが示されました。
青少年を対象としたライフスキルセッションには、当初計画の400人を上回る413人(男子158人、女子255人)が参加しました。
このセッションでは、コミュニケーション、問題解決、安全な行動など、日々の生活のなかで直面する課題に対応するために必要な知識やスキルを学びました。事前・事後評価からは、参加した青少年の85%で、ウェルビーイングやレジリエンスの向上が確認されています。
地域全体で子どもを守るために
子どもを守るためには、子ども自身への支援だけでは十分ではありません。養育者や地域住民が子どもの保護に関する知識を持ち、身近なリスクに気づき、適切に対応できる環境をつくることも重要です。
そこで、子ども621人と養育者395人の計1,016人を対象に、子どもの保護、ポジティブ・ペアレンティング、児童労働、家庭内暴力、戦争残存爆発物(ERW)などをテーマとした啓発セッションを実施しました。
また、青少年自身が主体となる地域での取り組みも支援しました。安全で子どもにやさしい学校・地域環境づくりや、障害のある子どもも参加しやすい環境づくりなどを通じ、青少年が単に支援を受ける側ではなく、自分たちの地域をより良くする担い手として参加する機会をつくりました。こうした活動は、青少年の責任感や主体性だけでなく、地域住民の参加や社会的なつながりを促進することにもつながりました。
活動を通じて改めて確認されたのは、子ども一人ひとりへの個別支援と、家庭や地域全体への働きかけを組み合わせることの重要性です。一人ひとりの状況に応じた個別支援や現金支援だけでなく、心理社会的支援、青少年の主体的な参加、養育者や地域住民への啓発を組み合わせることで、子ども個人の保護の強化にとどまらず、子どもを取り巻く環境そのものをより安全なものにしていくことを目指しました。
一方、ダラヤ郡では、より専門的な支援を必要とする子どもたちに十分に対応できるよう、子どもの保護支援や精神保健・心理社会的支援(MHPSS)をさらに充実させていく必要があります。また、厳しい経済状況などを背景に、子どもたちが新たな困難に直面するケースも確認されています。支援が必要な子どもを適切な専門機関につなぐ仕組みを強化するとともに、増え続ける支援ニーズに応えていくための資金を確保することも必要不可欠となっています。
セーブ・ザ・チルドレンは、今後も地域の人々や学校、関係機関などと連携しながら、最も脆弱な状況に置かれた子どもたちが必要な支援につながり、安心・安全に成長できる環境づくりに取り組んでいきます。
本事業は、ジャパン・プラットフォームからのご支援と、個人・法人の多くの皆さまのご寄付により実施しました。
(海外事業部 シリア事業担当)
[1]Syrian Arab Republic Humanitarian Situation Report No. 2 (Mid-Year), 30 June 2026
[2] UNHCRの2025年のレポートによれば、2024年12月〜2025年3月の間に、100万人以上が帰還した。[3]Explosive ordnance contamination remains the main safety risk for Syrians – Syria MA AoR Situation Update No.3 (April)



