日本/東日本大震災/福島(公開日:2013.12.26)
【福島:放射能リテラシー(1)】〜ワークショップが始まりました〜(2013.12.26)
<子どもが放射能について学び自ら判断できる力を養う>
「いつ放射線の影響が出なくなるの?」
「食べ物はもう大丈夫なの?」
「除染した土はどう処理されるの?」
「どのぐらい被ばくしたら、危険なの?」
「将来『福島の人』って避けられたりすることはある?」
こんな質問を子どもからされたら、皆さんはどのように答えますか?
実はこれらの質問や疑問は、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン(SCJ)が、福島市の中学校で行った放射能について学ぶワークショップで、参加した子どもたちから実際に出てきたものです。中には、今すぐ答えや解決策が出ない質問もあります。
そのような状況でも、〜おとなたちが、放射能についての子どもたちの考えや疑問に耳を傾け一緒に考えていくこと、〜子どもたちが、他の子どもたちの意見や自らの気づきから学び、放射能について自ら判断できる力を養うこと、この2点はとても大切なことだと私たちは考えています。
このような意識のもと私たちSCJは、子どもたちが放射能について学び、情報を読み解き、自ら判断していく力を身につけていくことを目指し、「放射能リテラシー」というプロジェクトを始めました。
プロジェクトの主な活動は、子どもたちが放射能について学ぶワークショップとそのための教材を作り、実際にワークショップを開催していくことです。2013年10月には、この活動の協働団体であるNPO法人市民科学研究室(市民研)とともに、子ども向けワークショップとその教材作りが始まりました。
そして11月26日に、試作教材を使っての第1回ワークショップを福島市内の中学校で開催しました。今回は、その様子をご紹介します。
<放射能について、みんなの意見を出し合う>
ワークショップ参加者は、33人の中学3年生。ワークショップの進行役は、市民研の上田昌文さんです。参加した生徒は原発事故当時は小学校6年生、震災と原発事故の混乱で小学校の卒業式は中止となり、中学入学後も、外での運動ができないなど大変な思いをしてきました。
ワークショップでは最初に、放射能について『体験したこと、見聞きしたこと』『気になっていること、疑問に思うこと、不安に思うこと、知りたいこと』をカードに書きだしました。「こういった知識が子どもに必要だ」と知識を一方的に伝えるのではなく、子ども達の意見をまず聞いて、子どもたちが知りたいと思っていることを基盤に、ワークショップが進んでいきます。
『体験したこと、見聞きしたこと』では、
「みんな避難して多くの犬が捨てられ、かわいそうだった」
「荒川の水をもらいに行った」
「WBC(ホールボィーカウンター)で被ばく量の検査をした」
「校庭の土をかえた」
「アルファ、ベータ、ガンマなどの放射線がある」
「他県の人から福島の食べ物は大丈夫なのか聞かれた」
「放射線は医学にも応用されている」
「何が正確な情報か分からなかった」
「放射能を多く浴びてしまうと将来病気になりやすい」
など多くの体験談や、測定や原発事故直後の対応について、昨年から始まった放射線教育の授業で習った放射線の基本的な事柄なども挙げられました。
『気になっていること、疑問に思うこと、不安に思うこと、知りたいこと』では、
「いつになったら避難区域に入れるようになるのか」
「除染した土はどこに集められるのか、どう処理されるのか」
「原発は将来どうなるのか」
「内部被ばくをおさえられる食べ物」
「マスクやぼうしをかぶる意味はあるのか」
といった声が出されました。
<放射能への対策を考える>
放射能への意見を出し合った後、空気中や林地、農地、市街地など、私たちが暮らす環境の中で放射能がどのように広がっているかを示した図を見ながら、子どもたちは、これから自分たちや福島を守っていくための対策チームとして、対策案を考えました。みんなで悩みながらも、担任の先生も交えて「ここの除染は?」、「この方法は?」といった具合に話し合いが進み、「林地、農地での測定」、「検査された食品を食べる」など色々なアイデアが出てきました。
最後に、今日の晩ごはんの食材を選ぶ「買い物ゲーム」をしました。様々な種類の野菜、肉、魚、くだもの、牛乳などの写真の中から、子どもたちは、晩ごはんで食べたい10品目を選んでいきます。そのあと、放射能物質の検査結果が公開されているウェブサイトの情報を参考に、自分が選んだ食材にどのぐらい放射性物質が含まれているのか、みんなで一緒に確認しました。放射線物質が検出されている食品や、その理由など、上田さんの丁寧な説明に、子どもたちは興味深く耳を傾けていました。
<ワークショップについての子どもの感想>
「1 食のメニューを10 種類考えるというのが、具体的に放射線量の数値が出て楽しくできました。また、他の食材はどうなのかと興味を持ちました。」
「班での活動が活発でよかった。新しく自分たちができることなどの発見ができてよかったし、これから自分がやっていきたいことが明確になってとてもよかったです。」
「本名でなく、あだ名で呼び合うことにより、先生というより、友達という感覚で話せたと思います。世界では原発に対してどんなことを思っているのか(震災当時と比べて)知りたいと思いました。」
「深く考える機会というのはあまりなかったので、この機会がありとてもよかった。福島にいる自分でさえ、こんなに知らないこと、不安なことがあるのだから、他の人々にしっかりとメディアは伝えていくべきだと思う。視聴者にもメディアリテラシーを持ってほしい。」
「放射能とは環境だけでなく人体や食べ物などの幅広いところで影響を及ぼしているということが改めて分かった。改善策が思うように浮かばなかったりしたのは少し悔しかった。今後、将来につながる改善策ができたらいいなと思った。また、少しでも改善に近づけるように自分ができることがあったらすすんでしていきたい。」
SCJでは、今回のワークショップの成果や課題を振り返り、さっそく次回のワークショップの準備を進めています。次の放射能リテラシーワークショップ報告をお楽しみに!
(報告:会津若松事務所 長島 千野)