日本/東日本大震災/福島(公開日:2015.12.01)
【福島:放射能リテラシー(15)】「意外と放射能と向き合う子どもの姿勢がたくましかった」〜おとな向け放射能リテラシーワークショップの報告〜
セーブ・ザ・チルドレン(以下、SCJ)が福島の子どもたち向けに実施している放射能リテラシーワークショップ。子どもたちが放射能のことを学び、原発事故後に変わってしまった自分たちの生活環境について気兼ねなく話す機会を作るには、そんな子どもたちを支えるおとなたちも、また放射能についての基本的知識を身につけ、子どもたちの不安を受け止めていくことが大切です。
そこで、SCJは、福島の子どもたちを支援する方々を対象に、今年7月上旬におとな向け放射能リテラシーワークショップを開催しました。大変遅いご報告になってしまいますが、ぜひお読みください。
このワークショップは、「フクシマススム プロジェクト 福島こども支援NPO助成 助成先・学びあいフォーラム2015」のプログラムとして開催され、福島県内外で福島の子どもたちを支援するNPO団体のみなさん、30人が参加されました。
今回のワークショップは、NPO法人市民科学研究室の上田昌文さんの協力のもと、以下のような構成で進めました。本ブログでは、特に1と4についてご紹介します。
| プログラム内容 |
1 | 放射能対策の好事例や、対応に苦慮していること、疑問の共有 |
2 | 放射能の基礎知識と、各グループから出た疑問について解説 |
3 | 子ども向けワークショップの疑似体験? ・食材ゲーム ・福島県産の食品についての説明 |
4 | 子ども向けワークショップの疑似体験? ・マンガを用いて、それに対する意見の共有 ・子ども向けワークショップの実践例と、同じテーマで話し合いをした子どもたちの意見を紹介 |
5 | 子ども向け放射能リテラシーワークショップの紹介 アンケート結果、子どもの声の紹介 |
プログラム1:放射能対策の好事例や、対応に苦慮していること、疑問の共有
まずは、6つのグループに分かれて、各団体で取り組んでいる放射能対策や、困っていること、放射能についての疑問を共有しました。グループは、福島県だけでなく、全国で福島の子どもたちを支える活動する団体の皆さんから構成されていて、活発な情報共有や意見交換が行われていました。県外に避難して子育てをしている人は、放射能についてどんな悩みを抱えているのか、県内で生活する家族はどんなことに気をつけて生活しているのか、といった話題を交えながら、放射能を取り巻く課題や疑問をカードに書いていきました。
団体の活動内容は多岐に渡りましたが、どのグループもお互いの取り組みに興味津々です
食べ物、除染、外遊び、放射線教育の現状など…知りたいことは実に様々です
次に、グループで出た疑問を発表してもらい、全体で共有しました。そこでは、「将来、子どもが不利益をこうむるのでは?」、「子どもへの長期的影響は?」、「自然の中での活動は安全なの?」、「除染の効果ってどのくらい…?」といった疑問があげられました。
続いて、プログラム2の時間に、上田さんが、これらの疑問について、放射能の基礎知識にも触れながら、ひとつひとつ丁寧に解説していきます。上田さんのお話の合間にも、会場からさらに質問が出るほどで、参加者の関心の高さが伺えました。
プログラム4:子ども向けワークショップの疑似体験と、子どもたちの意見の紹介
続いてのワークは、参加者の皆さんに子ども向けワークショップで行った2つのワークを実際に体験してもらおうというもの。ここでは、そのうちの、「メディアの伝え方について考えるワーク」のワークの様子をお伝えします。
まずは、子ども向けワークショップの時と同じように、参加者は、原発事故後の福島をテーマにしたマンガの一場面を読んで、登場人物が語る福島の現状についての意見について、正しいのか、正しくないのか、そう判断する理由について、グループ内で話し合っていきます。
参加者の考えは分かれます。判断した根拠も様々です。そこには、放射能を取り巻く問題についての認識や考え方、知識や経験、置かれている立場の違いが見え隠れすると同時に、参加者それぞれが抱えている課題が実に多様で複雑であることもわかりました。
意見交換の後には、実際に子どもたちが書いた意見や気持ちを紹介していきました。おとなと同じように「正しい」、「正しいとは思わない」と分かれている子どもたちの意見…なぜそのように判断したのか、はっきりと書かれた理由…子どもたちのはっきりとした意見に、おとなたちからは、大きなため息が漏れ、驚きの声があがりました。
アンケート結果より
ワークショップ後にご協力いただいたアンケートの結果では、ワークショップの内容について85%の方から「とてもよかった」、「まあまあよかった」という回答をいただきました。また自由記述では、以下のような感想が寄せられました。
• 子ども向け放射能リテラシーワークショップの「子どもの声」は良かった。意外と放射能と向き合う子どもの姿勢がたくましかった。
• 中学生の考え、意見も見ることができよかったです。意見がありましたように、おとなも子どもも声を出して話せない時も、福島ではあります。
• 改めて勉強になりました。大人も一緒に考えることで新たな気づきがありました。
• まだまだ長引く避難者の不安解消に少しでも役立てたい。
• 私自身初めての参加でしたが、放射能についての不安感のみが先走っていたことを痛感しました。食材えらびゲームはとても身近でわかりやすく、ためになりました。
今回、初めて開催したおとな向けワークショップ。同じ地域で生活する学校の子どもたちを対象にしたワークショップと異なり、福島県内外の支援団体向けのワークショップであったことから、必ずしもすべての参加者が求めるプログラムにならなかった面もあり、これは今度の改善に活かしていきたいと思っています。とはいえ、今回のワークショップでの大きな成果のひとつは、子どもたちは、おとなが考えている以上に、実は放射能の問題について自分の意見を持っていて、それを発信していく力があるということを参加された皆さんが、気づかれたということではないでしょうか。
おとなと同じように、子どもたちも、放射能に対して不安や疑問を抱き、放射能や自分の体、福島の将来のことについて知りたいと思っています。そんな子どもたちを支えていくためにも、おとなと子どもが一緒に問題について話したり、考えたりする場を作っていくことが大切だと考えています。今回のおとな向けワークショップが、そうした場づくりのきっかけになることを願っています。
(福島事務所 佐々木未央)
<放射能リテラシーワークショップについて>
セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンは、福島プログラムの一環として、2013年9月から放射能リテラシープロジェクトを始めました。このプロジェクトは、福島の子どもたちが、放射線について学び、さまざまな情報や報道を読み解き、自分なりに判断する力を身につけることを目的としています。昨年11月から試作版ワークショップが始まり、2015年7月現在、福島県福島市といわき市、双葉町、楢葉町の中学校、いわき市と郡山市の放課後児童クラブで実施しています。