日本/東日本大震災/福島(公開日:2017.06.27)
【福島:放射能リテラシー(21)】いわき市の中学校で放射能リテラシーワークショップを実施
セーブ・ザ・チルドレンは、子どもが放射能について学び、話し合い、自分なりに考える力を養うことを目的に、2013年から福島県内の子どもを対象に放射能リテラシーワークショップを実施しています。
今回ワークショップを実施したいわき市の中学校は2014年からこのワークショップを継続して実施しており、2016年度で3回目。今回は2016年4月にセーブ・ザ・チルドレンが発行した放射能リテラシーハンドブック『みらいへのとびら』を活用し、市民科学研究室の上田昌文さんやセーブ・ザ・チルドレン職員もサポート役として参加のもと、初めて中学校の先生方がファシリテーターとしてワークショップを実施しました。
今回のワークショップは2016年12月の1カ月にわたって、中学1年生には3回、また前年度にひととおりワークなどを経験した中学2年生には2回にわたって、授業の中で行いました。それぞれの授業の概要は以下のとおりです。
子どもたちの変化
今回のワークショップに参加した子どもたちの反応はどうだったのでしょう?子どもたちの変化を測る二つの指標、「放射能について学ぶ意義」、及び「家族や友だちと放射能のことについて話しあう意欲」いずれにおいても、ワークショップ参加前より参加後のほうが上がっています。
特に後者の指標においての子どもの変化は著しく、ワーク実施前は家族や友だちと放射能のことをもっと自由に話したいと思う子(17%)に対して思わないと回答した子(44%)のほうが多かったのに対し、ワーク実施後はもっと自由に話したいと思っている子(40%)のほうが話したくない子(26%)より増え、結果が逆転しています。
実際にワークショップの現場に立つと、子どもたちの変化を間近で実感できます。事前アンケートの結果では、放射能問題についてそもそも積極的に話したいと思っている子どもは少数でした。3.11から6年近くが経っているからか、「いまさら話してもしかたないから」(中学2年生)、「別に話してもなんのとくにもならないから」(中学1年生)など、話すことのメリットがみえない子どもたちの発言が目立っていました。
でも子どもたちは、丁寧に知識を学習する機会が与えられ、安心して発言できる環境が整えられれば、少しのきっかけで自分の心のうちを口にし始めます。そして、考えを仲間と共有し、共鳴しあったり、または異なる視点にふれることで、個々の意見が醸成され、自ら発信しようという意欲につながります。
2年生は2回目の授業のとき、外国人留学生からの質問に回答するというワークに取り組みました。「将来、放射能の健康への影響を怖いと思いますか」「進路は県外の大学を希望しますか?就職先は?」「復興に自主的に関わりたいと思いますか?」等様々な観点からの質問が投げかけられる中、熱心にグループディスカッションを繰り返す生徒たち。グループで一回意見をまとめ発表したあと、先生方のコメントを受け、もう一度発表する内容を練り直します。
出てきた意見は、「放射線の影響が怖いという人と怖くないという人がいる」、「福島が好きだから、自分の育った場所で暮らしたい」、「これから福島の復興に関われるように頑張る」など。留学生の質問と、それに対する中学生の回答はこちらからご覧ください。
子どものレジリエンス(回復する力)を引き出すために
2017年3月に、東日本大震災から6年をむかえました。原発事故や放射能にかかわる問題に対しての関心の低下は、福島県内でもみられ、時の流れとともに風化していくことが懸念されています。
もう一方で福島の子どもたちは、この問題において最も影響を受けた当事者であり、今後長期的に放射能の問題と向き合っていくことになります。子どもたちは原発事故で何が起きたかの説明を受け、放射能の問題によって今後生きる上で何がリスクとなるのか、ならないのか、なったときはどう対処していくべきかを考えるための機会が継続して与えられるべきだと、セーブ・ザ・チルドレンは考えます。
難解なことだからこそ、そして答えのない問題だからこそ、子どもたちの目線にたって一緒に話し合う機会を設け、ぜひ子どもの声に耳を傾けてほしい。そのきっかけの一つとなるのが、この放射能リテラシーワークショップです。
今回も参加した大人の私たちが子どもたちのレジリエンスに驚かされ、子どもが地域の一員として大人の大きな力になってくれることを予感させられるワークショップとなりました。
(クラスメイトの発表に耳を傾ける生徒たち。)
(報告:東京事務所 佐々木)
<放射能リテラシー事業について>
セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンは、福島プログラムの一環として、2013年9月から放射能リテラシープロジェクトを始めました。このプロジェクトは、福島の子どもたちが、放射能について学び、さまざまな情報や報道を読み解き、自分なりに判断する力を身につけることを目的としています。
2014年度から福島県内の中学校や放課後児童クラブで実施したワークショップの実績をもとに、2016年4月に子ども向け放射能リテラシーハンドブック『みらいへのとびら』を発行。2016年度に続き、2017年度も福島市内、いわき市内の公立中学校と、楢葉中、双葉中の生徒向けに配布をしました。