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日本/東日本大震災/福島
(公開日:2015.09.01)

【福島:放射能リテラシー(13)】 「楢葉に帰るか帰らないかを家族でちゃんと話し合おうと思った」 〜避難指示解除が決まった楢葉町の子どもたちの気持ち〜

 

7月7日、福島県の新聞は、双葉郡楢葉町(ならはまち)が「9月5日に避難指示解除」されるというニュースを一面トップで伝えました。これは、原発事故後、ずっと全町避難が続いていた楢葉町の人たちが、町に帰れることが政府により決定されたことを意味します。各地で避難生活を送る楢葉の子どもたちは、この決定をどのように受け止めたのでしょうか。

セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンが、福島の子どもが放射能について学び自ら判断できる力を養うために、2013年11 月より実施している「放射能リテラシーワークショップ」。今年6月から7月にかけて、NPO法人市民科学研究室NPO法人日本イラク医療支援ネットワーク(JIM-NET)と協力しながら、福島県内の中学校でワークショップを行いました。今回のブログでは、楢葉町立楢葉中学校2年生19人とともに、「楢葉町への帰還」をテーマにしたワークをご紹介します。

楢葉町ってどんなところ?
楢葉町は、大熊町や富岡町と同じく双葉郡の町のひとつ。海が一望できる天神岬は、原発事故前は、楢葉町の誰もが知る憩いの場でした。現在、約7,400人の町民が福島県内外で避難生活を続けており、このうち、18才未満の子どもは、1,077人。905人が県内で、172人が県外で新たな生活を送っています (2015年4月1日現在)。



「楢葉に帰る?その気持ち」
楢葉町の避難指示解除の決定が発表されたのは、7月6日。そして、ワークショップは、その3日後に行われました。ワークの始めに、「楢葉町の避難指示解除について家族で話し合った人は?」と声をかけると、半分以上の子どもたちが手を挙げました。自分の家族の帰還について話すのを嫌がる子どもがいる可能性も考えられたため、今回のワークは、楢葉町に帰る家族と帰らない家族のふたつの寸劇を見て、第三者としてその内容を話し合うという設定にしました。

まずは、楢葉町に帰ることを決めた家族の話を劇にしたもの。お父さんと子どもの会話です。「今、離れて暮らしているおじいちゃん、おばあちゃんも帰りたいって言ってるし、一緒に帰ろう。学校も近くなるし」と喜ぶお父さん。一方の子どもは「また学校かわるのかぁ、お父さんやお兄ちゃんは会社が近くなるからいいけど。。。僕も妹も避難してから一度も帰ってないのに。本当に大丈夫なのかなぁ」と楢葉に帰ることを素直には喜べない様子です。


「演技がうまい!」と生徒からも絶賛だったお父さん役の楢葉中学校の先生(右)

もうひとつは、避難して住み慣れてきた土地で今の生活を続けることを決めた家族の話。お母さんと子どものやりとりです。子どもは、今の学校で友だちもでき、すっかり今の生活になじんでいますが、どの友だちが楢葉に帰るのかちょっと気になっています。「将来、ぼくが双葉郡の他の町で暮らして、楢葉に帰らなかったら、友だちに地元を捨てたって思われちゃうかな」と少しさびしそう。そんな子どもにお母さんは「無理に帰らなくてもいいんだから。やりたいことをやりなさい」と励まします。

劇を見終わると、グループごとにどちらかの劇を選び、親子の会話についてどう感じたかを青いカードに、劇中の子どもにどんな助言をするかを黄色いカードに書き出しました。

        
            感想、助言をカードに書き出し、関係のあるカードをまとめていきます。

帰ることにした家族について話し合ったのは、4グループのうち、ひとつ。「子どもが帰りたくなさそうだったね」「家族でもっと話し合ったほうがいいよね」といった意見が出ました。また、「帰らない友だちとなかなか会えないのは嫌だ」「友だちに帰るか帰らないか聞いてみれば?」「メールやラインでやりとりすればいいんじゃない?」というような感想や提案が挙がりました。




一方、帰還しない家族について話し合った3つのグル―プでは、子どもの将来を思うお母さんに共感しながらも、楢葉が気になる子どもの立場から、楢葉に帰る可能性についていくつかの提案が上がりました。「一度帰ってみて、暮らせるかどうか決めてみたら?」「友だちの意見を聞いて、帰るかどうか決めるのもありだと思う」子どもたちからどんどん意見が出てきました。




「楢葉に帰るか帰らないかとかそういうので意見を言い合えて心がスッキリした。もう少しそのはなしをしてみたい。」
「家族の話し合いを聞いて、自分も親と話してみよーと思いました。」
「楢葉に帰るか帰らないかを家族でちゃんと話し合おうと思った。」

これらは、ワークショップが終わった後、子どもたちがアンケートに書いた感想です。感想にもあるように、きっと、子どもたちは、劇中の子どもに自分の立場を重ね合わせながら、話し合っていたことでしょう。

今回のワークで一番印象的だったのは、参加した生徒の多くにとって、帰還にあたって一番気になるのは、友だちと一緒にいられるかどうかと考えていることでした。子どもの権利条約の観点では、子どもに関わることは、子どもの最善の利益を考えて決めなければなりません。町に帰るかどうかは、もちろん子どもの意見だけで決めることはできません。ですが、子どもの声に耳を傾け、その上で、子どもにとって何が一番よいのかを考える過程がとても大切だということを、参加したおとなたちも、改めて学んだワークショップだったと思います。

 (報告:福島事務所 五十嵐和代)


<放射能リテラシーワークショップについて>
セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンは、福島プログラムの一環として、2013年9月から放射能リテラシープロジェクトを始めました。このプロジェクトは、福島の子どもたちが、放射能について学び、さまざまな情報や報道を読み解き、自分なりに判断する力を身につけることを目的としています。昨年11月から試作版ワークショップが始まり、2015年7月現在、福島県福島市といわき市、双葉町、楢葉町の中学校、いわき市と郡山市の放課後児童クラブで実施しています。


 

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