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〜 食べ物について考えよう:家族の食べ物相談 〜

日本/東日本大震災/福島
(公開日:2016.01.15)

【福島:放射能リテラシー(16)】「放射能も気になるけど、みんなと同じ給食がいいという気持ちもわかるなぁ」
〜 食べ物について考えよう:家族の食べ物相談 〜

 

おじいちゃんが作った野菜、ちょっと心配だけど、「食べない」って言うのはかわいそう。お母さんはお弁当を作ってくれるけど、私はみんなと同じ給食がいいな。おいしい野菜や果物を作っているのにお客さんがすっかり減ってしまってお父さんがかわいそう。漁業を続けたいお父さんに反対するお兄ちゃん、ぼくはどうすればいいかな。生産者、消費者として、放射能と食の安全性について、いろいろな立場にある家族の中で、子どもたちはどんな悩みを持っているのでしょうか。

セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンが、NPO法人市民科学研究室の上田昌文(あきふみ)さんと共に、福島県の子どもたちを対象に行っている放射能リテラシーワークショップでは、福島第一原子力発電所の事故後に生まれた放射能の影響に関係して、自分たちの周りで起こっている社会的な問題について知り、話し合う機会を作っています。

2015年9月から12月にかけては、福島県いわき市立江名中学校で1、2、3年生が学年、学級ごとのワークショップに参加しました。今回と次回のブログでは、江名中学校の子どもたちが取り組んだワークをご紹介します。




がんばって発表します!江名中学校1年生のクラスでのワークショップの様子

ワーク:家族の食べ物相談
このワークは、「4人の子どもからの家族の悩み相談」という形で、放射能に関連しての食べ物の安全性についていろいろな意見があること、生産者の大変な状況や困難を打開しようとする取り組み、消費者としての不安な気持ちを知り、自分なりの意見を持つことを目的としています。

4人の子どもたちの相談とはどんなことでしょうか(詳しい相談内容はこちら)。

ハルヤさん:おじいちゃんが家の畑で野菜を作ってくれますが、放射能のことがちょっと心配。でもおじいちゃんに「食べないよ」と言うのもかわいそう。どうしたらいいかな。
ナツミさん:家で野菜や果物を作っています。原発事故の後、たくさんいたお客さんもものすごく減っちゃいました。お父さんたちは放射線量を下げる努力をしてがんばっているけれど、お客さんの数は減ったまま。お父さんがかわいそう。私にできることはあるかな。
アキコさん:私のお母さんは食べ物への放射能の影響をとても心配しています。給食の代わりにお弁当を作ってくれるけど、クラスの友だちと違うのも嫌だし、できればもうお弁当はやめたいんです。お母さんにどうやって言えばいいかな、、、。
フユヒコさん:ぼくの家は、おじいちゃんの代から続く漁師です。原発事故で漁業ができなくなっちゃったけど、試験操業が始まってお父さんもうれしそう。でも兄は「未来がない」って、父と大ゲンカになりました。家の雰囲気は最悪です。どうしたらいいだろう。

ワークショップでは、この4人の悩みごとが紹介され、そのあと、それぞれの悩みについてグループごとに、自分が感じたことをカードに書き出すことから始まります。




カードに自分の考えを書いていきます。江名中学校2年生のクラスでのワークショップの様子


さぁ、どんなカードが出たでしょうか?

ハルヤさんについては、多くの参加者が「除染も、測定もしているから、大丈夫だと思う」と感じているようですが、心配するお母さんの気持ちに共感する子どももいました。アキコさんの悩みついては、「お母さんの気持ちはわかるけど、みんなと違うのは嫌だ」という感想が多くありましたが、ハルヤくんの例と同じように「お母さんの気持ちもわかる」「みんなと違うお弁当を食べてもいいと思う」という意見もありました。


一方、生産者である家族を持つナツミさんやフユヒコさんの悩みには、「かわいそう」と感じた子どもたちが大勢いました。また、フユヒコさんについては、「お父さんとお兄さんが仲直りしてほしい」「お父さんに文句なんかいったらだめ」「将来のことを考えるとお兄さんの考えも正しい」といったカードが出ました。参加した子どもたちの中には、農業や漁業にたずさわる自分の家族の経験と重ね合わせて、子どもたちの心配に共感したり、家業の大変な状況を思い出したりして、カードに書く参加者もいました。




グループごとに発表しました。江名中学校3年生のクラスでのワークショップの様子


ひと通りカードが出たら、今度は、自分がその子どもの立場だったら、どんなことをするかとカードに書きます。他人事ととらえずに自分だったらどうするかという視点を持ちながら考えていきます。

ハルヤさんには、「自分でもインターネットなどで調べて、お母さんに教えてあげる」「自分が大丈夫だと思った野菜だけ食べる」「近くの測定所で測って、低かったら食べて、高かったら、『ありがとう、でも、ごめん』と言って食べない」といった意見が出ました。アキコさんには、「正直にお母さんに自分の気持ちを伝えたほうがいい」という提案と、「お母さんの気持ちも聞いたほうがいい」というお母さんの気持ちを思いやるカードが出ました。



ハルヤさんの悩みについて感じたこと、「こうしたら?」という提案カードの一部


アキコさんの悩みについて感じたことや、「こうしたら?」という提案カードの一部

家族が農業にたずさわるナツミさんには、「インターネットなどで数値を公表する」「まずは近所の人たちに売る」「食材を使ったレシピをホームページで紹介する」などの提案がどんどん出されていきます。一方、お父さんが漁師であるフユヒコさんの相談には「家族で話し合ったほうがいい」という意見が多く出されました。



ナツミさんの悩みについて感じたことや、「こうしたら?」という提案カードの一部



フユヒコさんの悩みについて感じたことや、「こうしたら?」という提案カードの一部



これまで、放射能リテラシーワークショップでは、日常の生活で食べる農水産物や乳製品などに含まれる放射性物質の数値を計算し、福島の農水産物の安全性を数値で確認する「食材ゲーム」を行ってきました。今回のワーク「家族の悩み相談」は、数値だけではない食の問題を、生産者・消費者である家族の一員としての子どもの立場から考えてみました。農業・漁業にたずさわる家族、そしてそれを食べる人々……事例として話し合うことで、自分の家での経験を少しずつ話し出す参加者もいました。


このワークは、2016年4月に完成予定のセーブ・ザ・チルドレン・ジャパンの放射能を学ぶためのハンドブック「みらいへのとびら 〜 話してみよう、自分のこと、みんなのこと、放射能のこと 〜」に収められます。ハンドブックができたら、みなさんもぜひやってみてくださいね。
(福島事務所 五十嵐和代)


<放射能リテラシーワークショップについて>
セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンは、東日本大震災復興支援事業福島プログラムの一環として、2013年9月から放射能リテラシープロジェクトを始めました。このプロジェクトは、福島県の子どもたちが、放射能について学び、さまざまな情報や報道を読み解き、自分なりに判断する力を養うことを目的として、2013年11月から子ども向けの放射能リテラシーワークショップを実施しています。これまで、福島市、いわき市、郡山市、双葉町、楢葉町で主に小中学生を対象にワークショップを行っています。


 

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