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モンゴル
(公開日:2013.01.18)

【遊牧民の子どもたちのための小学校教育プロジェクト(1)】モンゴルの遊牧民の子どもたちの抱える問題(2013.01.18)

 


(青空の下で学習する子どもたち)


はじめまして。私はゲレルトヤといいます。2012年6月に開始した遊牧民の子どもたちの小学校教育を支援するプロジェクトのチームリーダーを務めています。これから少しずつ、私たちの事業を紹介していきたいと思います。


(ゲレルトヤ)

さて、この事業。このプログで何回も紹介されたことのある「子どもにやさしい幼稚園推進」プロジェクトと何が違うの〜とよく聞かれます。一言でいうと「対象地域」です。子どもにやさしい幼稚園推進事業では、ウランバートル市で生活する子どもたちを対象にしていますが、この事業は、ウランバートル市から遠く離れた田舎で生活する遊牧民の子どもたちです。でも、生活環境が全く異なるために、抱える問題も全く異なり、そのためプロジェクトデザインも全く異なります。では、子どもたちはどんな問題を抱えているのでしょうか?


(寮生活をする子どもたち)

学校に行く年齢になった遊牧民の子どもを考える時、一番の問題は、「家族から離れなければならない」ということです。モンゴルの遊牧民は、各県、各村で住民登録がきちんとされており、親たちは子どもが小学校入学の年齢になると、住民登録されている村の管轄地区の小学校に通えるよう準備を始めます。学校に併設されている寮に入居するか、学校近くで生活する親戚の家に居候するか、または家族の誰かがゲルやアパートを借りて定住するか、などいろいろな方法があります。どちらにしても、つまり「家族と一緒に」という今までの生活環境を、全く変えなければならなくなります。2008年の教育法改正以降は、小学校入学年齢が8歳から6歳に下がりました。わずか6歳という年齢で、家族から離れなければなりません。どんなにつらく悲しいことでしょう。ウランバートル市の子どもたちには、そのような状況は起こりません。みんな自宅から通える幼稚園や小学校に通います。

では次に、寮生活を送ったことのある私の同僚ムンフデルゲルの話を聞いてみましょう。


(ムンフデルゲル)

「私は5年生から10年生まで、家族と離れて寮生活をしました。寮生活のことは、思い出すと今でも涙が出てきます。私はいつもお腹を空かせていました。私の大好きな祖母と両親のことを思い出し、毎晩泣いていました。休暇で家に帰ると、戻りたくない!と思いました。同じ寮生活をする他の子どもたちに、いじめられたこともありました。寮の先生の中には、暴言を吐く人もいました。施設はとても古く、トイレも建物から遠く離れた外にありました。私を含めて多くの子どもたちが、同じ思いでした。このような思いをしなければならない子どもたちを、1人でも減らさなければなりません」


そしてさらに現在は、家族と離れること以外に、深刻な課題を抱えることになります。「いわゆる落ちこぼれ」になりやすいリスクがあるということです。国が2006年以降就学前教育普及のため、幼稚園における学習カリキュラムを見直しました。今では逆に「ミニ学校化」と呼ばれるほど、園児が文字や算数などの教科を学習するようになりました。その結果、小学校入学時点での幼稚園に通った子どもと、幼稚園に通っていない子どもの成績の差が、愕然と明らかになってきたのです。加えて、混雑した教室で教師にゆとりがないため、いわゆる落ちこぼれてしまった子どもたちは、「放って置かれる」という結果を生みました。
これに似た経験を持つもう1人の同僚、ジャルガランに話を聞いてみます。


(ジャルガラン)

「私は遊牧民であった祖父母に育てられました。ゲルは一部屋しかありませんので、3人はいつも一緒で、1人になることはありませんでした。祖父母はいつもやさしく、私は怒られたという記憶がありません。いつも昔話を聞かせてくれました。算数など学問的なことは学んでいませんが、人生にとって大切な多くのことを学びました。小学校入学の時、学校の先生をしている両親の家に移動しました。そして初めて「家族以外の集団」を経験しました。どうやって話をしてよいのかわからず、友達も上手くつくれませんでした。暴言を吐く子ども、暴力を振るう子どもなどもいました。先生からの体罰もありました。争いのない穏やかな生活が、学校に行くようになり一変しました。教室はとても混雑していて、私のように引っ込み思案の子どもたちは、先生と話すこともできませんでした。幼稚園に行っていませんでしたので、算数などを習ったことはありませんでした。でも幸いなことに、両親が自宅で教えてくれましたので、それほど困りませんでした。残念なことに、今でもこのような状況は続いていると思います。子どもにとって、心休まる温かい学校や家族がいない、という状況は本当に悲しいことだと思います。子どもに大きな深い心の傷をつくってしまいかねません」


(幼稚園で子どもと話をするゲレルトヤ)


私は、田舎の小学校で1年生の担任として勤めた経験があります。今でも忘れませんが、幼稚園に行ったこともなく、机に向かって座ったこともない遊牧民の子どもたちが、教室中を走り回っていました。先生の話なんて聞こうともしません。でも、その時は、一教室にたった20人しか子どもがいませんでしたので、一人ひとりの話に耳を傾けるゆとりがありました。泣いている子どもを、あたたかく抱きしめるゆとりがありました。集団行動についていけない子どもを待つゆとりがありました。
しかし今では、1つの教室に40人も50人もいるような状態で、先生にもそのようなゆとりがありません。小学校入学時に、学校という集団の教育現場や、寮という新しい集団生活に適応できず、だんだんと授業についていけなくなってしまうのです。ですので、私たちのプロジェクトでは、そのような新しい環境に適応できず小学校を中退しまう子どもの数をできるだけ減らし、また中退してしまった子どもたちが復学できるように支援することが目的なのです。


さて、このプロジェクトですが、遊牧民を多く抱える4つの県を対象にして行われています。下の地図をご覧ください。このうちスフバートル県以外の3つ県には当会の地方事務所があり、3人ずつスタッフが駐在しています。本部ウランバートル市のSCJ事務所の3人のスタッフを加えると、合計12人のチームということになります。本当にとても大きなプロジェクトです。
引き続き、私たちの活動と共に、地方事務所のメンバーも紹介していきたいと思います。
今後ともご支援のほどよろしくお願いします。


(事業実施マップ)

 (報告:モンゴル事務所 ゲレル)

この事業は、世界銀行による「日本社会開発基金(JSDF: Japan Social Development Fund)」の助成金により実施されています。


(世界銀行、教育省関係者と事業運営チーム)


 

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