モンゴル(公開日:2022.08.31)
モンゴルでのインクルーシブ教育事業 対象学校の先生や保護者の声
自分の子どもに障害がある場合、子どもを祖父母などの親戚に預けるなどして隠す。その子どもは、教育機会を始めとする社会から断絶される¹。
保護者が障害のある自身の子どもの教育に前向きだったとしても、「障害のある子どもは特別支援学校に行ってください」と公立学校側から門前払いされる。
――モンゴルでは、このようなことが起きています。
セーブ・ザ・チルドレンは、障害、ジェンダー、言語、宗教、国籍やその他の特徴に関わらず、すべての子どもが参加し、ともに学び、可能性を十分に発揮できるよう、個々の学習のニーズに対応した教育を提供できる環境整備を目指しています。私たちは、このような教育をインクルーシブ教育と呼んでいます²。
モンゴルでは、2018年3月から3年間、小学校を対象とした「誰一人取り残さないインクルーシブ教育推進事業」を実施しました。2021年3月からは、小学校から中学校へ進学するタイミングの移行フェーズに注力した「モンゴルにおける義務教育期間を通した切れ目のないインクルーシブ教育推進事業」³を実施しています。
今回は、2018年3月から継続してセーブ・ザ・チルドレンの事業に参加しているウブルハンガイ県の学校の先生の声、特別な支援を必要とする子どもや家族の様子をご紹介します。
ウブルハンガイ県は、モンゴルにある21県のうちの1県で、首都ウランバートルから西に約420km離れたところに位置し、首都のウランバートル市から車で約6時間ほどかかります。農業や観光が主要な産業です。モンゴル帝国初の首都カラコルムも同県に位置しています。総人口は11万6,785人(2021年時点⁴)、県内には公立学校(小中高一貫)が31校あり、学齢期の子どもは2万4,131人います。そのうち92.8%の2万3,648人が学校に通っています(2021年-2022年度時点⁵)。
モンゴルでのオンラインニュースサイト PEAK News⁶の記者のインタビューに対し、ウブルハンガイ県第2番学校5年生クラスの担任(当時)ブンドゥラム先生は以下のように語りました。
「私のクラスには39人の生徒がいます。生徒の1人、オトゴンザヤさんは、特別な支援を必要とし、個別指導計画⁷を用いて指導しています。セーブ・ザ・チルドレンの研修に参加し、オトゴンザヤさんのような特別な支援を必要とする生徒に対する、個別指導を通じた働きかけが改善しました。オトゴンザヤさんは、個別指導計画を通じて、工芸の先生のサポートを得て作品を作ることを学びました。来年、彼女は中学校に進学します。中学校でも、彼女の発達段階に合わせた指導を通じて学ぶことは、彼女にとって、とても大きなサポートになるでしょう。」
ブンドゥラム先生の教室での実践や、ブンドゥラム先生が担当する言語障害のあるオトゴンザヤさんという生徒の様子、オトゴンザヤさんの家族の声を、以下2つの動画としてまとめました。モンゴルの学校の様子や生活の雰囲気も、感じとっていただけると思います。
ブンドゥラム先生のように、経験が豊富で生徒思いの先生や、子どもの学びに対してサポートを惜しまない家族もいて、インクルーシブ教育が実現されていますが、オトゴンザヤさんが周りの子どもたちと関わり合いながら成長していく様子を目にし、私たちが2018年から行ってきた事業がその一助となっているとも感じています。
2つ目の動画でも紹介されていたオトゴンザヤさんの美しい粘土作品は、彼女が所属する同校の粘土クラブ内での作品コンテストで第3位に入賞したもので、本人の自信につながったそうです。
また、オトゴンザヤさんの動画のモンゴル語バージョンを、私たちの事業の一環で行う社会啓発キャンペーンで作成・発信したことをきっかけに、オトゴンザヤさんの所属する粘土クラブが同校で大人気になりました。自宅から粘土を持ってきて「参加したい」と言う子どももいたそうです。オトゴンザヤさんを含む、このクラブで作った作品を小学校の全校生徒に紹介するイベントを行ったところ、その作品のクオリティに多くの生徒が感動していたそうです。
一朝一夕に成果が見えにくいインクルーシブ教育の取り組みですが、今回紹介した学校のように、着実に事業対象校で実績を積み上げていければと思います。さらにこういった学校での取り組みや成功例が他校の先生たちにも共有され、広がっていくよう、引き続き子どもたち、先生や保護者の皆さん、教育科学省や地方教育行政の方々と手を携えて取り組んでいきたいと思います。
本事業は皆様からのご寄付と、日本NGO連携無償資金協力からの支援で実施しています。
(海外事業部 モンゴル駐在員 松本ふみ)
¹ Хүүхдээсээ ичээд, орхиод явчихдаг аав, ээжүүдэд (ikon.mn)
² Inclusive Education Position Paper | Save the Children’s Resource Centre
³ 本事業の詳細はこちらをご覧ください。【モンゴル 教育支援】中学校でも、すべての子どもが学ぶことができる環境を目指して:インクルーシブ教育推進事業の対象を小学校から中学校にまで拡大 (savechildren.or.jp)
⁴ http://www.1212.mn/
⁵ ウブルハンガイ県教育局
⁶ Хүүхэд бүрийг сургахад багш, эцэг эх, хүүхдийн гурван талын хамтын ажиллагаа чухал | Peak News
⁷ 個別指導計画とは、特別な支援を必要とする各生徒の特定の発達上のニーズと状況の評価、それに基づく短期・長期の学業目標・教育内容・教育支援方法を含む指針文書。モンゴルでは、学級担任、生徒、保護者、ソーシャルワーカー、トレーニングマネージャー(教育主任)などの関係者の参加のもと作成される。
保護者が障害のある自身の子どもの教育に前向きだったとしても、「障害のある子どもは特別支援学校に行ってください」と公立学校側から門前払いされる。
――モンゴルでは、このようなことが起きています。
セーブ・ザ・チルドレンは、障害、ジェンダー、言語、宗教、国籍やその他の特徴に関わらず、すべての子どもが参加し、ともに学び、可能性を十分に発揮できるよう、個々の学習のニーズに対応した教育を提供できる環境整備を目指しています。私たちは、このような教育をインクルーシブ教育と呼んでいます²。
モンゴルでは、2018年3月から3年間、小学校を対象とした「誰一人取り残さないインクルーシブ教育推進事業」を実施しました。2021年3月からは、小学校から中学校へ進学するタイミングの移行フェーズに注力した「モンゴルにおける義務教育期間を通した切れ目のないインクルーシブ教育推進事業」³を実施しています。
今回は、2018年3月から継続してセーブ・ザ・チルドレンの事業に参加しているウブルハンガイ県の学校の先生の声、特別な支援を必要とする子どもや家族の様子をご紹介します。
ウブルハンガイ県は、モンゴルにある21県のうちの1県で、首都ウランバートルから西に約420km離れたところに位置し、首都のウランバートル市から車で約6時間ほどかかります。農業や観光が主要な産業です。モンゴル帝国初の首都カラコルムも同県に位置しています。総人口は11万6,785人(2021年時点⁴)、県内には公立学校(小中高一貫)が31校あり、学齢期の子どもは2万4,131人います。そのうち92.8%の2万3,648人が学校に通っています(2021年-2022年度時点⁵)。
モンゴルでのオンラインニュースサイト PEAK News⁶の記者のインタビューに対し、ウブルハンガイ県第2番学校5年生クラスの担任(当時)ブンドゥラム先生は以下のように語りました。
「私のクラスには39人の生徒がいます。生徒の1人、オトゴンザヤさんは、特別な支援を必要とし、個別指導計画⁷を用いて指導しています。セーブ・ザ・チルドレンの研修に参加し、オトゴンザヤさんのような特別な支援を必要とする生徒に対する、個別指導を通じた働きかけが改善しました。オトゴンザヤさんは、個別指導計画を通じて、工芸の先生のサポートを得て作品を作ることを学びました。来年、彼女は中学校に進学します。中学校でも、彼女の発達段階に合わせた指導を通じて学ぶことは、彼女にとって、とても大きなサポートになるでしょう。」
ブンドゥラム先生の教室での実践や、ブンドゥラム先生が担当する言語障害のあるオトゴンザヤさんという生徒の様子、オトゴンザヤさんの家族の声を、以下2つの動画としてまとめました。モンゴルの学校の様子や生活の雰囲気も、感じとっていただけると思います。
動画「一緒に勉強しよう:ブンドゥラム先生のストーリー」(英語字幕版はこちら)
動画「一緒に頑張ろう:オトゴンザヤさんのストーリー」(英語字幕版はこちら)
ブンドゥラム先生のように、経験が豊富で生徒思いの先生や、子どもの学びに対してサポートを惜しまない家族もいて、インクルーシブ教育が実現されていますが、オトゴンザヤさんが周りの子どもたちと関わり合いながら成長していく様子を目にし、私たちが2018年から行ってきた事業がその一助となっているとも感じています。
2つ目の動画でも紹介されていたオトゴンザヤさんの美しい粘土作品は、彼女が所属する同校の粘土クラブ内での作品コンテストで第3位に入賞したもので、本人の自信につながったそうです。
また、オトゴンザヤさんの動画のモンゴル語バージョンを、私たちの事業の一環で行う社会啓発キャンペーンで作成・発信したことをきっかけに、オトゴンザヤさんの所属する粘土クラブが同校で大人気になりました。自宅から粘土を持ってきて「参加したい」と言う子どももいたそうです。オトゴンザヤさんを含む、このクラブで作った作品を小学校の全校生徒に紹介するイベントを行ったところ、その作品のクオリティに多くの生徒が感動していたそうです。
一朝一夕に成果が見えにくいインクルーシブ教育の取り組みですが、今回紹介した学校のように、着実に事業対象校で実績を積み上げていければと思います。さらにこういった学校での取り組みや成功例が他校の先生たちにも共有され、広がっていくよう、引き続き子どもたち、先生や保護者の皆さん、教育科学省や地方教育行政の方々と手を携えて取り組んでいきたいと思います。
本事業は皆様からのご寄付と、日本NGO連携無償資金協力からの支援で実施しています。
(海外事業部 モンゴル駐在員 松本ふみ)
¹ Хүүхдээсээ ичээд, орхиод явчихдаг аав, ээжүүдэд (ikon.mn)
² Inclusive Education Position Paper | Save the Children’s Resource Centre
³ 本事業の詳細はこちらをご覧ください。【モンゴル 教育支援】中学校でも、すべての子どもが学ぶことができる環境を目指して:インクルーシブ教育推進事業の対象を小学校から中学校にまで拡大 (savechildren.or.jp)
⁴ http://www.1212.mn/
⁵ ウブルハンガイ県教育局
⁶ Хүүхэд бүрийг сургахад багш, эцэг эх, хүүхдийн гурван талын хамтын ажиллагаа чухал | Peak News
⁷ 個別指導計画とは、特別な支援を必要とする各生徒の特定の発達上のニーズと状況の評価、それに基づく短期・長期の学業目標・教育内容・教育支援方法を含む指針文書。モンゴルでは、学級担任、生徒、保護者、ソーシャルワーカー、トレーニングマネージャー(教育主任)などの関係者の参加のもと作成される。