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モンゴル
(公開日:2021.01.19)

【モンゴル 教育支援】家庭へ教育を

 
モンゴルでは、多様なニーズを持つ子どもが学ぶことができる教育環境の整備を目指し、2018年3月から「誰一人取り残さないインクルーシブ教育推進事業」を実施しています。今回は、2019年11月のブログで紹介した「事業開始から1年半 インクルーシブ教育推進事業」の後半に書いた「今後取り組むべき課題」について、セーブ・ザ・チルドレンがその課題に対してどのように取り組んだのかについてお伝えします(事業の詳細は、過去の記事を参照ください)。

データに登録されていなかった子どもたち
2019年5月から2020年10月の間に実施した不就学にある子どもたちに関する調査から、事業の対象となっている3つの地域(258,478世帯)で、729人もの学校に通っていない子どもがいることが明らかになりました。こうした状況にあった子どもたちは、国が管理する教育情報管理システム上には載っていなかった子どもたちで、セーブ・ザ・チルドレンがこのデータ収集の方法を改善し、本来であれば登録されているべき子どもたちを特定することができました。

特定された子どもたちは多くの場合、重度の障害や病気のある子どもたちで、データ収集の管理をしていたある担当者は、「こうした状況の子どもたちはデータ収集の際に数える必要がないと思っていた」と話していました。

このような担当者の考え方によって抜け漏れがないように、データ収集のシステム自体に新しい仕組みを開発・導入し、データ収集担当職員向けに研修も行いました。


データを分析して学校に通っていない子どもを特定した後、家庭を訪問して、子どもの様子を聴き取る。
写真左前にいるのが事業地のホブド県で活動しているスタッフ。
質問紙を使用し、保護者に向けて聴き取りを行っている様子。(2019年5月撮影)

家庭訪問授業
今回特定された子どもたち200人以上は、公立学校や生涯学習センターに戻って勉強をしていますが、中には、長年学校に通っていない、障害などさまざまな理由で家から外に出ることが難しい子どもたちもいました。そこで、生涯学習センターの教師が、それぞれの子どもの家庭を訪問し、個別の授業を行う家庭訪問授業をすることになりました。授業に必要な教材の作成、教員向けの研修をした後、家庭訪問授業を開始しました。現時点で、87人の学校に通えていない子どもたちが、個別指導計画に基づき、家庭訪問授業を受けています。

2020年2月、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う移動制限で、家庭訪問授業は一時期停止してしまいました。しかし、2020年8月に遠隔での授業を試行し、2021年1月にこの経験を基に別の形で再開しました。家庭に学習キットを届け、家庭訪問ができない間は、教師は子どもと保護者と電話で連絡を取り、学習の進度を確認して、必要な助言をしていきます。

ここで、家庭訪問授業を受けた2人の子どもたちの話を紹介します。

ツァツァルさんの話
ツァツァルさんは、手足の筋肉の麻痺、知的障害、言語障害をもち、さらにモンゴルにいる少数民族の1つであるカザフ族出身でカザフ語を使用しています。両親は遊牧民なので、学校から数百キロメートル離れた場所にゲルを設置しています。ツァツァルさんは「学校に行きたい」と言いますが、両親は、「モンゴル語の授業についていけるか」、「車に必要なガソリン代が賄えない」、「そもそも障害のことで先生やクラスメイトに受け入れてもらえるか」など多くの不安があり、「家にいた方が安心だし、学校に行かなくてよい」と決めました。そして、ツァツァルさんは、11年間、教育を受ける機会がないまま家で過ごしました。


家庭訪問授業を受けるツァツァルさん(写真左手前)。
彼女が理解しやすいように多くの視覚教材を教師が作成した。(2020年5月撮影)

家庭訪問授業を受けて、ツァツァルさんは大きく変わりました。授業には、モンゴル語とカザフ語の先生がいるので、勉強内容がよく分かります。ツァツァルさんは、家庭訪問授業が始まってから、朝起きたら自分で身支度をして、宿題をしています。そのような変化を目の当たりにした保護者は「授業を受けられるようになって生き生きしている」と喜んで話していました。

バートルさんの話
バートルさんは、生まれつき足の筋肉が強くなく、車椅子を利用しています。バートルさんが小学校2年生の時、急にトイレに行きたくなりました。周りに補助してくれる先生やクラスメイトがいません。バートルさんは我慢ができなくなり、その場でおもらしをしてしまいました。その後、バートルさんは、恥ずかしくなって学校に行くことができなくなりました。家にいても、特にすることがなく、テレビを見て過ごしました。また、両親や兄弟も相手をしてくれなかったため、常に一人ぼっちでいる気分だったといいます。さらに、マイナス40度にまでなるモンゴルの寒い冬に、1人で留守番をしていて、燃料を取りに行けずに手足が凍えたこともありました。こうして、バートルさんは、9年間、家で過ごしました。


家庭訪問授業を受けるバートルさん(写真右)。2年生で学校を中退したので、
彼が理解しやすいように3年生の授業内容から始めた。(2019年5月撮影)

バートルさんは、家庭訪問授業を受け始めてから、毎日をとても楽しみにしているそうです。「前は書くことが大嫌いだったけど、今はもっと勉強してもっと書けるようになりたい」と身を乗り出して話しています。また、生涯学習センターの生徒との交流イベントを通して、友だちもできました。「早く学校に戻って友だちももっとたくさんつくりたい」と話していました。

家庭訪問授業の今後
2021年3月末に事業が終了してからは、生涯学習センターの教師が主導して、家庭訪問授業を進めていきます。この家庭訪問授業は、私たちが事業を実施する前からモンゴルでは行われていました。しかし、保護者や子どもの聴き取りをした上で個別の指導計画を立て、それぞれの子どもに合った教材を作成することや、データ収集の担当と連携し、すべての子どもに教育を届けるシステムがありませんでした。すでにモンゴルで行われていた活動に、セーブ・ザ・チルドレンが新しいツールやシステムを開発・導入し、教師が、事業終了後もすべての子どもに教育を届ける活動が継続されていきます。

本事業は皆さまからのご寄付と、日本NGO連携無償資金協力の助成を受けて実施しています。

(報告:モンゴル駐在員 大場 ありさ)

 

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