モンゴル(公開日:2022.01.04)
【モンゴル 子どもの保護】モンゴルにおける児童虐待などの防止に向けた制度強化事業
「そのお母さんはアルコール依存症で、お酒を飲むと小さな赤ちゃん一人を残して外出してしまうようです。近隣住民からこのような連絡を受けても、何をしてあげたら良いのか分からず途方に暮れていました。」−これは、モンゴルで子どもとその家族を虐待や家庭内暴力(DV)などから守るためのチーム(多職種連携チーム)に所属する、ある行政職員の言葉です。
モンゴルは東アジアに位置する内陸国で、1990年代初頭に社会主義から民主主義へ移行した共和制国家です。
世界一寒いと言われる首都があり、「ゲル」という移動式住居を拠点にした遊牧による畜産業が有名です。民主化を機に目覚ましい発展を遂げている一方、その変化に追いつくことが難しい状況に陥っている人や、環境汚染や雪害による影響で遊牧生活を諦め、首都のウランバートル市に仕事を求めて移り住む人も多くいます。
しかし、そのウランバートル市では、急増する地方からの移住者に対して、社会インフラや公共サービスの整備が追いついていないほか、貧困率や失業率の増加が大きな問題になっています。
加えて、アルコールの過剰摂取による問題も生じており、これらが複合的に絡みあった結果、DVや子どもへの虐待の問題が発生しています。
日本では、改正児童虐待防止法および改正児童福祉法が2019年半ばに成立し、2020年4月に施行されました。これにより日本は体罰を全面禁止している国の一員となりましたが、モンゴルは日本に先立って、2016年に法改正が行われ、体罰が全面禁止となっています(モンゴルは世界で49番目※1に、日本は59番目に体罰を法律で全面的に禁止した国です)。
しかし、モンゴルでは、現場の行政職員や関係機関の児童虐待への対応にかかる分野の経験・知識不足により、子どもを虐待から守るための環境が整えられたとは言えない状況が続いています。
このような状況を受け、セーブ・ザ・チルドレンは、2018年9月から「モンゴルにおける子どもの権利・保護法成立後の要保護児童支援制度定着化支援事業」を実施しています。
この事業での主な支援対象者は、子どもとその家族を虐待やDVなどの被害から守るために自治体に組織された、「多職種連携チーム」のメンバーである行政機関の職員たちです。
この事業の目的は、「要保護児童」の支援にあたる最前線の職員の業務実施上の能力強化と、彼らの所属先を含む関係機関の体制強化です。
子どもをあらゆる暴力から守るための社会を実現させるためには、専門家のみならず、政策決定者、地域住民、親や養育者、そして子どもたち自身の関与やエンパワメント、意識変容が欠かせないという方針が通底しています。
目標達成のために、事業ではさまざまな活動を計画・実施しています。たとえば、要保護児童支援業務や体罰等によらない子育ての考え方『ポジティブ・ディシプリン(前向きなしつけ)』※2に関する知識習得のための研修トレーナーを養成し、養成課程を終えた研修トレーナーにより自治体職員や親・養育者へ同研修を実施しています。
また、子どもを含む地域住民を巻き込んだ啓発活動の実施支援や、政策決定者を交えた定期会合やフォーラムの開催なども行っています。さらに、現場の職員が日々の業務の中で直面する課題に対しても、セーブ・ザ・チルドレン所属のソーシャルワーカーが関係機関と協力して定期的な個別相談に応じたり、この分野の研究者を特別講師として招いた事例検討会を実施したりして対応しています。
新型コロナウイルス感染症の感染拡大による活動実施上の困難もありますが、各種会議や個別相談をオンラインでの実施に切り替えたり、状況の変化に対応したツールを作成したりするなど、新たな試みを通した柔軟な対応を心がけています。
事業を開始して3年が経過し、2022年8月の事業終了まで1年を切りました。冒頭で紹介したアルコール依存症の母親は、専門対応能力を身につけた多職種連携チームが直接支援を開始し、『ポジティブ・ディシプリン』プログラムへの参加や、適切な医療および養育サービスの提供を受ける中で、状況は改善してきています。
残りの事業期間では、改善事例が継続的に増えていくよう、また、モンゴル政府が事業終了後もこれらの活動を持続発展させていくことができるよう、必要な支援を行っていきたいと思っています。
本事業は、皆さまからのご寄付と独立行政法人国際協力機構(JICA)の委託により実施しています。
(海外事業部 モンゴル駐在員 水野将伸)
※1 出典:各国の体罰等全面禁止法(年代順) : 子どもすこやかサポートネット (kodomosukoyaka.net)(特定非営利活動法人 子どもすこやかサポートネットWebサイトより)
※2 セーブ・ザ・チルドレンがカナダのマニトバ大学の児童臨床心理学者と共同開発した養育者支援プログラム。罰に代わる子育てへの取り組み方を提案している。
モンゴルは東アジアに位置する内陸国で、1990年代初頭に社会主義から民主主義へ移行した共和制国家です。
世界一寒いと言われる首都があり、「ゲル」という移動式住居を拠点にした遊牧による畜産業が有名です。民主化を機に目覚ましい発展を遂げている一方、その変化に追いつくことが難しい状況に陥っている人や、環境汚染や雪害による影響で遊牧生活を諦め、首都のウランバートル市に仕事を求めて移り住む人も多くいます。
しかし、そのウランバートル市では、急増する地方からの移住者に対して、社会インフラや公共サービスの整備が追いついていないほか、貧困率や失業率の増加が大きな問題になっています。
加えて、アルコールの過剰摂取による問題も生じており、これらが複合的に絡みあった結果、DVや子どもへの虐待の問題が発生しています。
日本では、改正児童虐待防止法および改正児童福祉法が2019年半ばに成立し、2020年4月に施行されました。これにより日本は体罰を全面禁止している国の一員となりましたが、モンゴルは日本に先立って、2016年に法改正が行われ、体罰が全面禁止となっています(モンゴルは世界で49番目※1に、日本は59番目に体罰を法律で全面的に禁止した国です)。
しかし、モンゴルでは、現場の行政職員や関係機関の児童虐待への対応にかかる分野の経験・知識不足により、子どもを虐待から守るための環境が整えられたとは言えない状況が続いています。
このような状況を受け、セーブ・ザ・チルドレンは、2018年9月から「モンゴルにおける子どもの権利・保護法成立後の要保護児童支援制度定着化支援事業」を実施しています。
この事業での主な支援対象者は、子どもとその家族を虐待やDVなどの被害から守るために自治体に組織された、「多職種連携チーム」のメンバーである行政機関の職員たちです。
この事業の目的は、「要保護児童」の支援にあたる最前線の職員の業務実施上の能力強化と、彼らの所属先を含む関係機関の体制強化です。
子どもをあらゆる暴力から守るための社会を実現させるためには、専門家のみならず、政策決定者、地域住民、親や養育者、そして子どもたち自身の関与やエンパワメント、意識変容が欠かせないという方針が通底しています。
目標達成のために、事業ではさまざまな活動を計画・実施しています。たとえば、要保護児童支援業務や体罰等によらない子育ての考え方『ポジティブ・ディシプリン(前向きなしつけ)』※2に関する知識習得のための研修トレーナーを養成し、養成課程を終えた研修トレーナーにより自治体職員や親・養育者へ同研修を実施しています。
また、子どもを含む地域住民を巻き込んだ啓発活動の実施支援や、政策決定者を交えた定期会合やフォーラムの開催なども行っています。さらに、現場の職員が日々の業務の中で直面する課題に対しても、セーブ・ザ・チルドレン所属のソーシャルワーカーが関係機関と協力して定期的な個別相談に応じたり、この分野の研究者を特別講師として招いた事例検討会を実施したりして対応しています。
新型コロナウイルス感染症の感染拡大による活動実施上の困難もありますが、各種会議や個別相談をオンラインでの実施に切り替えたり、状況の変化に対応したツールを作成したりするなど、新たな試みを通した柔軟な対応を心がけています。
事業を開始して3年が経過し、2022年8月の事業終了まで1年を切りました。冒頭で紹介したアルコール依存症の母親は、専門対応能力を身につけた多職種連携チームが直接支援を開始し、『ポジティブ・ディシプリン』プログラムへの参加や、適切な医療および養育サービスの提供を受ける中で、状況は改善してきています。
残りの事業期間では、改善事例が継続的に増えていくよう、また、モンゴル政府が事業終了後もこれらの活動を持続発展させていくことができるよう、必要な支援を行っていきたいと思っています。
本事業は、皆さまからのご寄付と独立行政法人国際協力機構(JICA)の委託により実施しています。
(海外事業部 モンゴル駐在員 水野将伸)
※1 出典:各国の体罰等全面禁止法(年代順) : 子どもすこやかサポートネット (kodomosukoyaka.net)(特定非営利活動法人 子どもすこやかサポートネットWebサイトより)
※2 セーブ・ザ・チルドレンがカナダのマニトバ大学の児童臨床心理学者と共同開発した養育者支援プログラム。罰に代わる子育てへの取り組み方を提案している。