モンゴル(公開日:2014.05.19)
【遊牧民の子どもたちのための小学校教育プロジェクト(8)】子どもたちは、村の小学校の図書館にできた「就学前教育キット」が大好きです!(2014.05.19)
こんにちは、日本の皆様。遊牧民の子どもたちの小学校教育を支援するプロジェクトで、オフィサーを務めていますムングテュヤです。
ムングテュヤ ⒸSave the Children Japan
私たちの事業では、コミュニティ教育協議会のメンバーが中心になって、いろいろな活動を行っています。以前このブログで紹介しました「就学前教育支援プログラム」もその1つで、幼稚園に通えない子どものために活動を企画・実施しています。小学校に入学するための準備学習を、入学前に子どもと保護者が一緒に、家庭で行えるよう開発された「就学前教育キット」は、2013年10月に試験的に開始されました。
試行錯誤を繰り返しながら現在、30ヶ所の村の小学校の図書館にキットは置かれ、準備学習が必要な家族に、定期的に貸し出されています。開始から8ヶ月。利用している子どもたちやその家族の喜びの声をお届けします。
就学前教育キットで遊ぶ子どもたち ⒸSave the Children Japan
「就学前教育キット」の貸し出しは、はじめに、ウブルハンガイ県とアルハンガイ県の2つの県の5つの村のコミュニティ教育協議会で試験的に行われました。おもちゃを貸し出すプログラムは、今までにありませんでしたので、「遊牧民の家族は、このキットを自宅に持って帰ったら返しにこないので、貸し出し式は良くないのではないか。」という意見もありました。しかしすぐに、嬉しい報告がたくさん聞こえてきました。
1つ目の報告は、返却しないのではという懸念は、全く無用であったということです。誰もが必ず返却しました。またただ返却するのでなく、キットの汚れを落としてから返却した家族もありました。このキットが、いかに遊牧民の家族に感謝されているかの表れだと思っています。
2つ目の報告は、このキットに含まれるおもちゃと本は、幼稚園に通えない子どもたちのニーズに応えている、と誰もが答えたことです。子どもの「新しいことを学びたい。本を読みたい。」というニーズは大変強いのですが、今までそのニーズに、家族も行政も応えることができませんでした。
3つ目の報告は、キットの貸し出し方式を、シリーズ化したことは大変良かったという評価です。どうしてかというと、シリーズ化したことで、保護者が定期的に図書館に通うようになりました。その結果、キットの返却のたびに、学校の先生や、コミュニティ教育協議会のメンバーと話をすることができ、子どもが学校に入学するために保護者が学ばなければならないことを、定期的に学ぶ機会が持てたということです。それは、1回きりの研修よりももっと効果があることがわかりました。
キットのおもちゃで遊ぶウブルハンガイ県の子どもたち ⒸSave the Children Japan
同時に、いくつかの教訓も得ました。その1つ目が、保護者の指導能力、またはキットを活用する能力の必要性です。中には、子どもの教育に大変熱心な保護者もいますが、基本的に「学校教育は、学校の先生の責任。親のすることは少ない。」という考え方がモンゴルにはあります。しかし子どもの教育の責任は、保護者にあります。特に幼稚園に行っていない子どもたちの保護者は、子どもに指導できる能力が一層必要です。
2つ目は、教材の見直しです。保護者からの感想の中には、「このおもちゃは、私の子どもに難しすぎるのではないか」といった意見がありました。ウランバートル市の6歳児にはちょうど良いと思った教材でも、地方に住む幼稚園に行ったことがない6歳児には大変難しいということがわかり、そのような教材は変更しました。また、どれぐらい大切に扱っても、パズルなど、何回も手にとって遊ぶ紙でできたおもちゃは、どうしてもくしゃくしゃになってしまうといった教材の素材の問題も指摘されました。また当初は、「机代わりになっていい」とされたプラスチックの入れ物も、零下30度にもなる冬の気候には対応できず、容易に割れてしまいます。そのため、プラスチックの入れ物から耐久性に優れた布製のかばんに変えました。
布製のかばんを受け取る子どもたちと家族 ⒸSave the Children Japan
こういった教訓を生かし改善を重ね、残り25の支援対象村でも次々に「就学前教育キット」の貸し出しを開始し、2014年4月には、30全部の支援対象の村で開始しました。キットの貸し出しを試験的に行った5つの村の1つである、ウブルハンガイ県ズンバヤンウーラン村に住むムンフ・エルデネさん(5歳)家族にインタビューをしました。紹介します。
ムンフ・エルデネさん ⒸSave the Children Japan
「僕は幼稚園に行ってないよ。お父さんとお母さん、それにおじさんと生まれたばかりの弟と、羊や山羊と移住して生活しているよ。このキットを借りる前は、毎日羊と遊んでいたよ。絵を描いたり、字を書いたりすることも、数字を数えることも全然なかった。昨年、村の小学校の図書館に行って、初めてモンゴル語の文字を書いたり、数字を数えることを習ったよ。とっても楽しかった。そして、お父さんがキットを借りてきてくれるようになって、家で、モンゴル語の文字を教えてくれるようになったよ。今はモンゴル語が書けるよ!借りてきた本はすぐに読むし、本なしでは退屈だな。だから何度も同じ本を読むよ。一番楽しいことは、お父さんとお母さんと一緒に本を読むこと!今度は僕が、弟に本を読んであげるよ!」
ムンフ・エルデネさんとお父さん ⒸSave the Children Japan
ムンフ・エルデネさんのお父さんとお母さんの話です。
ムンフ・エルデネさんの家族 ⒸSave the Children Japan
「私たちは、家畜と共に移動生活をしなければなりません。ですので、息子を幼稚園に通わせることができません。幼稚園のある村の中心まで、およそ28km離れていますが、1か月に2回から3回ほど、村の小学校の図書館まで行くようになりました。借りていたキットを返却し、新しいキットを借りるためです。今まで、息子と本を読むなんてなかったし、まして、文字や数字について話をするなんてこと、ありませんでした。今では、息子がいろいろなものに興味を持って質問をしてきます。字も覚えたり、その他新しいこともどんどん覚えていきます。息子の将来に希望が持てるようになり、私たちは本当に嬉しく思っています。以前は、村まで行くと、飴などを買っていましたが、今は、本を買ってあげたいな、と思うようになりました。」
キットの中にあるおもちゃで遊ぶムンフ・エルデネさん ⒸSave the Children Japan
このような声を聞いていると、子どもだけでなく家族全員が、子どもたちのために変わってきているということがわかり、本当に嬉しく思っています。私は、良い家庭環境の中で育った子どもは、幸せになると信じています。ムンフ・エルデネさんのような家族が増え、幸せな子どもが増えていくことを切に願います。また、幼児期の教育は、将来の可能性を広げるためにとても重要です。これからも、支援が届きにくい、このような遠く離れた地域の子どもたちの将来の可能性を広げるお手伝をしていきたいと思います。
最後に、このウブルハンガイ県事務所のスタッフを紹介します。
ウブルハンガイ事務所のスタッフ ⒸSave the Children Japan
ウブルハンガイ事務所のスタッフは、全員で3人です。リーダーのサンチェラ(写真左)、会計担当のバッテチェチェグ(写真右)、運転手のボヤンバットラハ(写真中央)です。
今後ともご支援のほどよろしくお願いします。
(ウルハンガイ県については、以下のブログでも紹介しています。)
http://www.savechildren.or.jp/scjcms/sc_activity.php?d=1150
―モンゴル遠隔地における最も不利な状況に置かれた子どもたちのための基礎学力向上支援事業―
小学校中途退学の子どもが特に多いモンゴル遠隔地4県で、標準的な教育を受けていない、もしくは受けられないでいる子どもたち(5〜10才)の初等教育における学力の維持、さらに向上を目指して支援しています。
事業期間:2012年6月21日〜2016年6月20日
事業分類:【教育支援】
本事業は、世界銀行による「日本社会開発基金(JSDF: Japan Social Development Fund)の助成と、皆さまからのご支援を受けて実施しています。
(報告;モンゴル事務所 ムングテュヤ)
ムングテュヤ ⒸSave the Children Japan
私たちの事業では、コミュニティ教育協議会のメンバーが中心になって、いろいろな活動を行っています。以前このブログで紹介しました「就学前教育支援プログラム」もその1つで、幼稚園に通えない子どものために活動を企画・実施しています。小学校に入学するための準備学習を、入学前に子どもと保護者が一緒に、家庭で行えるよう開発された「就学前教育キット」は、2013年10月に試験的に開始されました。
試行錯誤を繰り返しながら現在、30ヶ所の村の小学校の図書館にキットは置かれ、準備学習が必要な家族に、定期的に貸し出されています。開始から8ヶ月。利用している子どもたちやその家族の喜びの声をお届けします。
就学前教育キットで遊ぶ子どもたち ⒸSave the Children Japan
「就学前教育キット」の貸し出しは、はじめに、ウブルハンガイ県とアルハンガイ県の2つの県の5つの村のコミュニティ教育協議会で試験的に行われました。おもちゃを貸し出すプログラムは、今までにありませんでしたので、「遊牧民の家族は、このキットを自宅に持って帰ったら返しにこないので、貸し出し式は良くないのではないか。」という意見もありました。しかしすぐに、嬉しい報告がたくさん聞こえてきました。
1つ目の報告は、返却しないのではという懸念は、全く無用であったということです。誰もが必ず返却しました。またただ返却するのでなく、キットの汚れを落としてから返却した家族もありました。このキットが、いかに遊牧民の家族に感謝されているかの表れだと思っています。
2つ目の報告は、このキットに含まれるおもちゃと本は、幼稚園に通えない子どもたちのニーズに応えている、と誰もが答えたことです。子どもの「新しいことを学びたい。本を読みたい。」というニーズは大変強いのですが、今までそのニーズに、家族も行政も応えることができませんでした。
3つ目の報告は、キットの貸し出し方式を、シリーズ化したことは大変良かったという評価です。どうしてかというと、シリーズ化したことで、保護者が定期的に図書館に通うようになりました。その結果、キットの返却のたびに、学校の先生や、コミュニティ教育協議会のメンバーと話をすることができ、子どもが学校に入学するために保護者が学ばなければならないことを、定期的に学ぶ機会が持てたということです。それは、1回きりの研修よりももっと効果があることがわかりました。
キットのおもちゃで遊ぶウブルハンガイ県の子どもたち ⒸSave the Children Japan
同時に、いくつかの教訓も得ました。その1つ目が、保護者の指導能力、またはキットを活用する能力の必要性です。中には、子どもの教育に大変熱心な保護者もいますが、基本的に「学校教育は、学校の先生の責任。親のすることは少ない。」という考え方がモンゴルにはあります。しかし子どもの教育の責任は、保護者にあります。特に幼稚園に行っていない子どもたちの保護者は、子どもに指導できる能力が一層必要です。
2つ目は、教材の見直しです。保護者からの感想の中には、「このおもちゃは、私の子どもに難しすぎるのではないか」といった意見がありました。ウランバートル市の6歳児にはちょうど良いと思った教材でも、地方に住む幼稚園に行ったことがない6歳児には大変難しいということがわかり、そのような教材は変更しました。また、どれぐらい大切に扱っても、パズルなど、何回も手にとって遊ぶ紙でできたおもちゃは、どうしてもくしゃくしゃになってしまうといった教材の素材の問題も指摘されました。また当初は、「机代わりになっていい」とされたプラスチックの入れ物も、零下30度にもなる冬の気候には対応できず、容易に割れてしまいます。そのため、プラスチックの入れ物から耐久性に優れた布製のかばんに変えました。
布製のかばんを受け取る子どもたちと家族 ⒸSave the Children Japan
こういった教訓を生かし改善を重ね、残り25の支援対象村でも次々に「就学前教育キット」の貸し出しを開始し、2014年4月には、30全部の支援対象の村で開始しました。キットの貸し出しを試験的に行った5つの村の1つである、ウブルハンガイ県ズンバヤンウーラン村に住むムンフ・エルデネさん(5歳)家族にインタビューをしました。紹介します。
ムンフ・エルデネさん ⒸSave the Children Japan
「僕は幼稚園に行ってないよ。お父さんとお母さん、それにおじさんと生まれたばかりの弟と、羊や山羊と移住して生活しているよ。このキットを借りる前は、毎日羊と遊んでいたよ。絵を描いたり、字を書いたりすることも、数字を数えることも全然なかった。昨年、村の小学校の図書館に行って、初めてモンゴル語の文字を書いたり、数字を数えることを習ったよ。とっても楽しかった。そして、お父さんがキットを借りてきてくれるようになって、家で、モンゴル語の文字を教えてくれるようになったよ。今はモンゴル語が書けるよ!借りてきた本はすぐに読むし、本なしでは退屈だな。だから何度も同じ本を読むよ。一番楽しいことは、お父さんとお母さんと一緒に本を読むこと!今度は僕が、弟に本を読んであげるよ!」
ムンフ・エルデネさんとお父さん ⒸSave the Children Japan
ムンフ・エルデネさんのお父さんとお母さんの話です。
ムンフ・エルデネさんの家族 ⒸSave the Children Japan
「私たちは、家畜と共に移動生活をしなければなりません。ですので、息子を幼稚園に通わせることができません。幼稚園のある村の中心まで、およそ28km離れていますが、1か月に2回から3回ほど、村の小学校の図書館まで行くようになりました。借りていたキットを返却し、新しいキットを借りるためです。今まで、息子と本を読むなんてなかったし、まして、文字や数字について話をするなんてこと、ありませんでした。今では、息子がいろいろなものに興味を持って質問をしてきます。字も覚えたり、その他新しいこともどんどん覚えていきます。息子の将来に希望が持てるようになり、私たちは本当に嬉しく思っています。以前は、村まで行くと、飴などを買っていましたが、今は、本を買ってあげたいな、と思うようになりました。」
キットの中にあるおもちゃで遊ぶムンフ・エルデネさん ⒸSave the Children Japan
このような声を聞いていると、子どもだけでなく家族全員が、子どもたちのために変わってきているということがわかり、本当に嬉しく思っています。私は、良い家庭環境の中で育った子どもは、幸せになると信じています。ムンフ・エルデネさんのような家族が増え、幸せな子どもが増えていくことを切に願います。また、幼児期の教育は、将来の可能性を広げるためにとても重要です。これからも、支援が届きにくい、このような遠く離れた地域の子どもたちの将来の可能性を広げるお手伝をしていきたいと思います。
最後に、このウブルハンガイ県事務所のスタッフを紹介します。
ウブルハンガイ事務所のスタッフ ⒸSave the Children Japan
ウブルハンガイ事務所のスタッフは、全員で3人です。リーダーのサンチェラ(写真左)、会計担当のバッテチェチェグ(写真右)、運転手のボヤンバットラハ(写真中央)です。
今後ともご支援のほどよろしくお願いします。
(ウルハンガイ県については、以下のブログでも紹介しています。)
http://www.savechildren.or.jp/scjcms/sc_activity.php?d=1150
―モンゴル遠隔地における最も不利な状況に置かれた子どもたちのための基礎学力向上支援事業―
小学校中途退学の子どもが特に多いモンゴル遠隔地4県で、標準的な教育を受けていない、もしくは受けられないでいる子どもたち(5〜10才)の初等教育における学力の維持、さらに向上を目指して支援しています。
事業期間:2012年6月21日〜2016年6月20日
事業分類:【教育支援】
本事業は、世界銀行による「日本社会開発基金(JSDF: Japan Social Development Fund)の助成と、皆さまからのご支援を受けて実施しています。
(報告;モンゴル事務所 ムングテュヤ)