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モンゴル
(公開日:2019.12.09)

モンゴル教育支援 モンゴル西部ホブド県でのインクルーシブ教育推進事業

 
モンゴルでは、多様なニーズを持つ子どもが学ぶことができる教育環境の整備を目指し、2018年3月から「誰一人取り残さないインクルーシブ教育推進事業」を実施しています。今回は、10月15日から18日に行ったホブド県での視察の様子をお伝えします(事業の詳細は、過去の記事を参照ください)。

ホブド県ってどんなところ?
ホブド県は、首都ウランバートルから西に約1,580?離れた所に位置しています。ホブド県は、スイカやトマトなどの夏野菜の栽培で知られています。また、トヴァ族、ハルハ族、カザフ族、ザフチン族など10以上の多様な少数民族が住んでいます。

ホブド県では、事業の1年目は、公立小学校1校と生涯学習センターの1学級を対象としていました。今年4月から、新たに公立小学校が1校と生涯学習センターが1学級加わり、合わせて2校と2学級を事業の対象として、インクルーシブ教育の普及を目指しています。

モンゴルの文化に根付いた手作り発達支援キット
今回、事業の対象となっている公立学校を訪れると、事業で場所を確保するよう推進した「チャイルド・フレンドリー・スペース(こどもにやさしいスペース)」に案内されました。このスペースは、特別な支援が必要な子どもの学習や発達を支援するために使用されます。

セーブ・ザ・チルドレンが支援した、このスペースで使用されている発達支援キットは、子どもが遊びを通して学んだり、発達を促したりするものです。手指の発達が遅れ、なかなか鉛筆を持てない子どもには、粘土や靴紐通しのおもちゃで遊ぶことを通して発達を促します。また、物の形を捉えるのに困難を感じている子どもには、さまざまな形の積み木を正しい位置に置くことを通して正しく形を捉えるのを支援します。



事業で提供した粘土や靴紐通しのおもちゃ。チャイルド・フレンドリー・スペースにある、
子どもの身長に合った高さの椅子に座って、遊んでいた(2019年10月撮影)

この学校では、校内の教師が、計画に沿って、順番にチャイルド・フレンドリー・スペースを訪れ、学習に困難を抱える子どもの発達を支援しています。

チャイルド・フレンドリー・スペースに入って、一番先に目に飛び込んできたのは、カラフルなフェルトで作られた学習おもちゃです。窓際にずらっと並べられていました。






事業で提供したフェルトを使って、教師が作成した発達支援キット。子どもが見て、触って、
楽しみながら発達を促すことができる学習おもちゃばかり(2019年10月撮影)

案内をしてくれた教師に聞くと、「発達支援キットコンテスト」で教師が作成したものだと教えてくれました。子どもたちの個々のニーズに合った指導について、教師がより主体的に関わることができるように、と管理職が各学校でこのコンテストを開催したそうです。

また、伝統的な衣装を着た子どもたちが描かれたボードゲーム、モンゴルの遊牧民の住居であるゲルの形をしたフェルト絵本などもありました。モンゴルの文化に根付いた、モンゴルで生活する子どもたちに親しみやすい発達支援キットです。近くにいた教師に「どうして、こんなにたくさんのアイディアが思い浮かぶのですか」と質問すると、「子どもたちからアイディアをもらっています」と笑顔で答えが返ってきました。

教師は、日々子どもたちと接しているからこそ、目の前の子どもたちの実態に合った学習用具が作成できるのでしょう。事業で提供された発達支援キットと教師によって手作りで作成されたものが合わさり、さまざまな子どもの発達を支えるというチャイルド・フレンドリー・スペースの役割が強まりました。

ある教室で
事業対象となる生涯学習センターの授業を参観していると、教師が生徒全体に指示を出した後、机の間をまわり、一人ひとりの子どもに合った声掛けをして丁寧に指導をしていました。

生涯学習センター長のウランガルさんによると、事業に関わる前は、この教師は、授業中、自分の椅子に座ったまま、子どもたちに指示を出していたそうです。しかし、事業の研修を受けた後は、遅くまで残って一人ひとりのニーズに合った教材を作成したり、授業中は教室の中を歩いて、積極的に子どもたちに声を掛けて指導をしている様子が頻繁に見られるようになったとのことです。

このような教師の変化は、子どもたちによい影響を与えています。授業参観を続けていると、子どもたちが、近くに座っている友だちに「こういう風に数えるんだよ」「一緒にもう一回見てみよう」と優しい声掛けをしている様子が、何度も見られました。「共に学び、共に助け合う」というインクルーシブ教育の精神がしっかりとクラスの子どもたちに育まれているように感じられました。


事業対象の生涯学習センターの授業風景。隣の友人が困っていると、一緒に考え、正しい答えを導き出していました。最初はとまどっていた子どもも、授業の後半には、友だちの助けなしで問題を解くことができていました。
(2019年10月撮影)

「子どもの将来に希望をもてた」保護者
ホブド県の保護者8人にインタビューをしました。丸テーブルを囲み、最初は、私たちにどこまで話してよいのかためらいがちな様子でしたが、徐々に自身の子どもについて熱心に話し始めました。

その中で、印象的だったのは、ある保護者からの次の回答でした。
「子どもの将来について明るく考えられるようになりました。以前は、私の子どもは何もできないし、学校にも通えない。家にいるしかないと暗い気持ちでいました。事業対象の学校で『すべての子どもを受け入れている』と聞いてうれしい気持ちになりました。今では、自分の子どもを学校に通わせるだけではなく、ピアノを習わせたい、スポーツにも挑戦させたいと明るいことを考えられるようになりました。」

インタビューを通して、自身の子どもに対する保護者の意識が変わってきたことに事業の成果を感じました。これまで対象となる学校に子どもを通わせている保護者に向けて、インクルーシブ教育の大切さを伝える啓発活動を継続的に行ってきました。今度は、その保護者が、地域での啓発活動を実施し、インクルーシブ教育の大切さを他の地域住民に伝えていくことを期待しています。本事業の進捗は、今後もブログでお伝えしていきます。

本事業は皆さまからのご寄付と、日本NGO連携無償資金協力の助成を受けて実施しています。
(報告:モンゴル駐在員 大場 ありさ)

 

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