モンゴル(公開日:2014.08.15)
モンゴルの子どもたちと、虫歯について勉強しました(2014.08.15)
こんにちは。セーブ・ザ・チルドレン モンゴル事務所の柴田です。
モンゴル事務所が支援活動を展開している、アルハンガイ県ツェツェルレグ市と、同県タリヤット村に、日本モンゴル文化経済交流協会の歯科検診チームを招き、小学校や幼稚園の先生、子どもたち、そして保護者に対して、虫歯や食生活を見直すための歯科検診や健康教室を実施しました。
アルハンガイ県ツェツェルレグ市の公立学校での健康教室の様子 ⓒSave the Children Japan
アルハンガイ県は、首都ウランバートルから477km離れている人口およそ99,000人の県で、ツェツェルレグ市はその県庁所在地です。タリヤット村は、アルハンガイ県の19ある村の1つであり、ツェツェルレグ市から160km離れた人口1,300人程度の小さな村です。 アルハンガイ県は、乾燥したモンゴルでは大変珍しく、温泉や泉のある緑豊かな県です。モンゴルの中で最も美しい県として知られ、モンゴルのスイスと呼ぶ人もいます。緑が多いので放牧も盛んで、アルハンガイ県で作られる新鮮なチーズは、だれもが見逃せないといいます。
そんなのんびりした村の子どもたち。さぞかし健康的だろう!と思いきや・・・タリヤット村で行われた歯科検診結果に、誰もが驚きを隠せませんでした。下のグラフをご覧ください。これは、タリヤット村の公立幼稚園に通う2〜4歳の園児、合計98人の歯科検診結果です。
タリヤット村にある公立幼稚園での歯科検診の様子 ⓒSave the Children Japan
虫歯が全くない園児は98人中17人しかいませんでした。それだけではなく、虫歯を持っている8割以上の子ども達は、平均すると1人6本以上も虫歯を持っています。この年代の子どもが通常20本の乳歯を持っているとすると、3割の歯が虫歯。4歳の園児については、実に半分近くの歯が虫歯という結果になりました。
今回の歯科検診チームの代表である黒田歯科医師のお話です。
園児の歯科検診を行う黒田先生 ⓒSave the Children Japan
「なぜ子どもたちに、こんなに虫歯が多いのか?と驚かれた方もいらっしゃるかと思いますが、実は日本も昭和30年代ごろはそうでした。初めは都会の子どもたちに、その後田舎の子どもたちへと、虫歯は広がり、虫歯が急増したのです。
その後、国や地方自治体を中心に様々な予防活動が行われました。例えば、1歳半・3歳児健診に併せての歯科検診、幼稚園・保育所・学校歯科保健での教育活動、メデイアによる広報活動、そして歯科関係者等の様々な努力で、都会の子どもたちの虫歯が減少し始め、遅れて田舎の子どもたちの虫歯も減少し始めました。日本全国の子どもたちの虫歯が減少するようになるまでに、40年〜50年かかっています。
日本で虫歯が急速に問題となった原因は3つあります。1つ目が、夜更かし、朝寝坊、不規則な食事といった子どもの基本的生活の乱れがあります。2つ目に、甘い嗜好品の食べ方がありますが、これは甘いものが手に入るようになり、だらだらと不規則に食べるようになったためです。そして最後に、口腔内を清潔に保つ方法や歯磨きの方法などの知識が不十分であったことが挙げられます。
モンゴルでも、定住生活が進んだことによって、基本的生活習慣が変化しました。また、急激な発展によりいろいろな食べ物が簡単に手に入るようになり、食生活が変化しました。簡単な調理方法で食べられるインスタントラーメンなどの食品や、調理しなくても食べられるサンドイッチや菓子パンなどの食品も多く売られるようになりました。
嗜好品も安易に購入できるようになりました。ジュースは水よりも安価で購入できるようになり、ケーキ屋さんもあちこちで見かけるようになりました。どんな田舎の町でも、売店やスーパーではお菓子やジュースが山のように売られています。
しかし、虫歯についての知識はどうでしょうか?また虫歯予防のための適切な歯ブラシは使われているでしょうか?日本の昔と同じ事態が起こっているように感じています。
さらに、公的機関による乳幼児健診、学校歯科健診という制度がなく、定期的な歯科検診、健康教育などの予防活動は殆ど行われていません。ウランバートル市以外のほとんどの県には歯科医師が数名しかおらず、検診・予防に加えて、適切な治療を受けることも難しい状況です。モンゴルの子どもの虫歯の急増は深刻な事態を迎えています。
私たちの歯科検診チームは、毎年2-3回、ウランバートル市内や地方の村で歯科検診を行っていますが、このような子どもたちの虫歯の状況は、タリヤット村にだけみられるような特別なことではなく、他の村でも同じように深刻な問題になっています。歯科治療や教育が進みつつあるウランバートルの子どもの方が、状況は多少良い傾向にあるかもしれません。
子どもの生活習慣の乱れは、まず口腔内に虫歯、歯肉炎、歯並びといった形で現れ、そして次に全身の健康が蝕まれることにつながります。虫歯予防 は生活習慣の改善から始まることを思えば、口腔内の健康を守ることは全身の健康を守ることと同じだと思っています。」
今回、黒田先生率いる歯科検診チームは、ツェツェルレグ市とタリヤット村に約1週間滞在し、およそ120名の園児と80名の1年生〜3年生の児童に対して、歯科検診、フッ素塗料を行いました。また、保護者も対象に、虫歯についてや歯磨き指導の講義を行いました。講義は人形劇やダンスを取り入れた内容で、楽しみながら興味を持って聞くことが出来るように工夫されていました。
ツェツェルレグ市の小学校で行われた歯科検診の様子 ⓒSave the Children Japan
講義に集まったツェツェルレグ市の小学校の保護者たち ⓒSave the Children Japan
さらに、アルハンガイ県の住民自らの手で保健指導が行われていくよう、学校、幼稚園、病院職員に対して、保健指導の教材の作り方や使い方の講義を行いました。
教材を作るツェツェルレグ市の学校・幼稚園・病院職員 ⓒSave the Children Japan
作った教材を実際に使用して指導方法を学ぶタリヤット村の幼稚園職員 ⓒSave the Children Japan
更にアルハンガイ県の保健課や教育課の職員に対して、実際の口腔内写真を見せながら今回の検診結果の報告を行いました。県職員もこの状況を深刻な問題であると捉え、今後4年間、虫歯予防について集中的に取り組もうという話し合いがなされました。この様子は、地元テレビ局によって放映され、視聴者の関心を集めることができました。
検診結果を関係者に報告する黒田歯科医師(右) ⓒ Save the Children Japan
今回のこの歯科検診や健康教室は、「日本モンゴル文化経済交流協会(大阪)」および「エネレル歯科病院(ウランバートル市)」のご協力により実現しました。
これからも、アルハンガイ県職員の方々と協力しながら、子どもたちの健康を守る活動に取り組んでいきたいと思います。
事業分類:【保健支援】
アルハンガイ県タリヤット村で行われている事業は、皆さまからのご寄付およびデナンプロジェクトからの助成により実施しています。
(報告;モンゴル事務所 柴田)
モンゴル事務所が支援活動を展開している、アルハンガイ県ツェツェルレグ市と、同県タリヤット村に、日本モンゴル文化経済交流協会の歯科検診チームを招き、小学校や幼稚園の先生、子どもたち、そして保護者に対して、虫歯や食生活を見直すための歯科検診や健康教室を実施しました。
アルハンガイ県ツェツェルレグ市の公立学校での健康教室の様子 ⓒSave the Children Japan
アルハンガイ県は、首都ウランバートルから477km離れている人口およそ99,000人の県で、ツェツェルレグ市はその県庁所在地です。タリヤット村は、アルハンガイ県の19ある村の1つであり、ツェツェルレグ市から160km離れた人口1,300人程度の小さな村です。 アルハンガイ県は、乾燥したモンゴルでは大変珍しく、温泉や泉のある緑豊かな県です。モンゴルの中で最も美しい県として知られ、モンゴルのスイスと呼ぶ人もいます。緑が多いので放牧も盛んで、アルハンガイ県で作られる新鮮なチーズは、だれもが見逃せないといいます。
そんなのんびりした村の子どもたち。さぞかし健康的だろう!と思いきや・・・タリヤット村で行われた歯科検診結果に、誰もが驚きを隠せませんでした。下のグラフをご覧ください。これは、タリヤット村の公立幼稚園に通う2〜4歳の園児、合計98人の歯科検診結果です。
タリヤット村にある公立幼稚園での歯科検診の様子 ⓒSave the Children Japan
虫歯が全くない園児は98人中17人しかいませんでした。それだけではなく、虫歯を持っている8割以上の子ども達は、平均すると1人6本以上も虫歯を持っています。この年代の子どもが通常20本の乳歯を持っているとすると、3割の歯が虫歯。4歳の園児については、実に半分近くの歯が虫歯という結果になりました。
今回の歯科検診チームの代表である黒田歯科医師のお話です。
園児の歯科検診を行う黒田先生 ⓒSave the Children Japan
「なぜ子どもたちに、こんなに虫歯が多いのか?と驚かれた方もいらっしゃるかと思いますが、実は日本も昭和30年代ごろはそうでした。初めは都会の子どもたちに、その後田舎の子どもたちへと、虫歯は広がり、虫歯が急増したのです。
その後、国や地方自治体を中心に様々な予防活動が行われました。例えば、1歳半・3歳児健診に併せての歯科検診、幼稚園・保育所・学校歯科保健での教育活動、メデイアによる広報活動、そして歯科関係者等の様々な努力で、都会の子どもたちの虫歯が減少し始め、遅れて田舎の子どもたちの虫歯も減少し始めました。日本全国の子どもたちの虫歯が減少するようになるまでに、40年〜50年かかっています。
日本で虫歯が急速に問題となった原因は3つあります。1つ目が、夜更かし、朝寝坊、不規則な食事といった子どもの基本的生活の乱れがあります。2つ目に、甘い嗜好品の食べ方がありますが、これは甘いものが手に入るようになり、だらだらと不規則に食べるようになったためです。そして最後に、口腔内を清潔に保つ方法や歯磨きの方法などの知識が不十分であったことが挙げられます。
モンゴルでも、定住生活が進んだことによって、基本的生活習慣が変化しました。また、急激な発展によりいろいろな食べ物が簡単に手に入るようになり、食生活が変化しました。簡単な調理方法で食べられるインスタントラーメンなどの食品や、調理しなくても食べられるサンドイッチや菓子パンなどの食品も多く売られるようになりました。
嗜好品も安易に購入できるようになりました。ジュースは水よりも安価で購入できるようになり、ケーキ屋さんもあちこちで見かけるようになりました。どんな田舎の町でも、売店やスーパーではお菓子やジュースが山のように売られています。
しかし、虫歯についての知識はどうでしょうか?また虫歯予防のための適切な歯ブラシは使われているでしょうか?日本の昔と同じ事態が起こっているように感じています。
さらに、公的機関による乳幼児健診、学校歯科健診という制度がなく、定期的な歯科検診、健康教育などの予防活動は殆ど行われていません。ウランバートル市以外のほとんどの県には歯科医師が数名しかおらず、検診・予防に加えて、適切な治療を受けることも難しい状況です。モンゴルの子どもの虫歯の急増は深刻な事態を迎えています。
私たちの歯科検診チームは、毎年2-3回、ウランバートル市内や地方の村で歯科検診を行っていますが、このような子どもたちの虫歯の状況は、タリヤット村にだけみられるような特別なことではなく、他の村でも同じように深刻な問題になっています。歯科治療や教育が進みつつあるウランバートルの子どもの方が、状況は多少良い傾向にあるかもしれません。
子どもの生活習慣の乱れは、まず口腔内に虫歯、歯肉炎、歯並びといった形で現れ、そして次に全身の健康が蝕まれることにつながります。虫歯予防 は生活習慣の改善から始まることを思えば、口腔内の健康を守ることは全身の健康を守ることと同じだと思っています。」
今回、黒田先生率いる歯科検診チームは、ツェツェルレグ市とタリヤット村に約1週間滞在し、およそ120名の園児と80名の1年生〜3年生の児童に対して、歯科検診、フッ素塗料を行いました。また、保護者も対象に、虫歯についてや歯磨き指導の講義を行いました。講義は人形劇やダンスを取り入れた内容で、楽しみながら興味を持って聞くことが出来るように工夫されていました。
ツェツェルレグ市の小学校で行われた歯科検診の様子 ⓒSave the Children Japan
講義に集まったツェツェルレグ市の小学校の保護者たち ⓒSave the Children Japan
さらに、アルハンガイ県の住民自らの手で保健指導が行われていくよう、学校、幼稚園、病院職員に対して、保健指導の教材の作り方や使い方の講義を行いました。
教材を作るツェツェルレグ市の学校・幼稚園・病院職員 ⓒSave the Children Japan
作った教材を実際に使用して指導方法を学ぶタリヤット村の幼稚園職員 ⓒSave the Children Japan
更にアルハンガイ県の保健課や教育課の職員に対して、実際の口腔内写真を見せながら今回の検診結果の報告を行いました。県職員もこの状況を深刻な問題であると捉え、今後4年間、虫歯予防について集中的に取り組もうという話し合いがなされました。この様子は、地元テレビ局によって放映され、視聴者の関心を集めることができました。
検診結果を関係者に報告する黒田歯科医師(右) ⓒ Save the Children Japan
今回のこの歯科検診や健康教室は、「日本モンゴル文化経済交流協会(大阪)」および「エネレル歯科病院(ウランバートル市)」のご協力により実現しました。
これからも、アルハンガイ県職員の方々と協力しながら、子どもたちの健康を守る活動に取り組んでいきたいと思います。
事業分類:【保健支援】
アルハンガイ県タリヤット村で行われている事業は、皆さまからのご寄付およびデナンプロジェクトからの助成により実施しています。
(報告;モンゴル事務所 柴田)