日本/東日本大震災/子どもの保護(公開日:2013.06.12)
子どもたちをあらゆる「暴力」から守る 〜CAPプログラムの大切さ〜 (2013.06.13)
「暴力」と聞いてみなさんは何を思い浮かべるでしょうか。「なぐる」「ける」などの行為だけでなく、心を深く傷つけることも「暴力」です。いじめ、痴漢、誘拐、虐待、性暴力など、さまざまな暴力から子どもたちを守るために、子どもたち自身が知識と自信を身につけるプログラムがCAPプログラムです。CAPとは、Child Assault Prevention(子どもへの暴力防止)の頭文字をとったもので、子どもたちを暴力から守るためのたくさんの知恵が詰まっています。
5月30日、岩手県山田町の山田南小学校放課後児童クラブで、CAPプログラムが行われました。これまで被災地での支援活動に取り組んできた日本ユニセフ協会とセーブ・ザ・チルドレンとの初の協働プログラムとして実施。ユニセフ協会が協働でCAP研修を行っているJ-CAPTA(ジェイ・キャプタ)より講師を迎えました。今回のプログラムは、岩手県の5つ地域(大船渡市、陸前高田市、釜石市、大槌町、山田町)の学童指導員や学童の運営に関わる方々を対象に、5月27日から3回にわけて行われました。3日間で、合計81名(指導員75名、他行政関係者等)が本プログラムに参加しました。30日の研修では、普段から子どもをサポートする立場にある大人向けに、CAPの基本的な考え方を理解するプログラムが実施されました。
まずは、CAPの基本アプローチについて。従来の暴力防止の方法は「〜してはいけません」という禁止や行動の制限だったのに対し、CAPでは「〜ができるよ」という行動の選択肢を広げる方法でアプローチします。これは、子どもをおとなが守るべき弱い存在とはとらえず、子どもの本来持っている力を信じることが基礎となっています。子どもは誰でも、「安心して」「自信を持って」「自由に」生きるという3つの権利を持っていることを伝え、この大切な権利を守るために暴力に立ち向かう意識を高め、「あんしん」「じしん」「じゆう」の権利が奪われそうになった時にできることを一緒に考えます。
具体的には、(1)NO(「いやだ」と言う)、(2)GO(逃げる、その場を離れる)、(3)TELL(相談する)という自分を守る方法を学びます。
そして、簡単な寸劇を通して、「いやだ」と言ってもいいんだ、「逃げて」いいんだ、「誰かに相談して」いいんだ、ということを学びます。例えば、クラスの子が「通学の時には僕のかばんを毎日持てよ」と嫌がることをやらせることも「暴力」のひとつだと学びます。そして、勇気を持って「いやだ」と伝えること、伝えにくい時は友だちと一緒に言うこと、また先生や保護者など大人に相談することの大切さについて、ロールプレイを通して理解します。
「このかばん持てよ」「いやだよ!自分で持ちなよ」「そうだよ、嫌がっていることをしてはいけないよ」
今回セーブ・ザ・チルドレンからは遠野事務所のスタッフ桜井が参加し、学童指導員の皆さんの輪に混ざり、積極的にワークショップや議論をご一緒させてもらいました。
桜井からは、「机を取り払って席を配し、子どもたちの実情に即したワークショップがふんだんに盛り込まれ、指導員同士での会話の時間が多く取られていたので、和気あいあいとした雰囲気の中、楽しく、それでいて自然と学べる研修の機会となった。」という感想が。また、トレーナーの石附さんについて「学童に対して理解を持ち、指導員の置かれる状況に寄り添った発言をしていたことが非常に印象的だった。今後の活動に生かしたい。」と話していました。
「随時、指導員からのコメントや感想が引き出され、質疑応答が交わされており、参加型で満足度の高い研修だったと感じます」と桜井。
また、参加した学童指導員の先生からは、以下のような声が聞かれました。
*「暴力」について学んだ。心を傷つけることも暴力。自分は大丈夫かなと振り返った。
*学童という場所で子どもたちへどう対応すべきか、改めて考える機会になった。まず「聴く」は大事ですよね。
*子どもたちへの言葉がけの大切さを再確認できた。
*基本研修だけでなくて、中学生プログラムや障がいのある子どもたちへのプログラムなど、
ほかのバージョンも是非受けてみたいと思った。
*ちょうど紹介されたワークショップ事例に該当する状況があったので、大変参考になった。研修の学びを活かして、実践していきたい。
和やかなムードの中、活発な意見や感想が飛び交いました。
放課後学童クラブの存在は、学校と家庭の間にある子どもたちにとっては、ほっと一息できる場所、素に戻ることができる場所です。学童指導員の先生方は、普段からこうした子どもたちの声を聞き態度に触れる機会の中にあります。子どもたちへの暴力を防ぐには、子どもたち自身が自分の身を守る方法を知ることも大事ですが、周りの大人が理解を示し、子どもの話を聞き、気持ちを受け止め、子どもの立場に立って一緒に考えることが大切なのです。
「子どもたちは家では親に叱られ、いい子でいなければいけないというプレッシャーを感じています。また学校では、評価をされる対象となるため、大人しいよい子を演じざるを得ない。そのため、子どもたちは学童で、自分を出して発散します。大人に甘えたい、注目を浴びたい、構われたいという欲求にかられています。だからこそ、学童指導員の皆さんは大変な苦労を伴う仕事をされることになりますが、ものすごく大切な役割を担っているのです。」トレーナーの石附さんからの言葉は参加した学童指導員の皆さんの心に響いたことでしょう。
一方で、まだまだ課題もあります。実際の現場で起きている様々な深刻ないじめに対して、今回の研修を通じて対処を図ることに、限界があることも事実です。このような研修での学びを、どのように実際の場で活かすのか、もしくは、どのようにすれば、より実践的な研修の機会を提供できるのか、今後も検討していく必要があります。セーブ・ザ・チルドレンは引き続き子どもたちのより良い環境づくりのために、学童指導員の先生方に役立つような研修を継続していきたいと思っています。
(報告: 東日本大震災復興支援事業部 及川)
<現場から 5月の山田だより>
シロツメクサがまぶしい、初夏を感じる山田町。
壊れた防波堤の修復も進みますが、まだまだ完全な復興には時間が必要です。