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日本/子どもの貧困問題解決
(公開日:2019.09.20)

【活動報告】教育の私費負担を考える超党派勉強会を開催しました

 
9月に入り各地の学校が新学期を迎えたこの時期、学校で必要な持ち物などを見直された人も多いかと思います。小学校・中学校の義務教育にあっても、各家庭で購入しなくてはならない通学用品や体操着といった学用品をはじめ、学校生活に必要なものは多くあります。




こうした学校での学びに必要な費用は「学習費」と呼ばれ、学習費が家計を圧迫している実態については、セーブ・ザ・チルドレンの給付金事業調査などを通して、これまで多くの子どもや保護者から声が寄せられてきました。こうした現状を受け、セーブ・ザ・チルドレンは今年の通常国会中の6月13日に、「教育の私費負担を考える超党派勉強会『就学援助制度の今を知る』」を開催しました。




「就学援助制度」は、義務教育における学用品費や学校給食費、クラブ活動費、修学旅行費などの家計支出を補う公的サービスで、全国で毎年140万人を超える子どもたちに活用されています。市町村ごとに対象者や基準額などが異なるため、「うちは対象かな?」と思われる人は、ぜひお住まいの自治体(教育委員会)まで問い合わせてみてください。


今回の勉強会は、制度の現状と課題を学び、教育における家計負担(私費負担)を減らす方法を考えること目的に、セーブ・ザ・チルドレンの主催、超党派の国会議員による呼びかけ、そして「子どもの貧困対策推進議員連盟」の共催により開催されました。



当日は、国会議員14人、代理出席者や党政策担当部署など25人、そしてオブザーバー参加者など56人、計95人が参加しました。勉強会では、行政担当者、研究者、学校関係者からの発表や、支援団体などによる発言を受け、国会議員による意見が交わされました。

※勉強会のプログラム詳細は、こちらをご覧ください。


◆地域間の支援格差が「子ども同士の格差」に /

そもそも家庭が負担する教育費が高い・・・



文部科学省の修学支援プロジェクトチーム・リーダー篠田智志氏は、2018年度より全国1,766市町村の7割から8割が就学援助の「入学前支給」を実施・予定している一方、導入に懸念を示す自治体もあることを報告しました。入学前支給とは、小・中学校への入学時に制服代など、多くの支出がかさむことから、入学前に就学援助費を振り込むことで、家庭が立て替える負担を軽減しようとする方法です。毎年9月から11月に案内を開始する自治体が多いとのことです。

この現状を受け、「市町村同士の連携事例などを広めることにより、入学前支給が推進されるようにしたい」、「認定基準、費目、単価が違う。各地で充実が図られるように努力を続けたい」と発言しました。



跡見学園女子大学教授鳫咲子氏は、就学援助の利用率に都道府県間で大きな開きがあり(2016年時点で25.6%から6.8%まで)、地域間の支援の差が「子ども同士の格差」になっていると指摘。県別就学援助率と子どもの貧困率を比較すると、2012年時点では24県で「支援が行き届いていない」可能性があるとのデータを紹介しました。

また、東日本大震災後から、災害時に就学援助制度を活用する仕組みが始まったことを受け、「災害時には、(地域によっては)クラスの半分くらいの子どもが使う制度になる。これを普段から使いやすいものにしておくということが重要」と発言しました。



埼玉県の川口市立小谷場中学校で事務主査を務める?澤靖明氏は、就学援助制度を知らない人がまだまだ多い現状について、「たまたま知った人だけが利用できるのではなく、権利としての就学援助制度を必要な人へ届けていくことが大事」と発言。保護者が申請できるだけでなく、学校の職権により制度申請が可能であることも周知する必要を訴えました。

そのうえで、公立中学における家計負担は全国平均約18万円(小谷場中学校では見直しや検討を重ね13万円)である一方、川口市の就学援助上限額は11万円と、構造的にどうしても支援の足りない部分が出てしまうことや、家庭によっては、まとまった金額の一時立て替えが難しいことを指摘。地域住民や学校運営協議会などにも働きかけながら、私費負担そのものを減らし、教育の無償化を目指すことの重要性を発言しました。


◆スティグマの問題 / 申請主義の壁 / 財源確保の必要性

子どもの貧困支援に関わる民間団体などからの発言も、要約して一言ずつご紹介します。



公益財団法人あすのば事務局長・村尾政樹氏「制度利用には、スティグマも非常に大きく影響している。親が制度を知っていても、祖父母が親に対して『そんなものを受けるべきでない』と言ったりすることもある。官民かかわらず、就学援助を広めていきたい」

「なくそう!子どもの貧困」全国ネットワーク世話人・三輪ほう子氏「いま大事なのは、申請を必要としない、どの子どもも安心して同じように制度を利用できるような貧困対策、そして“貧困対策”と銘打たなくても使える制度を広く普及していくこと」

全国学校事務職員制度研究会・植松直人氏「圧倒的多くの自治体は頑張っている。一番の問題は財源。制度の周知を頑張って、就学援助の認定率が2%上がれば、それだけ財源が必要になる。難しくても、2005年以前の国庫負担に戻すことが必要」



セーブ・ザ・チルドレン国内事業部プログラム・マネージャーである田代光恵からは、就学援助制度がもっと知られ活用されるよう、周知方法や支援対象の拡大などの運用改善を続けると同時に、根本的に私費負担を減らすための政策議論が必要であると提起しました。

そのうえで、就学援助制度にかかわる課題を、(1)実態把握 (2)自治体間の格差 (3)財源の確保 (4)申請主義の限界 (5)制度間連携の不足 (6)啓発 (7)政策における位置づけ の7項目に分け、それぞれについて政策・運用面で取り得るアクションを提案しました。




◆就学援助の周知・申請のあり方、すべての子どもに届く支援・・・

超党派議員による意見交換

発表を受けて、国会議員からも応答・意見が多数寄せられました。

就学援助の案内方法として、学校でクラスの子ども全員に申請書を配り、全員から回収する方法(いわゆる「全員配布・全員回収」)を採用している自治体の紹介を受けて、勉強会の呼びかけ人の一人である富田茂之議員(公明党)は、希望者だけでなく子ども全員に申請書を渡し・回収することの重要性を指摘。そのうえで、この方法を一部の自治体では実施できて、他ではできていない自治体がある理由について、質問がありました。

これに対し、文科省の篠田・修学支援PTリーダーは、「単純に知らないからだと思われる。文科省からも『こういう取り組みもあります』と伝えていかなければならないと考えている。全員配布・全員回収を広げていきたい」と回答していました。



今回の勉強会の呼びかけ人を務めた、馳浩議員(自民党)吉良よし子議員(日本共産党)福島みずほ議員(社民党)も、子どもの貧困解決のためにも教育費の私費負担の軽減が重要であることや、困難を抱えている人ほど申請のハードルに直面しており申請しなくても利用できる施策が求められること、地域間の格差などの課題を洗い出して政府として対応していく必要性について発言しました。



同じく勉強会に出席した、中川正春議員(無所属)鰐淵洋子議員(公明党)高村正大議員(自民党)田嶋要議員(立憲民主党)高木美智代議員(公明党)渡海紀三郎議員(自民党)田村智子議員(日本共産党)からも、就学援助制度と生活保護制度の関係や申請方法の見直しに関する提起や、国際的にみて日本の教育への公的予算が少なく引き上げが必要であること、子どもの義務教育にかかる条件の差は国の責任で改善すべきとの指摘、そして、「すべての子どもを対象にすることは、必ず貧困対策になる」という考え方を大切にしたい、との意見がありました。

また、勉強会を共催した子どもの貧困対策推進議員連盟で事務局長を務める牧原秀樹議員(自民党)は、すべての子どもに手が届くよう、実務的に可能な改善を超党派で進めていきたいと発言しました。
この他に、西村智奈美議員(立憲民主党)伊藤孝恵議員(国民民主党/勉強会に出席)が勉強会の呼びかけ人を務めました。



勉強会の前日6月12日に可決・成立された「子どもの貧困対策推進法」の改正法に基づき、現在、国の行動計画にあたる「子どもの貧困対策に関する大綱」の見直しが本格化しています。

新しい大綱に、教育の私費負担を減らすための方策を反映したり、この秋以降も、教育の無償化に向けた政策議論を広げていくため、セーブ・ザ・チルドレンは、子どもたちや保護者、国会議員や省庁、学校現場、子ども・子育て支援の関係者などと協力しながら提言活動を継続して行っていく予定です。

(報告:東京事務所 松山晶)

 

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