日本/子どもの貧困問題解決(公開日:2023.03.01)
「ハロー!ベビーボックス」を利用されたIさんとKさんへのインタビュー
セーブ・ザ・チルドレンは、誕生時から「健康に、安心、安全な環境で育つ」子どもの権利を保障するため、また、低所得世帯の育児費用の負担軽減を目的として、新生児に必要な育児用品を詰め合わせた「ハロー!ベビーボックス」の提供を行っています。初回となる2022年6月に続き、同11月に実施した2回目は全国223世帯、自治体と支援団体を通して合計573箱を提供しました。
今回、「ハロー!ベビーボックス」に申し込み後、出産した東北地方に暮らすIさんと、近畿地方に暮らすKさんに、ボックスを利用した経緯や、現在の状況などについて話を聞きました。(6月実施の際のインタビュー記事はこちらから)
「産休・育休はもらっているけれども手当はわずか」 −東北地方Iさん
Iさんは、2022年10月に生まれた赤ちゃんと、パートナーの3人で暮らしています。Iさんは、産前産後休業・育児休業(以下、産休・育休)中ですが、もともとの手取りが低いため、産休・育休中にもらえる手当もわずかで生活に不安を持っています。パートナーは、光熱費は支払っていますが、家賃や生活費の大部分はIさんが負担しています。
「車のローンや奨学金の返済が残っていたり家賃もあったり。結婚してないんですけど、一緒に住んでるパートナーが家賃を出せないので、自分の給料は全部なくなる感じです。貯金/預金ができない感じです。(パートナーは)買い物してきてっていうと買ってきてくれたり、光熱費は一応払ってるんですけど、家賃は一番でかいんです。」
貯金や預金ができず、生活していくことで精いっぱいの中、妊娠中から子どもの育児用品を揃えることは経済的に大きな負担だったと言います。
「妊娠中は、本当に、子どもが産まれてからのものが買えなくて。だから、ベビーベッドとかもなくて今も寝てるんですけど。経済面がすごい・・・ないなあって思ってました。(経済面で余裕がないなと思っていた)」
経済的な不安に加え、Iさんは、精神的な不調もありました。
「私の場合は、妊娠中から色々不安がたくさんあって。メンタル面とかで、精神的に不安定な時期があって、病院に、具体的な不安とかを妊娠中から相談していました。検診のときに、すごいストレスの話していました。だから、産まれる前も、出産の準備できているのか確認のために保健師が家に来たりしていました。」
Iさんの担当の保健師は話しやすい方で、経済的な支援など色々な相談にのってくれたということでしたが、実際に利用できる制度は限られていました。
「何かと有料で・・・。多少は費用がかかったり。非課税のお家だけとかの制度があって使ってないですね。」
Iさんは働いており非課税世帯ではありませんが、もともとの給与が低く、産休・育休中の手当で生活していくことは大変と言います。一生懸命働いて収入があるがゆえ、非課税世帯ではないぎりぎりのところで制度が利用できません。生活のため育休後はすぐにでも働きたいと話していました。
「クーポンでもまかなえない高額な健診費用」−近畿地方に住むKさん
近畿地方に住むKさんは、学生の夫と保育園に通う4歳と3歳の子ども、そして生まれたばかりの赤ちゃんの5人家族です。外国から数年前に日本にやってきて、現在は夫の奨学金だけで生活しています。
以前は夫がアルバイトをして生活を支えていましたが、新型コロナウイルス感染症流行下で働くことが難しくなり、生活はぎりぎりの状態です。
また、居住する自治体では、妊婦健診のクーポンではすべてを賄うことはできず、毎回自分で払う必要があり、大変だったということです。
「妊娠・出産で使えるクーポンはあるけれど、検査代などで毎回3,000円から5,000円ほど自分で払う必要がありました。病院が遠くて、毎回往復でバス代600円かかりました。」
妊婦健診は基本的には健康保険の適用外で全額自己負担となりますが、自治体が公費で費用の助成をしています。しかしながら、助成については自治体で格差があり、Kさんは平均的な健診費用の病院に通っていたものの、現在暮らす自治体の助成では足りず毎回支払いが必要で、かつ高額です。
一方、Kさんは非課税世帯であるため、産後、自治体が提供している育児支援のサービスを無料で利用することができ、現在は毎週2回、ヘルパーの方が来て、2時間半ほど家事や育児のサポートをしてもらっているということでした。 周りに頼れる家族や親族がいないため、自治体の支援は大変役立っているとのことです。
しかし、生まれてきた赤ちゃんの服やオムツの購入も経済的な負担だと言います。
「新しい服は買わないで、上の子のお下がりをずっと使ってます。友だちからもらったりもしています。オムツは1日でたくさん使うので、すぐになくなってしまってお金がたくさんかかって大変です。」
国の新たな支援
国は、2023年4月より、妊娠・出産にかかる費用の経済的な負担軽減のため、これまで42万円であった出産育児一時金を50万円に引き上げ、また妊娠中、産後に利用できる10万円の給付を決定しました。
こうした制度については、セーブ・ザ・チルドレンとして歓迎する一方、インタビューにもあったように、妊婦健診の費用の負担や妊娠中や産後に大きく収入が落ち込む時期の生活の不安など、妊娠、出産にあたっての経済的な負担は、もともと経済的に困難な状況にある世帯に大きくのしかかります。
「ハロー!ベビーボックス」の利用者を対象に行った応募時のアンケート調査では、利用者の半数以上が無職であり、産休・育休といった公的制度を利用できない世帯が多いことが明らかになっています(アンケート結果詳細については3月上旬に公表予定)。
国の新たな支援が、こうした世帯の経済的負担の軽減にどのように役立っているのか、2023年3月以降、アンケート調査を実施する予定です。
今年度もセーブ・ザ・チルドレンは、生まれてくる赤ちゃんが健康に、安心、安全な環境で育っていけるよう、引き続き「ハロー!ベビーボックス」を通じて、誕生時からの支援や、行政による支援の拡充に向けて取り組んでいきます。
(国内事業部 北見美代)