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日本/子どもの貧困問題解決
(公開日:2024.08.20)

【インタビュー】難民の妊産婦を支援する難しさについて:認定NPO法人難民支援協会

 
セーブ・ザ・チルドレンは、誕生時から「健康に、安心、安全な環境で育つ」子どもの権利を保障するため、また、低所得世帯の育児費用の負担軽減を目的として、新生児に必要な育児用品を詰め合わせた「ハロー!ベビーボックス」の提供を行っています。


5回目の実施となった2024年春(応募期間4/17〜5/30)では、全国235世帯と自治体、支援団体、乳児院などを通して合計750箱を提供しました。




「ハロー!ベビーボックス」は応募条件の1つに、「難民申請中・仮放免中・避難民など在留資格が不安定で公的制度を利用できない妊産婦」があり、この条件に当てはまる応募は、妊産婦本人、支援団体や自治体からの応募を合わせて、毎回10件弱あります。


今回は、妊産婦を含む難民を支援する活動を行っている、認定NPO法人難民支援協会の新島彩子さんに、同協会の活動や、難民の妊産婦を支援する難しさ、国や社会に向けた思いなどを聞きました。


―難民支援協会の活動について


難民支援協会は1999年から、日本に逃れてきた難民の方を支援する活動を行っています。


活動は、直接支援、政策提言、広報の3つの柱によって成り立っており、私は直接支援の中でも難民一人ひとりへの生活支援や法的支援を行う支援事業部に所属しています。
入国直後に難民支援協会に来られる方が多いのですが、所持金も少なく、住む場所や食べるものもないということも多いです。そうした生活上の困難と同時に、難民申請をしたいけれどどうしたらいいか、どこで申請したらいいかわからない、という問題もあり、生活支援と法的支援は切っても切れない関係です。


―増加する妊産婦の難民


妊産婦の状況がここ20年で変化してきているという実感があります。
2000年代は家族で難民として逃れてきて、来日後家族で生活をしている間に妊娠出産に至る、ということが多かった印象です。その後、単身の女性の難民の方が増えたころは、日本でたまたま知り合い、助けを求めた人から日本での支援を引き換えに性的な関係を強要され、望まぬ妊娠をせざるを得ないケースが散見されました。コロナによる入国制限中は難民として逃れてくる方の数自体が減り、制限緩和後の現在の傾向としては妊娠中に日本に逃れてくる妊産婦さんが増えていると感じています。2019年以前までは、ある程度日本で生活してから妊娠する場合が多かった一方、2022年秋ごろ以降は妊娠中に日本に逃れてくる人が多くなっている印象です。最短ですと難民支援協会の事務所に訪れた2日後に出産をしたり、基礎的な情報を聞き取るインタビュー中に陣痛が起きて救急車を呼んだこともありました。




―妊産婦の難民をサポートする難しさ


難民というだけでも大変な困難ですが、妊産婦さんの場合、さらなる困難があります。まず出産のための施設を探すことが必要になりますが、ほとんどの場合保険もなく、支払い能力もなく、日本語も通じない、かつ、今まで本国で定期的な検査も受けていないことが多く、飛び込み出産のような形になります。そのような状況で受け入れてくれる病院を探すことは大変困難です。
また、出産費用については、難民でも利用できる入院助産制度※1を利用する必要がありますが、自治体によっては担当者が助産制度を知らない場合や、そもそもその自治体に助産制度を使える施設がなかったりします。そうするとまずは制度の説明から始めたり、助産施設を探す必要があります。また、同時に産後、母子が暮らしていくために、児童相談所や子ども家庭支援センターなど、多岐にわたる関係者と調整を行う必要があります。
※1 入院助産制度とは、児童福祉法第22条に基づき、経済的理由により入院助産を受けられない妊産婦に対し、都道府県などが出産費用を助成する制度です。


―難民申請中の公的支援の不十分さ


通常、難民申請を行ってから難民申請の最終的な結果が出るまでは平均して3年ほどかかります。まず、申請後2ヶ月の間に出入国在留管理庁(入管)が、難民性の高さ(難民として保護すべき緊急性の高さ)に応じて申請者をABCDに振り分けるスクリーニングを行います。最も難民性が高いとされるA案件に振り分けられれば、すぐに特定活動6ヶ月の在留資格が付与され、住民登録や健康保険への登録、就労も可能になります。アフリカから来られる単身の女性の難民でこのA案件に振り分けられる方もいます。住民登録があれば、母子手帳発行時に検診・出産のクーポンも利用することができ、産院にかかることが容易になります。
しかし、例えばD案件に振り分けられた場合、特定活動6ヶ月の在留資格が付与されるまで8ヶ月ほどかかります。その間は旅行者と同じような扱いになるため、実際は中長期的に日本に滞在しているのにも関わらず、住民登録も健康保険もなく、就労もできません。
生活が困窮している場合は、1回目の難民申請の場合に限ってですが、「保護費」を申請できます。しかし、生活保護費に比べて金額は低く、保護費認定のための審査には数ヶ月かかり、かつ、遡っての支給はされません。そして大きな問題は、この保護費は妊娠出産費用が対象外なのです。※


※詳しくは難民支援協会のウェブサイトをご覧ください。https://www.refugee.or.jp/about/nl/nl28/


―社会に知ってほしいこと、国や行政に望むこと


難民だけでなく、すべての人に共通することですが、妊娠された経緯や妊娠された方の境遇にかかわらず、生まれてくる子どもにはなんの責任もありません。子どもが生まれる前、生まれた後に、さまざまなサポートを受けることは人間として当然担保されるべきことです。
民間の団体としてできることには今後も取り組んでいきますが、国や行政にも、そのような視点に立って、産前産後のシェルターの整備や安心して出産するための医療機関の確保など、公的支援の拡充を行っていってほしいです。


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今回お話を聞いた難民支援協会では、妊産婦を含む、困難な状況にある難民への支援を行っています。入国制限緩和後に増加した難民の妊産婦への支援は、通常の難民の支援よりさらにさまざまな困難があると、新島さんは話します。
セーブ・ザ・チルドレンも、「ハロー!ベビーボックス」や「新入学サポート」、「食の応援ボックス」などで難民申請者など在留資格が不安定な方も対象として活動を行っていますが、まだまだ不十分であると感じています。民間での支援も継続していく一方で、子どもの権利の視点から、公的な制度からこうした方たちを疎外することのないよう政府や地方自治体に対して働きかけていきます。
セーブ・ザ・チルドレンは、子どもの貧困問題解決に向けさまざまな取り組みを行っています。活動の最新情報は随時こちらのページで更新しています。ぜひご覧ください。


(報告:国内事業部 鳥塚)

 

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