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アドボカシー
(公開日:2019.10.04)

偶然のスーパーヒーロー

 
8月19日「世界人道デー」に合わせ、セーブ・ザ・チルドレンの緊急保健医療ユニット*の代表ウニ・クリシュナン医師からの報告です。

人道支援に携わるのは、ごく普通の人々です。そして災害が起きているまさにその時に、期せずして人道支援に関わる人がいます。人々が真のヒーローになるのは、世界の最も困難な状況で、無償で特別な仕事をするときです。

紛争や災害の影響を受けた地域での人道支援は、人々のいのちと尊厳を守る重要な役割を果たします。これは、アカデミックな短期集中講義だけでは学ぶことができないものです。

毎年8月19日の 「世界人道デー」を迎えると、私は、2018年初めにバングラデシュ・コックスバザールで出会ったリムジム・カディザさんのような、「偶然のスーパーヒーロー」を思い出します。

リムジムさんは、セーブ・ザ・チルドレンの緊急保健医療ユニット(Emergency Health Unit、以下、EHU)が運営する保健センターで働くバングラデシュ人の若い看護師でした。

彼女は何十人ものロヒンギャ難民の子どもたちに医療を提供する忙しい日々を送っていました。やりがいのある業務であり、彼女は病気の子どもたちの世話と、多くの質問を抱える保護者たちの不安への対処と、二つの役割のバランスを探るために、最善を尽くしていました。


コックスバザールのセーブ・ザ・チルドレンEHUで働くリムジムさん

2017年半ばにミャンマーで発生した暴力から逃れて来た人たちを含め、現在、100 万人近くのロヒンギャ難民がバングラデシュのコックスバザールに住んでいます。

人道支援に従事する人たちは、必ずしも、そうなろうと思ってなるものではありません。思いがけない出来事が起き、難民の子どもたちの苦しみを目の当たりにしたことが、リムジムさんにとっては転機となりました。「難民キャンプで働くことは想像もしていませんでした」とリムジムさん 。

彼女は2018年初めに看護学校を卒業し、保健センターでの業務が彼女にとって初めての看護師としての仕事でした。また、リムジムさんはこう言います。「私は多くの人々の苦しむ姿を見てきました。ここでの仕事は、子どもたちと私自身にとってとても大きな意味を持ちます」。 リムジムさんが行うような人道支援は、しばしば難民キャンプの子どもたちにとって、生死の境を分けることになります。

人道主義者の精神とは?
2018年半ば、100年ぶりに史上最悪の洪水が南インドのケララ州を襲った際、直ちに行動を起こした漁師たちに出会いました。腕をまくり、漁船をトラックに積み、洪水被害を受けた地域に急いで向かっていました。彼らは何もない中で勇気と強い意志だけを携え 、ヘリコプターが現場に到着するずっと前に、何千人もの人々を救出しました。彼らは命を救い、人道支援の精神を行動で表しました。

偶然のスーパーヒーローになったもう一人は、同僚のカンバレ・キヴァシガさんです。 

2002年、当時カンバレさんが校長を務めていた看護大学に、暴力から逃れる数百人が避難しました。彼らは体調が優れず、怯えており、その中には子どももいました。当時カンバレさんは人道支援について何も知りませんでしたが、これを機に教育現場を離れ、緊急医療を提供することに決めました。



コンゴ民主共和国のセーブ・ザ・チルドレンEHUで働くカンバレさん

それ以来、カンバレさんは紛争、災害、疾病発生の最前線に立ち、人命救助を行ってきました。彼は現在、セーブ・ザ・チルドレンのEHUの看護師であり、これまでの1年間、コンゴ民主共和国(以下、DRC)のエボラ出血熱の流行する地域で働いています。

「エボラとの闘いは、課題の一つに過ぎません」とカンバレさんは言います。DRCの保健従事者や援助団体の職員は、複数の前線でエボラとの闘いに挑んでいます。

第一に、彼らは致死性ウイルスと闘っています。第二に、さまざまな武装グループが保健従事者や保健センターを攻撃し、保健サービスを妨害しています。第三に、誤った情報やフェイクニュースが地域社会で不信感を引き起こし、保健や人道支援従事者に対する攻撃につながっています。

DRCのエボラ出血熱の流行地域で働く保健従事者や、ケララ州で出会った漁師のような地元ボランティアは、災害発生時、最初に対応にあたる人々であり、時にはたった一人で支援を始めることもあります。

良い人道主義者とは?
今年の8月上旬、国際緊急人道支援団体マーシー・マレーシアが主催したクアラルンプールでの会議で、若い学生グループから「良い人道主義者とは?」という 質問を受けました。

人材を募集する際に、人道支援機関が応募者に何を求めているのかを学生たちは知りたがっていました。この質問に答えるのは簡単なことではありません。なぜなら、採用に、決まった公式などないのですから。

第一に、人道支援に携わる人々には、思いやりと勇気があります。第二に、彼らは明確な目的を持ち、常に良い影響を与えることができると信じています。最後に、彼らは協力的かつ楽観的で、周囲に活気をもたらします。ただ、これらの要素は、ほんの一部に過ぎません。

人道支援は、単なる職業ではなく、気持ちのあり方です。看護師や教師、医師、エンジニア、避難所やコミュニケーションの専門家であることは強みになります。しかしその強みは、人道支援に携わる人々をインスパイアする、普遍的な人道的価値や人道原則の代用にはなりません。

安全で公正なより良い世界を築くには、屈しないコミットメント、いつも変わらぬ楽観主義、思いやりのあるアプローチ、そしてプロ意識です。こういった土台を持っていることが、リムジムさん、カンバレさんやケララ州で出会った漁師のような人々を、特別な人道主義者、すなわちスーパーヒーローにするのです。

*EHUは、人道的な環境で救命救急や保健・医療支援を行うセーブ・ザ・チルドレンのグローバルチームです。

■ウニ・クリシュナンによる報告
インド南部ケララ州の洪水から学ぶ7つの教訓(2019年10月8日)
【世界人道デー】思いやりと協働−人間性を前進させるアイディア(2018年8月17日)


 

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