アドボカシー(公開日:2016.06.01)
2015年世界栄養報告セミナー
2016年4月25日、2015年世界栄養報告(2015Global Nutrition Report)の日本語版出版を記念して、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン、日本リザルツ、ワールド・ビジョン・ジャパン、栄養不良対策行動ネットワークの4団体共催にて、セミナーを開催しました。
昨年のセミナーに引き続き、2回目の開催となりましたが、今年はG7伊勢志摩サミット、リオ・オリンピックにおける「成長のための栄養」サミット(N4G:Nutrition for Growth)、第6回アフリカ開発会議(TICAD VI)と、栄養がクローズ・アップされる機会が続くため、それぞれの現場で栄養改善に取り組む関係者に、世界の栄養不良の現状を伝え、同じ目標を持って行動を起こしていく必要性を訴えることが主な目的でした。
また、4団体が構成する「栄養改善のための国際官民連携プラットフォーム」の目的の一つに、「様々なパートナーを結びつける」というものがあり、セミナーやレセプションを通じて、様々な栄養関係者を結びつけ、連携強化を図りたいという希望もありました。
一人目は国際食糧政策研究所(IFPRI: International Food Policy Research Institute)でシニア・リサーチ・フェローのローレンス・ハダッド(Lawrence Haddad)氏。2015年世界栄養報告の筆頭執筆者であるハダッド氏より、本報告書の内容について報告がありました。
ハダッド氏は、栄養改善への投資が必要な理由として(1)人権、特に栄養改善を自ら訴えることができない子どもたちの人権、(2)5歳未満児の死亡率低下、(3)次世代への投資、(4)栄養改善のための1ドルの投資に対して16ドルのリターンがあるという、経済的な恩恵をあげ、人権としても経済的にも世代を超えた投資が必要であることを唱えました。また、現在は世界の45%の国々で、栄養不良・低体重・発育阻害の問題と肥満・糖尿病の問題が並立するNewNormalの時代であり、それぞれの対応が必要なことも強調されました。
目標達成を側面から支援していくためには、十分で完全なデータの収集、微量栄養素プログラムの拡大、農業・教育・保健・社会的な保護分野への支援を通じた間接栄養支援、効果的なプログラムへの支援拡大が必要です。
世界銀行の最新の推計では、2015年までの今後10年間でWHAの目標達成に向けて、各国政府では2倍に、ドナーは4倍に拠出を増やす必要があるとしています。OECD/DAC統計によれば、2014年に日本は約57万ドルを直接的な栄養支援に充て、世界第4位となっています。しかし、2013年には109万ドル拠出していたことを考えると、どうすればそのレベルに戻すことができるかが課題です。日本は2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、世界的な栄養改善を強化していくことを日英、日伯共同声明において確認していますが、それを待たずにリーダーシップを発揮して頂けることを切に願っています。」
次に、スケーリング・アップ・ニュートリション(SUN:Scaling Up Nutrition)のフローレンス・ラズベン(Florence Lasbennes)事務局長より世界の栄養の潮流とSUNの役割について報告がありました。
「SUNはドナー、国連、民間企業、市民社会がそれぞれネットワークを形成し、事務局が全体をとりまとめています。SUNの加盟国は途上国だけで57カ国に上り、世界中の発育阻害の子どもたち8,500万人の半分をカバーしています。直接的及び間接的な支援の双方が一丸となって初めて、大きなインパクトをもたらすことができます。しかし、解決策としては、一つの原則がある訳ではなく、それぞれの国・地域・村のニーズに応じて対応しなくてはなりません。また、栄養改善を可能とする環境整備も重要です。更に、間接的な支援として、医療支援に影響を与えていきたいと思います。SUNは、国会議員、市民社会、学術界など誰でも参加できます。ぜひ共に栄養改善の説明責任を果たしていきましょう。」
更に、ブラジル国立アマゾン研究所(INPA: Instituto Nacional de Pesquisas da Amazônia)のディオニシア・ナガハマ(Dionisia Nagahama)研究員より、リオ・オリンピック・パラリンピックの機会を活用して実施される「成長のための栄養」サミットの概要について報告がありました。本イニシアティブは2012年のロンドン・オリンピック・パラリンピックの際に開始され、それぞれ開催国であるブラジルと日本に引き継がれています。
「栄養サミットの目的は、国際的に合意された栄養に関するグローバルな目標実現に向けた行動について話し合いを加速させ、政治的コミットメントを強化させ、国際的合意目標への到達を促進することにあります。また、個別目標として、食料栄養安全保障分野のグローバル・リーダーとしてブラジルの地位を確立し、栄養に関する行動課題を推進すること、南南協力の機会創成、北(先進国)/新興国/南(途上国)間の三角協力の推進などがあります。
本イニシアティブの実施にあたっては、(1)食料の入手可能状態とアクセス、(2)健康への統合的サービス、(3)健康的環境、(4)情報・教育・コミュニケーションの4つの課題を指針とします。具体的な活動内容としては、(1)リオ・オリンピック・パラリンピック中のイベント開催(ハイレベル会合、メディア向け大衆料理コンテスト、アプリ開発)、(2)国内/国際フォーラムの実施(2014−2016)、(3)公的政策形成のための科学的知見の形成(研究者ネットワーク形成)、(4)経験交流(学校給食プログラムのグッド・プラクティス共有、議員や裁判官のネットワーク構築)の4つを行います。これらを通じて、ハイレベル政治関係者が栄養の重要性について啓発され、コミットメントを再確認すること、セクター横断的な栄養不良対策プログラムの確立、南北・南南協力と経験交流メカニズムの確立などを成果とし、国際開発分野において栄養が最優先課題の一つとなりうることを長期的な成果としたいと考えています。」
また、セミナーでは開催4団体より、(1)日本政府による栄養分野への投資拡大(2016年−2020年の5年間で1000億円)、(2)食料安全保障・農業・栄養への投入を一貫してモニタリングできる枠組の構築、(3)「成長のための栄養」サミットへのコミットメント強化、(4)様々なアクターの活動を加速化し、相乗効果を図るために、モニタリング評価、調査研究、情報共有、政策支援などを行うための体制確立への支援を提言し、日本政府への期待を示しました。
フロアからの発言として、内閣官房健康・医療戦略室の飯田圭哉次長より、アフリカの母子の栄養改善に向けた官民連携の取組について紹介がありました。また、外務省国際協力局国際保健政策室の日下英司室長からは、日本が押し進めてきた「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの達成」という観点から栄養が重要であること、また、国連の「持続可能な開発目標(SDGs: Sustainable Development Goals)」及びWHOの「国際栄養目標2025(Global Nutrition Target 2025)」の達成に当たって、これまで国際機関及び二国間協力を通じて様々な取組を実施してきたが、栄養の課題は広範囲に及び、NGO・市民社会・産業界・アカデミアなどの関係者と共に協力して進めていかなくてはいけないことが述べられました。
最後に、主催者としてセーブ・ザ・チルドレン・ジャパンの千賀邦夫事務局長より、各団体がそれぞれの強みや特性を活かして、世界の栄養改善に取組んでいくことが急務であり、NGOとしてもその責任を果たしていきたい旨述べました。
当日は政治家、省庁関係者、大学関係者、国連、企業、NGOなど、約200名の参加があり、国際栄養の課題に対する関心の高さがうかがえました。
国立ブラジル研究所のナガハマ氏の報告にもありましたように、日本、イギリス、ブラジルは2013年にロンドンで開催された「成長のための栄養」サミットの流れを受け継ぎ、リオ及び東京オリンピック・パラリンピックに向けて栄養改善の取組を強化しています。これから2020年に向けて栄養に関する世界的な関心はますます高まっていくことでしょう。私たちも引き続き、日本政府、他の栄養パートナーと協力しながら、栄養不良の課題解決に向けた働きかけをしっかりとやっていきたいと思います。
セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン
地引英理子
セミナー議事録はこちら 1464833871339.pdf
ローレンス・ハダッド氏の報告はこちら 1464838111511.pdf
フローレンス・ラズベン氏の報告はこちら 146483817132.pdf
ディオニシア・ナガハマ氏の報告はこちら 1464837994745.pdf