アドボカシー(公開日:2020.09.08)
学校に爆弾が撃ち込まれる−教育を守るための世界的な取り組み「学校保護宣言」
【攻撃される教育】
教室で黒板に文字を書く少年。後ろにはがれきが散らばっています。これは、シリア北東部イドリブ県にある学校です。シリアでは、2011年から国内で武力衝突が起こっています。繰り返し起こる戦闘により、この学校も破壊されました。
紛争下では学校や通学路が危険と隣り合わせです。
・イエメンでは、スクールバスが空爆を受け、少なくとも30人の子どもが殺害される事件がおきました。
・シリアでは、2019年から2020年にかけ、たった4ヶ月間に戦闘で少なくとも217校が壊されたり、使えなくなったりしています。これは平均すると、1日当たり2校です。
・カメルーンの一部の地域では、生徒や教師が日常的に誘拐されたり、恐喝されたりしています。
・ミャンマー西部ラカイン州では、軍が基地や兵士が生活する場所として学校を利用しています。
ここ5年間(注1) で、教育への攻撃は1万1,000件以上にのぼります。そして、世界中で2万2,000人以上の生徒と教員が被害を受けました(注2)。
「(学校が攻撃を受けた後)家に戻りました。とても恐ろしかったので、もう学校に戻らないと決めました。そしてもう決して学校に戻らないと両親に話しました。(攻撃があった)以前は、一生懸命勉強して(弁護士になるという)夢を実現しようと思っていました。でも今、学校が攻撃されるという経験をして、そういう気持ちを完全に失ってしまいました。」ーハウワさん(16歳)(注3)
安全であるはずの学校への攻撃は、建物だけではなく、多くの子どもたちの未来や夢を破壊しています。
【教育を攻撃から守る国際デー】
こうした世界の状況を受け、教育を攻撃から守ろうと、9月9日を「教育を攻撃から守る国際デー(International Day to Protect Education from Attack)」 とすることが、国連総会で全会一致で決まりました(注4)。
今、世界では6人に1人の子どもが紛争地域で暮らしています(注5)。 どのような状況にあっても子どもたちから教育を受ける権利を奪ってはならない。9月9日はそのことを世界に広く知らせ、行動を起こすことを呼びかける日となりました。
【学校が攻撃される理由―学校の軍事利用】
学校が攻撃される理由はいくつかありますが、その大きな理由の一つに、学校が軍事上の目的で利用されているからということがあります。
軍事上の目的で利用されるというのは、例えば学校を軍の基地として占拠するなどがあります。人が暮らす家よりも、校舎は頑丈です。また、学校には上下水道や、調理する場所も整備されています。教室として部屋が複数あり、広い校庭もあります。
そのため学校は、軍事基地としてだけではなく、兵舎、捕虜などを拘留・尋問する場所として使用されやすくなっています。また、食料や武器保管庫、射撃訓練場などとしても利用されることもあります。
教室から持ち出した机を使う兵士。この学校がある地域の3つの学校は、兵士が来るようになったことや教師の不足、武装勢力間の緊張の高まりを受け、2013年以降閉鎖されている。中央アフリカ共和国、2017年3月。
軍事利用された学校は、敵対する相手からの攻撃の対象となります。結果として、生徒や教員は攻撃に巻き込まれて死亡したり、傷を負ったりする危険性と隣り合わせの日々を送ることになります。軍事的に利用されていたインドにある学校は、攻撃により教室の半数以上が破壊されました。
そして学校に兵士がいると、子どもたちが軍隊に勧誘されるリスク、性暴力の被害にあうリスクも高まります。
学校が命の危険すら伴う、安全でない場所になってしまうことで、子どもたち、特に少女や、教員が学校に行くことをためらい、実際に行けなくなっています。結果として、教育に大きな影響を及ぼします。
【学校保護宣言−学校を守るための国際的な呼びかけ】
開校中の学校を軍事利用しないためには、各国政府に「利用しない」ことを約束してもらう必要があります。
そこで、開校中の学校の軍事利用の禁止が書かれている国際的な宣言として「学校保護宣言」がつくられました。各国政府は、この「学校保護宣言」に賛同することが呼びかけられています。宣言では、「教育の場を安全地帯にするため、私たちは最大限に努力をする。」と述べられています。
「学校保護宣言」に賛同した国は、
・開校中の学校を軍事利用してはならない
・生徒・教育が退去した後の学校の使用は学校以外の代替がなく最終手段の場合のみとする
・武装紛争下における学校を意図的に破壊してはならない
などを守ることが求められます。
2020年9月現在、104ヶ国もの国々が「学校保護宣言」に賛同を表明しています。残念ながら、日本政府はまだ賛同していません。日本政府の一刻も早い賛同表明が期待されます。
学校保護宣言全文(日本語)はこちら
「学校保護宣言」に賛同する国が増えたことで、前向きな変化が出ています(注7)。いくつかの例をあげると:
・中央アフリカ共和国では、武装勢力に占拠されていた5つの学校を開放することに成功しました。
・アフガニスタンでは、2016年に教育省が治安部隊を学校から撤退させるよう要請したことをうけ、2018年にかけて学校の軍事利用が大幅に減少しました。
・ニュージーランドでは、軍事マニュアルが改定され、教育の保護は重要だとして、絶対的な必要性がない限り教育施設の軍事利用は避けるべきだとされました。
学校を軍事利用してはならないということが、「学校保護宣言」により少しずつ浸透し、前向きな変化をもたらしています。
(注1)2015年〜2019年
(注2)"Education under Attack 2020", GCPEA, 2000年, https://protectingeducation.org/wp-content/uploads/eua_2020_full.pdf
(注3)"It is very painful to talk about:Impact of Attacks on Education on Women and Girls", GCPEA, 2019年, https://protectingeducation.org/wp-content/uploads/documents/documents_impact_of_attacks_on_education_nov_2019_lowres_webspreads.pdf
(注4)https://www.un.org/en/observances/protect-education-day
(注5)セーブ・ザ・チルドレン「Stop the War on Children〜紛争下の子どもを守ろう」特設サイト、https://www.savechildren.or.jp/stopwaronchildren/
(注6)"Education under Attack 2020", 同上。
(注7)” Practical Impact of the Safe Schools Declaration Fact Sheet, October 2019”, GCPEA, http://protectingeducation.org/wp-content/uploads/documents/documents_ssd_fact_sheet_october_2019.pdf