アドボカシー(公開日:2015.12.04)
「私たちの世界を変革する」持続可能な開発目標ってどんなもの?(第四回:目標13)
前回は、「持続可能な開発目標(Sustainable DevelopmentGoals, SDGs)」※の目標14と目標15についてご紹介しました。今回は、目標13について紹介したいと思います。
※「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals,SDGs)」:2016年から2030年までの15年間に、日本を含む世界のすべての国々が達成すべき目標。貧困・格差、気候変動などの課題について17の目標が定められている。「誰一人取り残さない」がキャッチフレーズになっている。
目標13は気候変動への対策に関する目標です。途上国であるか先進国であるかを問わず、すべての国々が地球温暖化をはじめとする気候変動の問題に対策を講じることが求められています。気候変動の問題に直面していない国はありません。各国の政府は気候変動対策についての政策や戦略を考え、予算を投じる必要があります。
この目標の重要性をより理解するため、またこの目標を達成するために注目しなければならないのが、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)と、11月30日からパリで開催されている第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)です。
UNFCCCは、1992年に国連の下で採択された、地球温暖化防止に関する条約です。この条約により、世界全体で地球温暖化対策に取り組んでいくことが合意されました。1995年以来、年に1回気候変動枠組条約締約国会議(COP)が行われており、SDGsの目標13の中でも、この条約が気候変動への対応について交渉を行う基本的な政府間対話の場であることが確認されています。1997年京都で開催されたCOP3では、これまで各国の自主的な取り組みに任されていた温室効果ガスの削減に関し、先進国による削減を法的拘束力(削減目標を守らないと罰則を科せられるもの)のあるものにした「京都議定書」が採択され、気候変動対策の大きな一歩を踏み出したと言われています。
しかし、その後の途上国の急速な開発・発展により、温室効果ガスの排出を削減しなければならないのは先進国だけとは言えない状況になってきました。途上国の参加なしには十分な気候変動対策ができなくなっているのです。このまま温室効果ガスの排出が続けば、100年後には地球の平均気温が産業革命前と比べて4度上がるといわれています。これを2度未満に抑えるという目標が、現在の国際的な合意です。しかしこれを実現するためには、現在の地球全体の温室効果ガスの排出量を40~70%削減する必要があり、最終的には排出量をゼロにまでしなければなりません。途上国・先進国の垣根を越えた包括的な枠組みが必要であることがこの事実からも分かります。
以上のような状況をもとに、今後の気候変動対策の世界の動向を決定づける重要な機会が、11月30日にパリで始まったCOP21です。この会議では、京都議定書に代わる、新たな2020年以降の気候変動に対する取り組みの国際的な合意が形成されることになっています。
この新たな合意が、「拘束力ある合意」となることが求められていますが、今まで先進国のみに課せられていた削減目標について、すべての国が対象となる新しい体制に気候変動枠組条約が移行するのは簡単なことではありません。近年は途上国間での経済格差も顕著になっており、交渉は難航することが見込まれますが、ここで合意が得られなければ、地球温暖化の進行を抑えることはますます難しくなってしまいます。
よってCOP21では、それぞれが課せられる削減目標が公平であると各国が納得して合意することが、何よりも重要になります。また、すべての国が地球温暖化対策に向けて対策を講じるような永続的な仕組みづくりを行うことも大切です。これまで様々な議定書や合意が単発的に乱立していましが、より長期的な目標を定めたり、その目標に向けて各国の削減目標の達成度合いをモニタリングするシステムを構築したりすることで、気候変動対策のいいサイクルを生み出すことが必要です。
目標13は、UNFCCCでの取り組みを前提とし、全ての国々が気候変動対策をとること、気候変動による災害に対して社会の対応力・回復力を高めることが目指されています。また、途上国が気候変動への対策を講じるための資金源として2020年まで年間1000億ドルを動員すること、より開発・発展から取り残されている地域においては、女性や子ども、社会的に疎外されたコミュニティに焦点を当てることを含めた気候変動対策の計画策定・能力向上の支援を行うメカニズムを構築することもターゲットになっています。
目標13の達成に向けた取り組みが前進せず、各国が共通の目標を持たないまま温室効果ガスの排出が続き、地球の平均気温が4度上昇すると、いったい何が起きるのでしょうか。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)からの2014年の評価報告書によれば、地域間の降水量の差の増加や、海面水位のさらなる上昇、海の酸性化といった現象が起きると見込まれています。この環境の変化に耐えられずに多くの生物が絶滅リスクにさらされ、その多様性が失われるとともに、高確率で世界規模での食糧安全保障の低下が起きるといわれています。
また、気候変動は人々の健康そのものにも被害を及ぼします。例えば、ある地域では季節によっては異常な高温・多湿に見舞われ、これが農作業等の野外活動を行う人々のリスクになりえます。マラリアなどの熱帯の感染症が、これまでとは異なる地域で拡大する恐れもあります。
気候変動に伴うこうした現象は、特に貧しい人々に大きな影響を与えます。例えば、生活に必要不可欠なインフラやサービスが欠如している地域では、水不足や暑熱ストレス、海面上昇のリスクは増幅します。これらの現象が地域の人々に強制移住の必要性を迫るまでに発展したとき、計画移住のための資金が不足している途上国に住む人々は大きな危険にさらされると言えます。
さらに、気温上昇に伴い世界の経済損失が拡大するといわれています。世界経済の成長鈍化は、途上国が発展する大きな阻害要因になります。気候変動によって、途上国が貧困のから抜け出せなくなってしまう危険があるのです。
気候変動は、途上国・先進国を問わず誰もが直面している重要な課題です。現在起きている地球温暖化にほとんど寄与していなかった、最も貧しい人々や子どもたちまでもがそのリスクを負っています。地球温暖化が進んだときに一番初めに、最も危険にさらされる可能性が高いのは彼らなのです。
目標13は世界で足並みをそろえて気候変動に立ち向かうための目標です。
これを達成するうえで非常に大切な会議であるCOP21でどのような国際的合意ができるのか、ぜひ注目してみてください。
アドボカシーインターン 北畑祥子