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アドボカシー
(公開日:2019.08.09)

不完全な「恥のリスト」 紛争当事者への責任追及失敗 『子どもと武力紛争に関する国連事務総長年次報告書』発表

 
2015年3月に武力衝突が激化したイエメンでは、 2018年の1年間に、少なくとも1,689人の子どもたちが殺害、もしくは重傷を負うなど、子どもたちは、今もなお、紛争の矢面に立たされています。国連は、7月30日に、『子どもと武力紛争に関する国連事務総長年次報告書』を発表しました。この報告書によると、同国では、サウジアラビア・アラブ首長国連邦主導の連合軍による学校や病院に対する15回の攻撃や、同連合軍による空爆や地上戦により729人の子どもたちが死傷しています。

報告書では、子どもの人権を侵害している国や組織を列挙した「恥のリスト(the List of Shame)」が毎年公表されており、今年は63の紛争当事者がこのリストに連ねられています。今回発表された報告書では、サウジアラビア・アラブ首長国連邦主導の連合軍は、子どもの権利の重大な6つの侵害のうち「子どもの殺害・負傷」の行為を行ったとして、「恥のリスト」に含まれています。しかし、「学校や病院への攻撃」を行っているにもかかわらず、この行為を根拠としては、同リストで名指しされていません。

さらに、2017年から、「恥のリスト」は「リストA」と「リストB」に分けられており、リストAは、「子どもの権利の重大な侵害を行った」国や組織、リストBは、「子どもの権利侵害を行ったが、子どもが犠牲にならないよう改善の措置を取っている」国や組織を意味しています。今回、サウジアラビア・アラブ首長国連邦主導の連合軍は、より「軽い」位置づけであるリストBに分類されていますが、実際は、子どもを守るための措置がいかなるものであったとしても、それらが全く機能していないことを、この報告書自体が示していると、セーブ・ザ・チルドレンは訴えます。

加えて、私たちは、こうした状況について、サウジアラビア・アラブ首長国連邦主導の連合軍が犯した子どもの権利の重大な6つの侵害に該当するすべての行為がこの報告書に正確に反映されなかったことにより、国連事務総長が、同連合軍に紛争下における子どもの権利侵害について責任を負わせることに失敗した、と言わざるを得ません。

中東地域で活動するセーブ・ザ・チルドレン アドボカシー・メディア・コミュニケーションズ ディレクターのモハメド・アリ・アスマールは、次の通り訴えます。
「国連は、すべての紛争当事者による、イエメンの子どもたちに対する凄惨な攻撃をきちんと記録しています。しかし、その一方で、国連事務総長は、2018年にサウジアラビア・アラブ首長国連邦主導の連合軍がイエメンの子どもたちに対して犯したあらゆる重大な権利侵害をもとに、「恥のリスト」に含むことができませんでした。その結果、国連事務総長は、事実上、同連合軍に責任を取らせることに失敗し、イエメンの子どもたちは、さらに1年、自宅や学校で爆撃を受けることになります。こうした決定が示していることは、国連事務総長が子どもたちよりも政治を優先したこと、また、強力な同盟国を有する国々は、子どもたちの命を奪い生活を破壊しても処罰されないということです。

イエメンの紛争で子どもの権利を侵害する行為を行った当事者たちは、サウジアラビア・アラブ首長国連邦主導の連合軍を除いて、「恥のリスト」に入っています。同連合軍をリストに含めないという決定は、紛争の被害者への侮辱であり、アカウンタビリティーの番人としての国連への信頼を大きく損ねるものです。これは、人々の激しい怒りを生み、国連事務総長がその決定を再検討することが求められるでしょう。

世界では、およそ4億2,000万人の子どもたちが、紛争下で生活しており、毎日の生活の中で、殺害や重傷を負う、飢餓に陥るといった危機に直面しているほか、あまりにも危険すぎるために通学できず教育を継続することが困難な状況におかれています。この「子どもに対する戦争」は止められなければなりません。その唯一の手段は、紛争当事者の責任を問うことであり、国連が「恥のリスト」に記載することでそれは実現できます。しかし、今回、その貴重な機会は失われてしまいました」

サウジアラビア・アラブ首長国連邦主導の連合軍以外にも、子どもに対する重大な侵害に責任を負っているにも関わらず、2018年の年次報告書に記載されなかった紛争当事者がいます。国連事務総長は、政府軍や国際部隊が責任追及されないような行動を取り続けており、非常に憂慮すべき事態です。セーブ・ザ・チルドレンは、子どもの権利を侵害する行為を止める大きな第一歩として、国連事務総長が2019年以降の年次報告書において、すべての紛争当事者が列挙された「恥のリスト」を公表することを強く求めます。加えて、このリストに記載されるか否かの決定は、政治的圧力に左右されるのではなく、国連により立証された侵害行為の有無という事実に基づいてなされるべきです。そして、紛争当事者を「恥のリスト」から除外するという決定は、子どもに対する重大な権利侵害に取り組み、予防するための国連が示す行動計画の実施が、公的かつ唯一の道筋でなくてはなりません。

 

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